「子どもが親に黙ってネットで商品を購入してしまった」。そんな経験を持つ保護者の方も多いのではないでしょうか? ネットショッピングが普及するにつれ、こうしたケースは増えていると考えられます。ではこうした場合、保護者は売買契約を取り消すことはできるのでしょうか?

今回は、子どもが親に黙って、未成年者が購入してはいけないお酒の購入を申込んでしまったケースを基に考えます。未成年者が単独で行った売買契約の申し込みは、原則として事後に取り消すことができます。ですが、その例外として、「詐術」を用いた場合などは契約を取り消せないことになっており、注意が必要です。(編集部)




【Q】息子が嘘をついてお酒を注文、注文は取り消せる?

私は、16歳の息子を持つ父親ですが、先日息子が勝手にインターネットで高級洋酒を商品代引きの方法で注文してしまいました。息子は、その商品販売サイトの購入画面で、氏名欄には自分の名前を入力したようですが、設けられていた未成年者かどうかの確認欄に、「成年者である」と入力して注文したようです。私は、このお酒の受け取りを拒否し、代金も支払いたくないと考えていますが、可能でしょうか。


【A】取り消せないわけではないですが、個々に判断することになります。

本件のように未成年者が単独で行った売買契約の申し込みは、原則として事後に取り消すことができます。しかし、その例外として、あたかも成年者であるかの如く「詐術」を用いていた場合には取り消すことができません。「詐術」にあたるかどうかについては、単に未成年者が成年である旨回答したことだけをもって判断されるものではなく、事業者が故意にかかる回答を誘導したのではないかなど、最終的には取引の内容、商品の性質や事業者の設定する画面構成等個別の事情を考慮して、判断されるものと考えられています。これに従えば、本件でも、単に「成年者であると入力した」というだけで決まるものではなく、前述のような基準によって、ケースバイケースで判断されることになります



未成年者は単独で法律行為を行えるか

本件では、息子さんがインターネット上の商品販売サイトで高級洋酒を注文していますが、これは売買契約の申し込みという法律行為にあたります。では、16歳の未成年者は、親の同意もなく、単独で法律行為を行えるのでしょうか。

原則

民法上、未成年者は、「制限行為能力者」と呼ばれ、未成年者保護の観点から、法律行為を行うに際しては一定の制限を受けます。

すなわち、未成年者が法律行為を行うためには、原則として、法定代理人(一般的には、父親や母親がその未成年者の法定代理人にあたります)の同意を得ることが必要です(民法第5条1項本文)。

仮に、未成年者が法定代理人の同意を得ることなく法律行為を行った場合には、法定代理人は、原則として、事後にその法律行為を取り消すことができます。(民法第5条2項)

例外

もっとも、未成年者が法定代理人の同意なく法律行為を行った場合であっても、例外的に、これを取り消すことができない場合があります。

例えば、以下のような場合です。

  1. 未成年者がその行為により単に権利を得るとか義務を免れるにすぎない場合(相続の承認や放棄の場合)(民法第5条1項但書)

  2. 法定代理人が事前に包括的同意をしている場合(お小遣いの範囲で物を購入するような場合)(民法第5条3項)

  3. 未成年者が自身で独立して営業をなすことが許されている場合(民法第6条1項)

  4. 未成年者が、適法に単独で法律行為を行えることを相手に信じさせるために詐術を用いたとき(民法第21条)

本件の場合には、1や3のような事情は見受けられませんし、高級洋酒ですので、その価格は通常お小遣いの範囲とはいえないでしょうから、2にもあたりません。

しかし、息子さんは、未成年者かどうかの確認欄に、成年者であると入力していますので、4の「詐術」を用いたとして、お酒の注文を取り消すことができなくなるのではないか、が問題となります。

「詐術」の判断基準

では、本件で、息子さんは「詐術」を用いたことになるのでしょうか。

「詐術」の一般的な判断基準として、最高裁判所は、「詐術」とは、行為能力者であることを誤信させるために、相手方に対して積極的術策を用いた場合に限るのではなく、制限行為能力者がふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の錯誤を誘起し、または誤信を強めた場合をも含むとしています(最高裁昭和44年2月13日判決参照)。

このため、成年者であると入力した結果、商品販売サイト側が成年者であると誤信したようなときは、「詐術」にあたるとされるケースが想定されます。

その一方、経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成20年8月)41頁は、「詐術を用いたと認められるか否かは、単に未成年者が成年である旨回答したことだけをもって判断されるものではなく、事業者が故意にかかる回答を誘導したのではないかなど、最終的には取引の内容、商品の性質や事業者の設定する画面構成等個別の事情を考慮して、判断されるものと解される。」としています。

したがって、本件でも、単に「成年者であると入力した」というだけでは、必ずしも「詐術」にあたるとされてしまうとは限らず、前述のような基準によって、ケースバイケースで判断されることになります。

終わりに

このように、相手が見えないネット取引の場合には、成年者であることの合理的で簡便な確認方法が必ずしも確立されていないという事情も存在していますので、相手が未成年者であることによって取引を最終的に取り消されてしまうリスクが存在していることを、常に念頭に置いておく必要があります。

他方で、未成年者であっても、本人確認との関係で、「詐術」にあたるとして、必ずしも取り消すことができず、その意味で保護を受けられないケースがあることに注意すべきでしょう。

(村田充章/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/