前回の記事から、少々ご無沙汰してしまいました。前々回、前回とマイクロソフトが提供するハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)に「Azure Stack HCI」という名前が付いたことや、その特徴などについて解説しました。その後、時間が経っていくなかでさらにアップデートされた「Azure Stack」について、改めて2020年6月時点で最新の情報を解説します。

Azure Stackがファミリーに!

この連載を始めた当初、Azure Stackはパブリッククラウド「Azure」をオンプレミスデータセンターで動かせるプライベートクラウドソリューションの名前でした。しかし、今では次の図のように、マイクロソフトが提供する3つのエッジソリューション「Azure Stack Hub」「Azure Stack Edge」「Azure Stack HCI」の総称として、ファミリー名(ブランド)になりました。

3つのエッジソリューションから成る「Azure Stackファミリー」

なぜAzure Stackがファミリーになっていったか? それは、パブリッククラウドとオンプレミスの関係に変化があったからです。ご存知の通り、パブリッククラウドが登場してからそれなりの年月が経ち、新機能の追加の勢いは衰えていないものの、IaaS/PaaS共に主要機能はある程度落ち着きつつあります。オンプレミスはサーバ仮想化が主役のまま大きく変わっていませんでしたが、パブリッククラウドやクラウドネイティブに引っ張られるかたちでITの利用形態が多様化してきている今、オンプレミスITもさまざまな利用形態を受け止める必要が出てきています。

そこで、従来通りのオンプレミスではなく、クラウドの出先機関のようなエッジITに注目が集まり始めています。これは、パブリッククラウドオンリーだったはずのベンダーまでもが続々とオンプレミスに配置可能なエッジサーバソリューションを提供し始めていることからも見て取れるでしょう。

マイクロソフトとしても、他社に先駆けて提供してきたプライベートクラウドとしてのAzure Stackだけではカバーできないため、オンプレミス、エッジ、そしてプライベートクラウドなどさまざまな要件を支える基盤を拡充し、Azure Stackをファミリーの名前としたわけです。

Azure Stack Edge? - “3兄弟”の立ち位置を簡単説明

それでは、Azure Stackファミリーの”3兄弟”とも言える各製品やサービスについて、最新の動向を紹介しておきましょう。

Azure Stack Hub - 名称の変更

Azure Stack Hubは、従来、Azure Stackと呼ばれていたものです。本連載で何回にもわたって解説してきたので、ここで技術的な解説はしません。これまでにないコンセプトの製品として登場して以来、従量課金という新しいビジネスモデルや企業内の仮想化とAzure Stack IaaSの違いなど、なかなか理解してもらえないことも少なくありませんでしたが、数年経ってようやく”手元にあるクラウド”の意味をスムーズにご理解いただけることが増えてきた気がします。

Azure Stack Edge - 新しく仲間入り

Azure Stack Edgeは、Azureのポータルから申し込みをすると1Uの物理サーバが指定の場所に届き、クラウドの出先機関としてIoTやAI系の一時処理を担ってくれるというものです。「月額課金」「不要になれば返却可」「管理はAzureポータルにて一元化」など、物理サーバとはいえ利用形態はクラウドそのものと言えます。

実はこのAzure Stack Edge、オンプレミスやエッジにあるデータをAzureに複製、もしくは移行することを目的とした「Data Boxファミリー」の一員として、これまで「Data Box Edge(プレビュー)」という名前でした。Data Boxファミリーは、ネットワーク経由だと長時間かかってしまう大量のデータ移行を物理輸送でカバーしたり、仮想マシン型のNASアプライアンスとしてオンプレミス側にデータを貯めつつ、Azureストレージへ自動でデータの同期を行ったりするソリューションです。例えば、SSDのディスクそのものやコンパクトなNAS、巨大な荷台のようなデータディスクボックスなどのハードウェアを提供します。

ただ、大量のデータをAzureに送り込む前に、クラウドに送るべき情報を自動フィルタリングする、画像データの個人情報をマスキングしてからクラウドに送るなど、エッジ側で処理を加えたいという要望も少なくありません。そこで、クラウドから提供することになった”一時的な処理を実現するためのハードウェア”がData Box Edgeだったのです。

データをAzureに送るという役割から開発がスタートしたため、一時的にData Boxファミリーであったものの、先述の通りエッジの重要性が増している状況においてはエッジ側での処理機能(能力)に焦点が当たっても不思議ではありません。そう、データ移行のための物理サーバではなく、エッジに配置することでハイブリッドなシステムの重要な役割を果たすことを求められるようになったために、Azure Stack Edgeという名前を与えられたのだと言えるでしょう。

これにより、エッジ側でIoTやトレーニング済みAIを動かすためにAzure Stack Hubでは大きすぎる(サイズ的にもコスト的にも)とあきらめていたユーザーには、Azure Stack Edgeは最適なソリューションとなるはずです。

ただ、Azure Stack Edgeは現在、Azureポータルからの指示でコンテナを自動配置し、IoT EdgeやAI系の処理を容易に実現しますが、Kubernetesや仮想マシンを動かすこともロードマップに入っており、エッジ用サーバとしての能力はさらに強化されていく予定です。Azure Stack HubとEdgeの距離が近づいていくことでユーザーからの要求にきめ細やかな対応を実現しつつ、時代の流れに応じてそれぞれのソリューションの立ち位置も変わっていくことになりそうです。

Azure Stack HCI - 仮想化を捨てずハイブリッドを目指す

Azure Stack HCIについても解説済みのため多くは書きませんが、ハイブリッド対応の強化は続いており、Azureの仮想ネットワークとL2延伸ができる(オンプレ仮想マシンとAzure上の仮想マシンが同じネットワーク上にあるかのように振る舞える)機能をプレビューとして提供するなど、ほかのAzure Stack兄弟にはない機能まで持ち始めています。

また、今後コンテナが主流になる可能性を考えるとAzure Stack Hub/Edgeのようにハードウェアスペックがある程度固定化されているものではなく、Azure Stack HCIのように比較的自由にハードウェアや調達経路を選択できるものも力を発揮する場が出てくると思われます。

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久しぶりの記事となった今回は、3兄弟となったAzure Stackファミリーについて、改めてという部分も含めて解説しました。5月に米マイクロソフトが実施した「Build 2020」のタイミングでAzure Stack Hubの新しい発表も行われたので、そちらは次回、解説します。また、時代はマルチクラウドに突入しており、マイクロソフトも「Azure Arc」というマルチクラウド戦略を打ち出しています。Azure Stack Hubの新機能を紹介した後は、Azure Arcにも触れるつもりなのでお楽しみに!

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴約18年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。