人間にとって最良のパートナーであると言われている「イヌ」。しっぽの動きや鳴き声、表情などで一生懸命私たちに気持ちを伝えてくれようとしている彼らの姿から、その感情の豊かさを知ることができる。

言葉を持たない愛犬ともっと気持ちが通じあえたら……と考えたことがある人も多いのではないだろうか。

そんな悩みを解決すべく、心拍数を解析することでイヌの気持ちをより深く知ることができるデバイスが登場した。その名も「INUPATHY」。

7月15日より同社サイトにて先行予約が開始されており、すでに早割111台分は完売となっている。今回は、同製品を手がけるラングレス 代表取締役 山口 譲二氏と山入端 佳那氏に、INUPATHYの開発秘話や今後の展望について話を伺った。

(左から)ラングレス 代表取締役 山入端 佳那氏と同 山口 譲二氏

イヌの気持ちが色の変化で瞬時にわかる「INUPATHY」

INUPATHYは、内蔵の心拍センサがイヌの心拍リズムの変化を検知し、その心拍パターンによって発光色が変化するデバイスだ。現在は「リラックス」「ドキドキ」「ハッピー」「好奇心」「ストレス」の5つの感情に対応している。例えば、イヌをなでると、LEDは緑色(リラックス)や虹色(ハッピー)の発光へと変化するという。

「INUPATHY」はハーネス型のデバイス。装着するだけで測定でき、剃毛したりする必要がないため、犬への負担は少ない

心拍からイヌの気持ちを分析しようという試みは他にもあるが、従来の心拍センサでは毛を剃ったりジェルを塗ったりする必要があり、イヌへの負担が大きいことが課題だった。

その点、INUPATHYはハーネス型のデバイスを装着するだけで測定可能なため、イヌの負担は最小限ですむ。また、アプリと連携することにより、心拍データやそこから読み取れる感情データがINUPATHYクラウドに蓄積されるため、日々の健康記録を確認することも可能となる。

ベルト部分に心拍センサが内蔵。犬の感情に合わせて背中のLEDの色と光り方が変化する

きっかけは、イヌの反抗期を理解したいという気持ち

会社員時代に飼いはじめたイヌが反抗期を迎え、素直に言うことを聞かなくなってしまったことを悩み始めたのがアイディアのきっかけだったという山口氏。

「個人的な興味から心拍器を装着してみてその反応を見てみようと思いましたが、イヌ用の心拍計は市販されておらず、またヒト用のセンサでは毛を剃ったりジェルを塗ったりする必要があり、かわいそうだな、と……。自分で試行錯誤しながらイヌ用のものを作っていくことにしました」と振り返る。

開発を続けていくうちに、知り合いの保護犬に心拍計をつけてもらう機会があった。初めて訪れた家で緊張していて心拍数が高まっているときに、飼い主さんが背中をそっと撫でてあげると心拍数が落ち着く様子をみることができた。心拍の計測によってイヌからの飼い主への信頼感を実感した山口氏は、この装置を世の中の愛犬家にも広めていきたいと考えるようになる。

「気軽に使えてイヌへの負担がないようなものに改良し、商品化していきたいと考えたのが2012年ごろでした。起業に至ったのは2015年です」(山口氏)

単身起業ながら、サポートが得られる環境

山口氏は当初、会社員として仕事をしながら、帰宅後自宅でINUPATHYの開発を進めていた。

ハードウェアの開発経験がなかったため「抵抗値の計算すらできず、”はじめての電子工作”状態」(山口氏)だったが、書籍を読むなどして独学で勉強しながら地道に知識と技術を身に付けていったという。

当初は共に開発を進める仲間もいたが、自身のこだわりの強さから山口氏1人で起業に挑戦することになった。孤独を感じていたものの2015年にDMM.make AKIBAに入居したことで、状況は変わった。

山口氏は「同じように起業を志し、こだわりの強さを共感しあえる人たちがいたことは良かったですね。分野に精通している人からアドバイスをもらえることもありました」と語る。

ものづくり系スタートアップが直面する課題は、サービスや製品が新しければ新しいほど、そのつくり方を知る人がいなくなるため、情報収集や試行錯誤が必須となる。

DMM.make AKIBAの入居者やスタッフに協力してもらえる環境は、非常に心強いといえる。(なお、量産化体制の整備に伴い、2018年4月より墨田区にオフィスを移転している)

言葉にならない思いを共有しあいたい

現在は、今年から共同代表として参画した山入端氏と、ソフトウェアエンジニアの3名体制で事業のさらなる拡大を目指している。

7月のINUPATHY先行予約開始に合わせて、社名も「イヌパシー」から「ラングレス」へと変更した。言葉が通じない生きものの生体情報を取得することで、「language less(=ラングレス)」なコミュニケーションを実現したいという思いが込められている。将来的にはイヌ以外の動物への展開も考えられるだろう。

「言語以外の表現方法もありますが、人間のコミュニケーションはやはり言語を中心に行われています。とはいえ、病気などでうまく言葉が使えない方もいらっしゃいますし、そもそも心の機微を余すことなく言葉で伝えるのは無理ですよね。自分自身も、うまく言葉で伝えられず、もどかしさを感じることがあります。動物であればなおさらです。動物にしかわからない感情が、彼らの心の中にあるはずです。この感情を、言葉を介さずに共有できるような世界を実現したいんです」(山入端氏)

ラングレスはこれからも、INUPATHYをはじめ言葉を介さずともコミュニケーションできる仕組みを発展させていくことで、生きものが少しずつ豊かになっていけるような世界を目指していく。

北米展開、ほ乳類全般の心の可視化も開始 ―― 2019.07.03 追記

2019年7月2日、製品予約受付から約1年、ラングレスは1億円の資金調達を実施し、INUPATHYの北米展開を目指すことを発表。さらに、犬だけでなく、ほ乳類全般の心を可視化する研究開発体制を構築していくことを明かした。

本文中にあるとおり、INUPATHYは、2018年7月に先行予約を開始。用意した111台はすぐに完売した。その後、2018年11月に正式販売をスタート。約7カ月ですでに約600台を売り上げている。

今回出資に応じたのはリアルテックファンド、Mistletoeの2社。北米展開のほか、「Langualess LABO(ラングレスラボ)」を設立し、家畜の体調管理などへの応用研究を進めていく方針。

なお、現段階でも、猫向けデバイスの開発を進めているほか、牛やゾウなどの大型動物や海洋生物を対象とした共同研究プロジェクトも進行しているという。