前回、Azure Stack Hubの最新情報のなかからFleet ManagementやKubernetes関連の情報をお伝えしました。今回も引き続きAzure Stack Hubの最新情報をお届けします。

AMD GPUによるGPUパーティショニング(プライベート プレビュー)

Azureでは、「Nシリーズ」というGPU搭載仮想マシンを動かすことができるため、Azure Stack HubにもGPUモデルへの期待の声は多くあります。そこで、現在3つのシナリオを想定し、ハードウェアベンダーと共にGPUモデルの開発を進めています。

  1. NVIDIA V100搭載:NCシリーズ(既にプライベートプレビュー中)
  2. AMD MI25搭載:NVシリーズ(Build 2020のタイミングでプライベートプレビュー発表)
  3. NVIDIA T4搭載:未定

数カ月前に発表済みの1は、「NVIDIA V100」というGPUを直接仮想マシンに割り当てるモデルで、AIや機械学習系の処理をターゲットにしたNCシリーズとしてAzure Stack Hubの上で動く予定です。

そして今回、Build 2020のタイミングでプレビューが発表されたのが2のAMD MI25搭載モデルです。こちらはダイレクトアタッチモデルと違い、SR-IOVベースでGPUに対する処理をVirtual Function化するため、複数の仮想マシンから1つのGPUへアクセスできるGPUパーティショニング対応版となります。Azure Stack Hub上ではNVシリーズとして、仮想デスクトップ用途を意識した名称が付く予定です。

実は、Azure Stack Hubにおける「仮想デスクトップ用途」の話には続きがあります。今、マイクロソフトはAzureベースの「Windows Virtual Desktop(WVD)」というクラウドVDI(DaaS)を提供しています。WVDは、条件となるライセンスを持っているだけでコントロールプレーン代不要でVDIができたり、「Windows 10マルチセッション」という特殊なOSが使えたりと、ほかのDaaSにはない特徴が注目されています。

加えて、本連載の読者がよく知っている「どうしても社内のデータセンターに置いておきたい」という要望に対応するべく、WVDをAzure Stack Hubでも動かせるようにするという発表を行い、プライベートプレビューを開始しています。コントロールプレーンそのものはAzureのままですが、仮想マシンはAzure Stack Hubで動かせるようになり、さらに接続端末とAzure Stack Hub上の仮想マシンの通信にはAzureを経由しないパス(ショートパス)が用意される予定です。

こうした事情もあり、Azure Stack Hub上のGPUを搭載した仮想マシンには、AIや機械学習、IoTエッジへの用途以外に仮想デスクトップに対する期待も高まっているのです。

ちなみに、上図の通り、Azure Stack Hubはハイパーコンバージドインフラベースのため、GPUも各ノードに均一に配置する必要があります。さまざまなGPUを組み合わせて使うのが難しいため、今後NVIDIA V100、AMD MI25のどちらのモデルにするか悩む場面も出てくることでしょう。そこで1つ、ヒントをお伝えしておきます。

VDIシナリオではGPUの有効活用のためGPUパーティショニングが効果を発揮することはわかっています。ただ、WVDのWindows 10マルチセッションは、これまでWindows Serverでしか実現できなかったサーバベースドコンピューティングをWindows 10自身でカバーします。そうなると、GPUパーティショニングのNVだけでなく、NCとしてダイレクトアタッチされたGPUを複数ユーザーが使うシナリオも可能となるので、Azureとは違い、NCを仮想デスクトップシナリオで使える可能性もあると筆者は考えています。

現在は、まだプライベートプレビュー中のため、今後さらに情報が増えてきたら、より現実的なシナリオについてあらためてお伝えしたいと思います。

インダストリ系ソリューションの拡充

今回の各種発表のなかでは、具体的な利用シーンをイメージしやすいものがいくつかありました。その一つが「FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)Server on Azure Stack Hub/Edge」です。

FHIRは、医療情報交換のための国際標準規格として、RESTベースのAPIによるアクセスやオープンソースライブラリを豊富に提供していることから、日本の医療ITでも採用が進みつつあるようです。これに対応したFHIR Serverを動かすのはAzure Stack Hub上じゃないとダメということはないのですが、Azure Stack Hub上でFHIRサービスを動かすことで、仮想ネットワークの各種コンポーネントにより外部サービスとの通信や制御がしやすくなったり、前回解説した通りFHIRと連携するKubernetesベースのアプリを展開しやすかったり、アプリケーションから呼び出しやすいBlobストレージが使えたりと、多くのメリットを提供できるようになります。また、Azure Stack Edgeを使えば、初期費用を一気に下げることも可能です。

ほかにも、製造フロアでのComputer Visionの活用支援策として、製造現場のためのAIソリューションテンプレートをGitHubにて提供し、製造現場のモダナイズを推進するとの発表を行いました。

さらに、「The Aware Group」というAIによる異常検知やノイズ分類などのソリューションを得意とするベンダーとの協業も発表があり、専門分野に特化したアプリケーションの環境がIoT Edgeモジュールとして提供されることになります。ソリューションの置き場所は、用途に応じてAzure Stack HubやAzure Stack Edgeを選択して利用できるようになるはずです。このようなインダストリ系ソリューションとのコラボが増えていくことで、日本でもAzure Stack Hub/Edge活用のプラクティスが増えていく可能性があります。

その他、パートナー協業の推進

そのほかにもさまざまな発表がありました。まずは”超コンパクトなAzure Stack Hub”の話です。Azure Stack Hubには重厚なイメージをお持ちの方も多いでしょう。最低物理サーバ4ノード、Top of Rackスイッチ2台、サーバ管理用サーバが1台にBMCスイッチも必要となれば、それなりのシステムになります。ただ、今回の発表では、HPEの「Edgeline EL8000」の名前が出てきました。外部冷却を必要としない小型のフォームファクターで、小売りの店舗や製造現場など、データセンター化が難しい場所でもAzure Stack Hubの導入/活用が期待できます。ただ、このシナリオはAvanadeによるフルマネージドなサービスとして提供されるとのことです。

また、Red Hatが持つ「ManagedIQ」というツールでAzure Stack Hubの管理ができるようになり、他社のハイブリッド/マルチクラウドマネージメントツールの管理下にAzure Stackが入れるようになります。さらには、Cloud Assertが開発したリソースプロバイダを利用することで、複数のAzure Stack Hub環境を単一のAzure Stack Hubの画面から管理可能になります。前回解説したFleet Managementを含め、Azure Stack Hubの管理環境がいろいろな切り口で進化し始めたことを感じることができるでしょう。

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さて、前回/今回と2回にわたってAzure Stack Hubの最新発表をお伝えしました。Azure Stack Hubそのものの進化もあれば、パートナーやインダストリソリューション協業の話もありました。日本にはクラウド化(サービス化)されていないオンプレミスが大量に残っています。そのままで良いものもあれば、進化させるべきところもあるでしょう。これを機に今一度、Azure Stack Hubと向き合ってもらえれば幸いです。

次回からは、マイクロソフトのマルチクラウド戦略とも言える「Azure Arc」について取り上げていきたいと思います。お楽しみに!

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴約18年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。