センサおよびデータコンバータ
センサおよびデータコンバータ分野では、imec、Samsung Electronics、Boschの3件の論文が注目論文に選ばれた。
バックグラウンド較正機能付き完全ダイナミック動作パイプライン型SAR ADC(論文番号:C15-1)
“A 10.0 ENOB, 6.2 fJ/conv.-step, 500 MS/s Ringamp-Based Pipelined-SAR ADC with Background Calibration and Dynamic Reference Regulation in 16nm CMOS,” J. Lagos, etcal., imec
近年のA/Dコンバータ(ADC)の電力効率向上は、リングアンプやダイナミック量子化器およびダイナミックレギュレータなどの完全にダイナミック動作する回路によって進展してきた。
imecは、リングアンプの採用により高い帯域幅と電力効率を両立しつつ、バックグラウンド較正によりロバスト性を担保し性能を最適化した単一チャネルの完全ダイナミック動作パイプライン型SAR ADCを報告する。
DACのミスマッチ、ステージ間ゲイン誤差、リングアンプのバイアス最適化に高速かつ広範囲に対応するバックグラウンド較正の実現のために、新規のダイナミック量子化器と狭帯域のディザ注入が提案されているほか、提案されたADCは広いレンジで完全ダイナミック動作する基準電圧レギュレーションシステムをオンチップ搭載している。
ADCの500MS/s動作時の消費電力は3.3mWであり、10.0ビットの有効分解能と75.5dBのSFDRを達成し、電力効率の指標であるWalden FoMは6.2fJ/c.s.に達したという。
Cu-to-Cuチップ接合技術によるピクセルADC搭載型CMOSイメージセンサ(論文番号:JFS4-4)
“A 2.6 e-rms Low-Random-Noise, 116.2 mW Low-Power 2-Mp Global Shutter CMOS Image Sensor with Pixel-Level ADC and In-Pixel Memory,” Min-Woong Seo, et al., Samsung Electronics
Samsungは、イメージセンサ画素アレイチップ(65nmプロセス)と信号処理・ロジックチップ(28nmプロセス)をCu-to-Cu(C2C)接合したCMOSイメージセンサを開発したことを発表する。
2Mピクセルのグローバルシャッタ型イメージセンサであり、ビデオレートにおいて116.2mWの低消費電力と2.6 電子の二乗平均ランダムノイズレベルの性能、最高フレームレートは960fpsの性能を示したとしている。
この高性能を実現するために、ピクセルごとにADCを搭載するアーキテクチャを選択し、Cu-to-Cu接合でのウェハレベル積層を実現した。ピクセルピッチは5μm以下であり、画素レベルのADC+22ビットメモリを搭載したセンサとしては最も小さいと主張している。
ジャイロスコープ用ワイドレンジフロントエンド回路(論文番号:C19-1)
“A direct-digitization open-loop gyroscope frontend with +/-8000°/s full-scale range and noise floor of 0.0047°/s/√Hz,” Chinwuba Ezekwe, et al., Robert Bosch & Bosch Sensortec
Robert BoschおよびBosch Sensortecは容量型の3軸ジャイロスコープセンサのためのフロントエンド回路を発表する。この回路の最大の特徴は従来比4倍に相当する、±8000deg./sの大きな計測レンジである。発表された回路はノイズフロアが0.0047deg./s/√Hzであるなど、他の特性においても従来回路と匹敵する性能である。
バイオメディカル回路
最後のバイオメディアカル回路分野では、米国ミシガン大学ほか2大学共同の論文が注目論文に選ばれた。
超小型ワイヤレス脳センサ向け神経信号測定チップ(論文番号:C2-2)
“A Light Tolerant Neural Recording IC for Near-Infrared-Powered Free Floating Motes,” Jongyup Lim, et al., University of Michigan & ETH Zürich & University of Delaware
ミシガン大学はスイスのチューリッヒ工科大学、米国デラウェア大学と共同で、赤外線駆動型超小型脳計測デバイスに搭載するための電源管理・脳信号計測および光送信制御機能を搭載したチップを開発した。
同チップの大きな特徴は、デバイス駆動のための赤外線などの迷光に対して安定した動作を実現している点である。研究グループはチップデザインにおいて、パッケージを透過した光に対する高い動作安定性を実現しており、生体組織の限界である300μW/mm2の照射耐性を達成したとしている。
消費電力は38℃で0.57μWであり、可変ゲイン制御と特徴抽出機能を搭載したスタンドアロンの脳計測デバイスでは最小となっているとしている。
なお、VLSIシンポジウムは、2021年6月13日~19日に京都で開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息しなかったため、前回同様にバーチャル形式で開催される。