「コードを書くのは速くなった。でも、リリースまでの期間はそこまで短縮されていない」──。
生成AIの活用が広がる中、開発現場ではこうしたジレンマが生まれている。この課題に対する1つの回答として、Amazon Web Services(AWS)は、開発プロセス全体にAIを深く組み込む「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC : AI-Driven Development Lifecycle)」という開発手法を提案している。
2025年11月26日〜28日、AI-DLCを実践できる体験会「AI-DLC Unicorn Gym」が開催された。参加したのは、AI戦略支援SaaS「Findy Team+」などを提供するファインディ株式会社の開発チームだ。開発生産性というテーマに日々向き合うファインディの開発者たちは、AIによる開発プロセスの再構築にどのように向き合ったのか。
3日間にわたる取材から見えてきたのは、圧倒的なスピードへの興奮と、人間がAIのスピードにどう適応していくかという課題だった。
個別タスクの自動化から、協働へ。AI-DLCが目指すプロセス全体の加速
「通常なら3カ月かかるものを、3日で作るのが今回の参加目的です。AIを開発プロセスにどう組み込むかは日々考えてきましたが、最初からAIありきで作るとどうなるのか。現時点のベストプラクティスであるAI-DLCをチーム全員で取り組み、その知見を実際の開発にも活かしていきたいです」
「既存の開発プロセスに対してAIを活用することは、社内でもすでに実践できています。しかし、今回の体験会ではもっとドラスティックにAIを組み込むことで、より早く、より良いアウトプットが出せるようになるのではないかと期待しています」
1日目、AWSの担当者 からレクチャーを受けた参加者は、AI-DLCに対する期待をこう語っていた。
これまでのAI活用は、既存のウォーターフォールやスクラムの一部を自動化・効率化する"AI-Assisted"なアプローチが主流だった。人間がプロセスを主導し、AIは翻訳や要約、コード生成といった個別タスクを支援するにとどまっていたため、仕様書の作成待ちやレビュー待ちといった人間同士の調整時間そのものは大きくは減っていなかった。
一方で近年、自然言語で指示するだけでAIが画面やコードを一気に生成してしまう"AI-managed"なスタイル、いわゆるバイブコーディングも注目を集めている。人間の細かな管理をほとんど介さず、既存のパターンをなぞるようにアプリを組み上げてくれるため、シンプルなECサイトやフォーム中心のアプリであれば、驚くほど短時間で動くものができてしまう。
しかしこのやり方は、あくまで過去に似た例があったり、要件が単純であったりするケースに強いだけで、複雑な業務ロジックや、世の中に前例のないサービスを作ろうとした途端に破綻しやすい。
現状のAIを活用した開発では、 AIが何を前提に設計・実装したのかを人間が十分に把握できないままコードだけが積み上がっていく。そのため、品質保証やセキュリティレビュー、障害対応の局面になると、結局 のところ人間が1から読み解き、理解可能な状態 にまで分解し直さなければならない。「プロとして開発するのであれば、AIが書いたものであっても自分のコードとして説明できるレベルまで理解しておく必要がある」というのが、AWSの問題意識だ。
AWSが提唱するAI-DLCは、ここを根本から組み替えようとする試みである。簡単に言えば、コーディングを置き換えるのではなく、開発プロセスにAIを組み込むという発想だ。
AIがタスク分解や作業計画の提案を担い、人間はその提案を検証・承認。要件定義(Inception)から実装(Construction)、運用(Operations)に至るまで、プロセス全体にAIをチームの一員として組み込む。人間はAIへの指示と監督(レビュー)にフォーカスすることで、AIが計画や実装を主導しつつも、理解可能な状態 を維持したまま開発ライフサイクル全体を加速させる。
AI-DLCの基本的な進め方は、プラン → レビュー → 実行 → レビューというサイクルである。このアプローチでは、AIが生成した成果物を人間が都度レビューするため、一定のレビュー工数は発生する。ただし、全体の開発期間は大幅に短縮される見込みだ。
狙いは「人間の作業を減らす」ことではなく、プロセス上のボトルネックを解消し、待ち時間を大幅に削減することにある。従来のように資料作成や構成設計が中心だった業務は、AIとの対話や生成物のレビュー・議論が中心になり、AIと協働しながら開発を進めるスタイルへとシフトするのだ。
実際のユースケースでも、AI-DLCを採用した結果、8か月分の作業をわずか1週間で完了した事例も報告されている。このように、AI-DLCは、開発スピードを劇的に向上させる可能性を秘めている。
1日目のレクチャーとハンズオンで提示された重要な概念の1つが、「Mob Elaboration」だ。Inceptionフェーズでチーム全員が1つの画面を共有し、AIと対話しながら意図(Intent)をユーザーストーリーに落とし込んでいき、さらにそれを具体的な開発単位(Units)に分割する。
従来の非同期な開発では、ビジネスサイドから上がってきた要求を企画やPdMが持ち帰り、仕様を詰めてからエンジニアに渡すことが多かった。一方、AI-DLCでは、PdM・エンジニア・ビジネスサイドの人々が同じ場に集まり、AIが提示するユーザーストーリー案やユニット分解をその場でレビューしながら、要件を一気に具体化していく。
たとえば、「簡単なECサイトを作りたい」という曖昧な指示からでも、AIが「検索機能は必要ですか? 」「決済手段はどうしますか? 」と次々に問いかけ、その場で要件定義書のMarkdownファイルと画面モックアップが生成されていく。そのスピード感のあるプロセスを目の当たりにした参加者からは、驚きの声が上がっていた。
3日で実装完了したチームと、議論が難航したチーム。AI-DLC実践の悲喜こもごも
こうした概念を学んだ後の1日目午後からは、ファインディチームが持ち込んだ実際の開発テーマに基づき、2つのチームに分かれてAI-DLCを実践していった。
チームA:既存製品の機能開発
プロダクトマネージャー(以下、PM)、デザイナー、エンジニアを含む7名体制のチームAは新機能開発に挑んだ。初日は「ユーザーストーリーを2つ固めるのに2時間かかる」という苦戦を強いられた。特に、人数の多さがボトルネックになったという。
「人数が多すぎて、もくもく作業や待ち時間が多くなってしまいました。また、スコープも大きすぎたのか、議論が大きくなりスピード感が落ちてしまいました。AI-DLCにおいては、2〜4人の小規模チームのほうが向いているのかもしれません」(本田氏)
さらに、PMの役割についても重要な気づきがあった。当初はAIとゼロベースで壁打ちすることを想定していたが、実務上はそれではうまく機能しなかったのである。
「PM自身が高い解像度で方向性や仮説を持っていないと、AIからの質問に適切に答えられず、議論が発散してしまいます。PMの仕事は仕様書作成から、市場性の検証や方向性の提示といった、より上流工程へシフトする必要があります。仮説なき丸投げは、AI相手でも通用しないと痛感しました」(小島氏)
こうした課題が浮き彫りになった一方で、別のチームでは異なるアプローチで成果を上げている。
チームB:新規プロダクト開発
マネージャーの萩原氏率いるチームBは、社内で構想中だった新規プロダクトのプロトタイプ開発に取り組んだ。
API、UI、管理画面の3ユニットを並行開発し、結果は期待以上だったという。約3日間で予定していた機能の実装を完了させただけでなく、実装の待ち時間を活用して、次フェーズで開発予定だった機能のユーザーストーリー作成まで終えることができた。
勝因は、ドキュメント駆動の徹底だと萩原氏は振り返る。
「AIに丸投げするのではなく、AI活用を前提とした設計をまず固めました。そうすることで、手戻りがなくなっただけでなく、AIが一時的に保持しているコンテキストに依存せず、安定してAIの性能を引き出すことができました」(萩原氏)
爆速生成が引き起こす「レビュー疲れ」という新たな悩み
光があれば影もある。3日目の成果発表で多くのメンバーが口にしたのは、「レビュー疲れ」という新たな課題だった。
「AIは人間と違って疲れを知らず、並列で大量のコードを生成します。でも、それをレビューするのは生身の人間です。実際に後半は脳の疲労で集中力が落ち、レビューが甘くなった結果、実装タスクに漏れが生じる事象も発生しました」(萩原氏)
また、組織全体で取り組むべき変革として提示されたのが、プレーンテキスト文化の醸成だ。
ExcelやPowerPointなどでリッチな資料を作り込むのではなく、AIが理解しやすいMarkdownなどのプレーンテキストで情報を管理する。仕様書もチャットログも、すべてをテキストデータとして蓄積し、AIのコンテキストとして再利用可能な状態にしておく。人間が見やすい資料から、AIも読める資料へ。ドキュメンテーションの作法そのものを変えていくことが、AI-DLCを成功させるための隠れた必須条件と言えそうだ。
コンテキストをどう残すか―AI時代に求められる新たなルールづくり
今回の体験を通じて、AI-DLCは開発プロセスに確実な変化をもたらした。一方で、それを組織に定着させるには、まだ多くの試行錯誤が必要だろう。
萩原氏は、開発プロセス改善について「システムが巨大化するなかで、AIにすべてのコ ードを読ませるのは限界があります。だからこそ、次の開発のためにどのようなコンテキストを残しておくか。そのルールづくりをチームで進めていきたいです」と語る。
そして、これからAI-DLCに取り組む組織に向けて、小島氏と萩原氏の両者は共通して「まずはやってみること」の重要性を強調した。
「今回は『まずAIにやらせてみよう』と考えを切り替えることで前に進めました。あまり難しく考えずに、まずはAIに任せてみる。その姿勢が何より大事だと実感しました」(小島氏)
「いきなりすべてのプロセスを変えるのは難しいかもしれません。でも、どの要素が自社に合うかは、実際にやってみないとわからない。まずは3日間、この体験会のように集中して試してみるのが良いと思います」(萩原氏)
ファインディでは、今回得た知見を自社の開発プロセスに取り入れていく。そして、自らがAI-DLCの実践者となり、そこで得たリアルな学びを、クライアントや開発者コミュニティへと還元していく考えだ。
AIは開発者の仕事を奪う存在ではなく、より本質的な価値創造へ導くパートナーである。今回得た学びを実践に落とし込みながら、ファインディの新しい開発の形に向けた挑戦は、ここからさらに進化していくだろう。
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