若者のアルコール離れが進む昨今、酒類メーカーが変革を迫られている。国内における酒類市場は90年中盤をピークに下降し続けているという。

そもそも日本は人口自体が減少傾向にあり、そうした中で売上を回復するには抜本的にマーケティング戦略を変革する必要がある。

12月3日、4日に開催された「マイナビニュースフォーラム2020 Winter for データ活用」に登壇したサントリー酒類 広域営業本部兼推進本部 部長の中村直人氏は、サントリーが今まさに取り組むデータを活用したマーケティング変革について語った。

着目すべきは「多様化する消費者の嗜好」

昨今、よく耳にするのが「若者がアルコールを飲まなくなってきている」という言説だ。

サントリーの調査によると、66~71歳の戦後世代のうち43%が週に4日以上ビールを飲むのに対して、20~27歳までの少子化世代で週4日以上ビールを飲むのはわずか6%に留まっている。基本的には年齢が上がるほどビール飲用者は増えていくが、40歳以下は41歳以上に比べて大きく飲用接点が減るのが実情だ。

酒類カテゴリ別に見るとビールがピーク時の半分まで落ち込んでいるのに対して、チューハイやハイボールが伸長し、ワインも堅調に推移している。全体として見れば市場は縮小傾向だが、決して全てのカテゴリが減少しているわけではなく、消費者の嗜好が多様化していることがうかがえる。

サントリーの中村氏はこの点に注目している。

「今まではマスマーケティングがマーケティングの主軸を担っていましたが、世の中の変化が激しくなり、もっとお客様に近づく必要が出てきました。お客様の購買データや行動データなどのバリュージャーニーに着目し、それを商品開発や宣伝に活かしていかなければなりません」

中村直人氏

サントリー酒類 広域営業本部兼営業推進本部 部長 中村直人氏

マスマーケティングはとにかく多くの人の「認知」を獲得することが重要だった。仮に取りこぼしがあったとしても、日本の人口が多く大半がビールを嗜好していた時代はそれで大きな効果が上がっていたのだ。

しかし、ビール中心であった嗜好が多様化し、人口そのものが減少している今、”本当に届けるべき相手”にしっかりと情報を届けることでシェアを確保する必要があるというわけだ。

コロナ禍で変化した消費者の「価値観」と「行動」

では、どのように消費者を理解していけばいいのか。そのヒントを得るきっかけになったのが、新型コロナウイルス感染症の第一波が訪れた2020年3~5月だ。中村氏は「この時期に消費者の求める価値観が大きく変化した」と分析する。

具体的には、まず「安全価値」の重要性が大きくなったという。すなわち”非接触”であることや密にならないことなど、安全に買い物や飲食体験ができることの価値が高まったのである。

次に「時間価値」の変化だ。これまで毎日行っていた買い物を週1回にまとめて済ませたり、ネットスーパーを使ったりと、コロナ禍は消費者の時間に対する価値観にも影響を与えている。

最後に「社会価値」の変化である。リモートワークが盛んになり、消費者はリアルの接点だけでなく物理的に離れている状態でもつながりを求めるようになってきた。そのような状況下の今、メーカー側がいかにして顧客とのつながりを作っていくかが重要になるという。

こうした消費者の行動の変化は、流通業界に大きな影響をもたらした。マスクや衛生製品などを販売するドラッグストアやスーパーマーケット、ディスカウントストア、巣ごもり需要をつかんだECビジネスなどが好調を維持した反面、オフィス街から人が消えたことによる影響で、コンビニエンスストアや百貨店、飲食店は苦境に立たされた。

「我々はメーカーとして、流通業界を支援していきたいと考えています。苦戦している業態には好調になれるような、好調な業態にはさらにそれを伸ばせるような提案をしていきたいのです」

小売店における顧客行動の見える化

メーカーのバリューチェーンは商品企画から始まり、製造や出荷を経て小売業への販売で完結する。一方、小売業のバリューチェーンはメーカーからの仕入れから始まり、物流や販促を経て消費者への販売(時にはアフターサービスも)で完結する。

ビジネスの流れを考えると、本来両者のバリューチェーンはつながっているべきなのだが、これまでは分断されていた。消費者を理解し、行動や接点を把握していくためには「メーカーと小売業のバリューチェーンを1つにつなげることが重要」だと中村氏は強調する。

ただし、ここでネックになるのが小売店における顧客の行動だ。ECサイトでは「どんな人が、どのページを経由して、何を買ったのか」という顧客行動を可視化できるが、小売店ではどうしても顧客の動きを追うことは難しかったのだ。

しかし、最近ではIoT技術などの進歩により、小売店での顧客行動も少しずつ見える化が可能になってきていると中村氏は言う。

「お客様が店内のどの通路を通り、どの商品を見て、何を買い、リピーターやファンになってくれるのか。そういったところをしっかりと見ることが、お客様を理解することにつながります」