米Microsoftは6月3日(現地時間)、同社インターネット検索サービスの新ブランド「Bing」を正式スタートした。また正式サービスインに合わせ、米ワシントン州シアトルで6月2-3日にわたって開催されているSearch Marketing Expo (SMX) Advancedに米Microsoftオンラインビジネス部門プレジデントのQi Lu (チー・リュー)氏が登場し、Bing開始までの経緯や市場動向について説明した。

なお、6月3日が正式スタートの同サービスではあるが、すでに先月末より前倒し公開を行っており、実際に触れたユーザーも多いことだろう。本稿ではLu氏のスピーチ内容とともに、Bingの仕組みや簡単なTIPSも含めてサービスの全容を紹介していこう。

シアトルの名所の1つ「Pike Market Place」。スターバックス1号店があることで有名

Search Marketing Expo (SMX)の開催されたBell Harbor International Conference Center。Pike Market Placeから海沿いに徒歩5分程度の場所にある

より素早く、より的確に

SMXの講演には、Lu氏とSearch Engine Land編集長のDanny Sullivan氏の両名が登場し、Sullivan氏がLu氏に対して質問していく形式でスタートした。冒頭の挨拶でLu氏は「6月3日にBingが正式リリースされた。これはMicrosoftにとってより多くのチャンスの到来を意味し、新しい展開でもある。私にとっても非常にエキサイトな出来事だ」と喜びのコメントを出している。同氏によればBingのゴールの1つは「課題の解決、意志決定の迅速化、そしてそのためのサイトの新デザイン」にあるという。これは先月末のBingの発表の際に出したコメントと同じであり、当初からターゲットを明確に定めたサービスであることがわかる。

SMX 2日目の基調講演を行った米Microsoftオンラインビジネス部門プレジデントのQi Lu氏(左)とSearch Engine Land編集長のDanny Sullivan氏(右)。Sullivan氏がLu氏に質問する形で講演は進行していく

基調講演がスタートしてすぐにジャケットを脱ぎ出すLu氏。中には「i bing. (ビンする)」と書かれたTシャツが

同じ種類のキーワードでもユーザーの期待する答えは違う

この中でも特にLu氏が強調するのが「より素早く検索を行う」という点で、それが検索結果左上に表示される「Quick Tabs」や、キーワードに応じて非常にダイナミックに変化するインタフェースに表れている。例えば「seattle」という地名を入力したユーザーはどんな答えを期待するか? それが「weather (気候)」であったり「attractions (見所)」ということが多いだろう。一方で「detroit」という地名を入力したユーザーは何を期待するだろうか。同じ米国の都市名にもかかわらず、そうしたユーザーは破産法申請で揺れるデトロイトの自動車業界のニュースを期待しているのかもしれない。このように同じカテゴリにおいても求める回答は大きく異なっており、ユーザーの求める答えになるべく近い結果を抽出することが、より素早い検索につながるというのが同氏の意見だ。

Bingは"未完成"のサービス

だがLu氏によればBingはまだまだ完成形にはほど遠いサービスであり、「本当にあくまで "始まりに過ぎない"」という。IBMからYahoo!へと転身を繰り返してきた同氏は生粋の研究者であり、「多くの研究開発投資がより良い製品やサービスを作り上げていく」と信じている。自然言語検索などさまざまな研究分野があるが、研究開発投資を続けることで今後数年でより妥当な検索結果を得られるようになるだろうと予測する。そうした見解が地域ごとの分野や言語特性に根ざした研究開発センターの設立に結びついていると考えられる。

「競争が技術を高めていくこと」「継続的な研究開発投資がこれからも必要になること」そして「Bingはそのスタート地点であること」と自身のサービス開発におけるビジョンを説明するLu氏

Yahoo!からMicrosoftへと転身したLu氏

Sullivan氏が「なぜYahoo!の人間がMicrosoftにやってきたのか」と質問すると、Lu氏は「よく聞かれる質問だが、私自身は研究者であり、"前へと進むこと"自体に興味がある。それがYahoo!であれMicrosoftであれ、場所にはこだわらないつもりだ」と回答する。また現状のYahoo!についても「それはCarly (現Yahoo! CEOのCarol Bartz氏の愛称)の問題であって、私がタッチする話じゃない」と述べ、古巣について特別なコメントはなかった。

"Bing" の名称の由来

「Bing (ビング)」が中国語由来という話は一部で伝わっているが、これを統一ブランドに選んだ理由は何なのか。プロジェクトが極秘進行中の段階では「Kumo (クモ)」の日本語の開発コードネームで知られていた同サービスだが、中国出身のLu氏の部門トップ就任と関係あるのだろうか。Lu氏によれば「名称候補は多数あったが、発音しやすいという理由でこの名称に決定された。特にBingは当初から世界展開を視野に入れており、あらゆる国で受け入れられる言葉でなければならない。幸いマーケティング上からも問題なく使える名称であり、そのまま統一ブランドとした」という。Bingの語源については中国語由来という説を否定しておらず、「必ず見つかる。非常に正確」という意味が込められていると付け加える。

ブランドと競合

Microsoftは現在、オンラインポータルの「MSN」、Web検索を含むオンラインサービスの統一ブランド「(Windows) Live」を抱えており、これにさらに「Bing」が加わることになる。正式サービスインにともない、Live.comに接続するとBingへと自動的に転送されるように変更され、検索ブランドとしてはBingを今後プッシュしていく意向のようだ。Lu氏は「製品やサービスにとってブランドは非常に重要であり、これが成否を決定する。一度沈んだブランドの再構築は困難であり、新たなチャンスを模索するためにもBingというブランドを採用した」と説明。事実上、検索ポータルとしてのLiveが失敗であったことを認めている。だが一方で「Liveという名称は企業向けのOffice Live、そしてコミュニケーションツールを中心としたWindows Liveでもサービスにはすでに広く認知されているものも多く、全面的な移行は考えていない。Bingはあくまで一般向けの検索サービスに特化させていく」とも述べており、今後も複数ブランドが併存していくことになりそうだ。

SMXはカンファレンス主体のイベントだが、エキスポ用のスペースも併設されている。MicrosoftブースではサービスインしたばかりのBingの仕組みや特徴をアピール