ロンドン在住のJenny Gyllander氏が個人のサイドプロジェクトとしてInstagramで行っている製品レビュー「Thingtesting」。2018年4月にスタート。10月末時点でInstagramのフォロワー数は4万弱。広告で稼げるような規模ではないが、そんなThingtestingが300,000ドルのプレシード投資 (シードよりもさらに早い段階での投資)を獲得した。

なぜかというと、Thingtestingはブランドやメーカーからお金や商品をもらわず、主にDTC (Direct To Consumer)ブランドを中心に消費者視点の本音のレビューを提供している。Instagramの「親しい友達」リストを使って限定コンテンツを提供する年間100ドルのメンバーシップを始めており、それがウェイトリストに約600人が連なるほどの人気ぶりなのだ。そこが評価された。さらに掘り下げると、その背景にはDTC時代のブランド増殖、2010年代に成長したDTCブランドが今ぶつかっている壁がある。

  • Thingtestingは、読みやすい約350単語程度の長さにまとめて商品レビューを提供

テレビや雑誌からネットへのメディアの移行と共に、マス広告やマスチャネルなどで消費者を引き込む20世紀型のマーケティング力が弱まり、2010年代になるとインターネットやモバイルを活用し、消費者と直接的な関係を築いて製品やサービスを提供するDTCブランドが成長した。例えば、メガネのWarby Parker、マットレスのCasper、アパレルのBonobos、コスメのGlossier、スイムウェアのSummersaltなど。消費者と直接的に結びつくDTCブランドは、消費者との結びつきを強くすることが業績アップにつながるから、優れた顧客体験の提供を優先する。そんな姿勢がモバイル世代の消費者から支持され、その反動で大量生産型のメーカーモデルである大手ブランドを敬遠する風潮が強まった。

DTCブランドの成長は、今モールやデパートから客足が遠のいている一因とも言われてる。オンラインで商品を発表し、オンラインで顧客と繋がり、オンラインで販売するDTCブランドはモールやデパートとは無縁だ。例えば、昨年急成長したシューズブランド「Allbirds」、モールやデパートではどこも扱っていない。Allbirdsのサイトか直営店でしか買えないが、そんな新出の小さなブランドがInstagramを通じて瞬く間に成長した。オンラインショップの方が買い物が便利というだけではなく、モールやデパートに行っても新しいブランドを発見できない。だから、モールやデパートに興味をなくす消費者が増えている。

  • Allbirdsのスニーカーは軽くて履きやすく、丸洗い可能、Allbirdsクローンが多数登場しているが本家が圧倒的な支持を受けている

ただ、ここにきてDTC成長の痛みが表面化してきた。Webサイトを立ち上げる感覚で開始できることによるブランドの増殖だ。例えば、DTCの大きな成功例としてよく挙げられる箱詰めマットレスのオンライン直販Casper。GoodBed.comによると、今やCasperと同じようなマットレスのオンライン直販が米国には約175も存在する。

しかも、以前のように顧客体験優先のブランドばかりではなく、低価格であったり、またはレガシーな大手ブランドの傘下に収まって事業を展開するブランドなどDTCも様々だ。一方で、広告の手段はそれほど幅広いものではなく、結果どこも同じようにFacebookやInstagramに広告を出し、インフルエンサーのスポンサーになっている。DTCブランドのマットレスというと数年前はCasper一択だったが、今やネットには様々なブランドの情報が溢れている。

だから、消費者はブランドが関わっていない本音のレビューを求める。また、商品やサービスに自信があるブランドも、本音で語るレビュワーに評価されることが、ブランド増殖の中で真の宣伝になると考える。

"本音のレビュー"であるためには、広告に頼らず、アクセス数やフォロワー数を武器にすることもできない。Thingtestingのコミュニティは小さいけど、消費者である利用者に支持され、消費者のサポートによる独立採算を実現している。"本音の商品レビュー"の需要がこれから増すからこそ、小さいながらも、それをマネタイズにつなげたThingtestingがプレシード投資を獲得できたのだ。