艦艇における電測兵装の設置場所決定に際して、「高所の奪い合い」を筆頭とする争奪戦が勃発するのは毎度の恒例。その中でも、とりわけ条件が厳しい艦がある。それが空母である。なぜか。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

飛行甲板を広くとることが至上命令

空母の本来業務は搭載機の発着艦、つまり「浮かぶ飛行場」の機能が最優先される。だから、いわゆる “flat top” の形態が考え出された。とはいえ、見張や操艦指揮、そして電測兵装設置などの必要性から、上部構造物をまったくなくしてしまうのも現実的ではない。第二次世界大戦の頃までは、そういう形態の空母もあったが。

結局、右舷側に必要最小限のサイズの構造物、いわゆるアイランド(日本語では「島型艦橋」と訳される)を設置するのが通例となった。原子力機関なら排煙は出ないから煙突は不要となり、結果としてアイランドは必要最低限のサイズにできる。原子力空母のメリットのひとつ。

  • 米空母「ロナルド・レーガン」の飛行甲板。右端に必要最小限の規模のアイランドを設けて、飛行甲板を広くとっている 撮影:井上孝司

米空母のニミッツ級にしろジェラルド R.フォード級にしろ、あるいはフランスのシャルル・ドゴールにしろ、みんなアイランドは小さい。それは航空機運用の観点からすると良いことだが、電測兵装を設置する立場からすると辛い。物理的にスペースが乏しいのだから。

おまけに、対空捜索レーダー、対水上レーダー、通信関連のアンテナ群に加えて、航空管制レーダーや着艦進入誘導レーダーなど、空母ならではの電測兵装が追加で加わることもある。着艦進入誘導レーダーは後方向きに設置しなければならないし、航空管制レーダーは全周をカバーできないと困る。

ニミッツ級とフォード級のアイランド構造物

ニミッツ級では、艦橋の上部に対空捜索三次元レーダーのAN/SPS-48シリーズを載せて、その後方に立てた棒檣に対水上レーダー、通信関連のアンテナ群、そして最上部にTACAN(Tactical Air Navigation)というレイアウトとした。

このほか、長距離対空捜索用のAN/SPS-49(V)レーダーがあるが、これはアイランドの後方に独立したマスト、あるいはアイランドの後部と一体化したマストを立てて、そこに載せている。

  • 「ロナルド・レーガン」のアイランドまわり。この限られたスペースに、大半の電測兵装が集中しているのだから大変だ 撮影:井上孝司

フランスのシャルル・ドゴールも似たような載せ方をしているが、遠距離用の対空捜索レーダーがないことと、アイランドの幅が広いことから、ややマシといえるかもしれない。

フォード級は対空用のレーダーを、3面のフェーズド・アレイ・レーダー、AN/SPY-3 MFR(Multi-Function Radar)に変えた(2番艦以降はAN/SPY-6(V)3になる)。前方と後方左右の合計3カ所に設置しなければならないが、これはアイランドの構造物と一体化したので、他の電測兵装にとってはライバルが減ったことになる。

もっとも、その分だけアイランドも小型化されたから、場所の奪い合いという観点からすると、却って面倒になったかもしれない。

通常動力空母の方がしんどい

通常動力艦では、アイランドは煙突の導設先でもある。そして、空母は発着艦の際に合成風速を稼ぐ関係で高速性能が求められるので、主機も大馬力になり、結果として煙突や上部構造にも影響が及ぶ。

かつての英海軍のインヴィンシブル級、そして現在の海上自衛隊のヘリコプター護衛艦は、前後に離して右舷機と左舷機のガスタービン機関を設置している。だから、そこから導設される煙突も前後の間隔が空くことになり、アイランドは前後に長い。

しかしこれは、航空機運用の観点からいえば、「もっとコンパクトにしてくれないかなあ」というところかもしれない。ところが一方で、電測兵装の設置場所を決める際には、アイランドが大きい分だけスペースを確保しやすいことになる。

  • ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」のアイランド。前後に長いので電測兵装の設置スペースとして見ると余裕があるが、その分だけ飛行甲板のスペースは減る 撮影:井上孝司

面白いのは英空母クイーン・エリザベス級。このクラスは統合電気推進を使用しているが、発電用機関は前後に離して配置した。そこから上に煙突を導設しているが、アイランドを分割して、前後に小さいアイランドが一つずつ載る形になった。

そして、S1850M対空捜索レーダーは前部アイランド、ARTISAN(Advanced Radar Target Indication Situational Awareness and Navigation)対空捜索レーダーは後部アイランドに載せている。レーダーはこれで良いが、その他のアンテナ群の配置には苦労したところかも知れない。そこでよく見ると、後部アイランド、ARTISAN設置位置の前方に細い棒檣を立ててあり、ここにESM(Electronic Support Measures)などのアンテナを取り付けて、最上部にはTACANを置いているようだ。

  • 英空母「クイーン・エリザベス」。アイランドを前後に分けて、それぞれに電測兵装を分散配置している 撮影:井上孝司

通常動力空母や、その他の水上艦では煙突も厄介な存在だが、その話はまた回を改めて。

空母のお約束は起倒式アンテナ

低い周波数の電波を扱うアンテナ、例えば短波無線のアンテナは、電波の波長が長い分だけ大型化する。しかし大きな上部構造がない空母では、大きなアンテナを設置する場所がない。

そこで出てきた回答が、棒状のアンテナを飛行甲板の周囲に立てる方法。しかしアンテナがニョキニョキと林立していたのでは発着艦の邪魔だから、アンテナを起倒式にした。つまり、フライト・オペレーションの間はアンテナを倒してしまい、それが終わったらアンテナを立てる。

これは手近なところで、米空母だけでなく海上自衛隊のヘリコプター護衛艦でも見ることができるアイテム。艦が一般公開されたときには観察できるだろう。たいてい、飛行甲板には上げてもらえるから。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。