最後にまとめとして、もしドコモでのiPhone販売が決定した場合にどうなるかについて簡単に考えてみよう。

まず発売時期についてだが、日経ビジネスオンラインでは次世代iPadの登場が2012年夏、次世代iPhoneが2012年秋だとしている。これは正しい可能性が高い。次世代iPadについてはまだ情報が少ないが、もともと2012年初頭の登場が噂されていた製品であり、2012年第2四半期発売というのは妥当な線だ。また、これまでiPhoneは毎年6-7月の夏の時期に発売されていたが、iPhone 4Sのリリースは10月と1四半期遅くなっている。理由は不明だが、何らかの原因で開発サイクルがずれているものとみられる。漏れ聞こえてくる話を総合する限り、次のiPhoneが6~7月に再び前倒しされるようなスケジュールで動いている様子はなく、来年の9~10月ごろをターゲットとする可能性が高いとみられる。これまでもiPhoneは発売直後の第3四半期よりも年末の第4四半期に販売が急拡大する傾向が高かったため、秋発売というのは実はサイクル的にはクリスマス商戦を狙える好タイミングなのではないかと筆者は考える。

またドコモがiPhoneを販売した際の影響だが、おそらくKDDIやソフトバンクといった競合他社からの流出はあまり見られず、むしろドコモ内部で既存端末からiPhoneに機種変更するユーザーが多いのではないかと予想される。ソフトバンクに不満を持っていた既存ユーザーはすでにKDDIに移った可能性が高く、ドコモでの取り扱い開始が直接インパクトを与える可能性は低いと考えられるからだ。現在でもiPhone 4Sの販売比率はソフトバンクのほうがKDDIよりも高く、多くのユーザーは価格や利用料金を重要だと考えているとみられる。その意味で、ドコモがiPhoneユーザー向けの優遇料金プランを設定するといったことがない限り、直接ソフトバンクの顧客を奪うことにはつながらないだろう。

もう1つLTE対応で気になるのは、お隣の中国での動きだ。ここ数年、Appleが中国最大手のChina Mobileと販売交渉を行っていることは何度も報じられている。同社は6億の契約ユーザーを抱える世界最大のキャリアであり、どのメーカーであれ攻略したい魅力的な市場。ビジネスチャンス拡大のためにもAppleとしてはぜひとも契約を結びたい相手だと思われる。だが、China Mobileのネットワークは3GがTD-SCDMA、4GがTD-LTEと他国とは異なる規格を採用しており、これがグローバル端末の参入ネックとなっている。

現在iPhoneはいずれの規格もサポートしていないが、もし契約が成立した場合、これらに対応した専用端末をリリースしてくるだろう。世界の一般的な携帯キャリアの10倍近い顧客数を抱えているネットワークであり、専用端末を開発しても十分にペイできる可能性があるからだ。もし次期iPhoneのタイミングでAppleがChina Mobile向けの端末をリリースした場合、おそらくTD-LTEをサポートしてくるはずだ。

ここで興味深いのはソフトバンクの動きだ。同社はウィルコムを買収し、ウィルコムが2.5GHz帯で構築を進めていたXGPベースのネットワークをAXGPに改修し、下り最大76Mbpsのサービスを開始すると発表している。XGPはPHSの技術を発展させたものだといわれているが、その後継となったAXGPは実際には「TD-LTEと完全な互換を持っている」と同社の孫正義社長はサービス発表の際に述べている。ソフトバンクはChina MobileやインドのBharti Airtelと提携を結んでおり、相互運用や調達等での連携を行っていくと説明している。おそらく、AXGP向けの基地局設備や端末を、TD-LTE向けに開発を行っている中国メーカーなどから安く調達するのが狙いだ。また、現時点でそこまで狙っているかは不明だが、もしChina MobileがTD-LTEをサポートしたiPhoneを獲得した場合、これを日本向けにソフトバンクがそのまま導入する可能性もある。1年近く先の話だが、こうした背景を踏まえたうえでトレンドを追っていると、面白いものが見えてくるかもしれない。

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