520回でも触れたが、ヘリコプターの運用能力を持つ水上戦闘艦であれば、搭載機が迷子にならないように誘導するため、TACAN(Tactical Air Navigation)を備えていることが多い。これを作動させると、受信機を持つ機体の側では発信源の方位と距離が分かる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

誘導以外にもさまざまな電測兵装が必要になることが

水上戦闘艦で、搭載機に関わる電測兵装というと、このTACAN装置以外では、ヘリコプターと自艦を結ぶデータリンク装置ぐらいだろうか。

日米の水上戦闘艦では、ヘリコプターは「艦が持つ戦闘システムの一部」という色彩が濃いようで、ヘリコプターが持つセンサーで得たデータは、データリンクを介して艦に送り、共有する。それに、ソナーで得た音響データの解析なら、艦上の装置の方が充実したデータや能力を持っているかもしれない。

ところが国によって、この辺の流儀は異なる。国によっては、ヘリコプターの独立性を重んじるというか、「いちいち艦の方から口を出されたくない。ヘリコプターには好きにやらせて」……というと極端だが、それに近い事例もあるようだ。

いささか話が脱線した感があるが、TACANとデータリンク装置ぐらいであれば、アンテナはそんなに場所をとらない。他の電測兵装との干渉には気を使わなければならないが。

  • 護衛艦「うみぎり」の前部マスト。最上部に載っているお皿がTACANのアンテナで、そこから3段下に載っている白いドームが艦載ヘリコプターと通信するためのHSデータリンク 撮影:井上孝司

多数の航空機を運用するとなると

ところが艦によっては、同時に多数の航空機を運用することがある。分かりやすいところでは空母だが、空母型の強襲揚陸艦も事情は似ている。

強襲揚陸艦の特徴は、揚陸艇や水陸両用車を用いる「海からの上陸」だけでなく、飛行甲板から輸送ヘリコプターを飛び立たせて「空からの上陸」も仕掛けられるところにある。といっても1機に乗せられる人数は二十数名がいいところだから、1機ずつチマチマ飛ばしていたら各個撃破されてしまう。可能な限り、まとまった数を送り込みたい。

そこで米海軍の強襲揚陸艦になると、同時に6~7機ぐらいは発着できるようだ。そうなると、艦の周囲を飛び回る機体の数も増える。

だから米海軍では、空母だけでなく強襲揚陸艦にも、対空捜索レーダーとは別に、航空管制レーダーを載せている。艦とその周囲を飛んでいる機体の動向を把握するためのものだから、そんなに探知可能距離は長くなくてもいい。

否、なまじ探知可能距離が長いと、それだけ敵に逆探知される可能性が上がるから、探知可能距離は程々でいい。そういう観点からすると、対空捜索レーダーで航空管制を兼ねるのは、あまりありがたい話とはいえないかもしれない。

  • 米空母「ロナルド・レーガン」がマストの艦尾側に搭載している航空管制レーダー。こちらは用途の関係で全周をカバーしたい 撮影:井上孝司

着艦進入支援用の電測兵装

このほか、前回にも触れたように、着艦進入支援用の電測兵装を載せることもある。ことに空母では不可欠なアイテムで、艦の後方から進入する機体を捕捉追尾するためのレーダーが載る。陸上でいうところのGCA(Ground-Controlled Approach)と同じ考え方。

  • 米空母「ロナルド・レーガン」がアイランド後方に搭載している着艦進入誘導レーダー。着艦する機体は後方から進入してくるので、後方が開けた場所に設置する必要がある 撮影:井上孝司

ところが最近、米海軍ではGPS(Global Positioning System)とデータリンクを組み合わせたAN/USN-3 JPALS(Joint Precision Approach and Landing System)の導入を始めている。艦と機体のそれぞれで自己位置を三次元で精確に把握、その情報をやりとりしながら適切な進入経路に乗せるという考え方。これならレーダーは要らないが、データリンクは要るから、やはりなにがしかの電測兵装設置という話になる。

なお、後方から進入して着艦拘束装置で行き脚を止める通常型空母でJPALSみたいな仕掛けが要るのは理解しやすいが、実はF-35Bを運用する艦でもJPALSを載せる。我が国でも、「いずも」「かが」のF-35B対応改修に際してJPALSを載せることになっている。

F-35Bの着艦は垂直着艦で、まず艦の左舷側でホバリングして位置を合わせてから、右にググッと横移動して飛行甲板の上に動き、そこでパワーを絞って甲板にドスンと降ろす。それなら目視でもなんとかなりそうでは、と思えるが、夜間や視界不良環境下での着艦を安全に行うには、やはり誘導の仕掛けが欲しいということだろうか。

なお、これは空母に限ったことではないが、搭載機がいて、それを発着艦させることになると、艦上にいるLSO(Landing Signal Officer)とパイロットの間で無線のやりとりが発生する。だから、通信機を余分に積まなければならないかもしれない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。