2023年3月8日、KDDI、情報通信研究機構(NICT)、NECソリューションイノベータは、日本総合研究所(日本総研)の協力を得て、高齢者向けの対話AIシステムを活用した介護の実証実験を実施し、業務の負荷を軽減することに成功したと発表した。

ではこの実証実験とは、具体的のどのようなものだろうか。そして、介護モニタリングの業務負荷をどれほど軽減できたのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

ケアマネジャーの負担を減らす対話AIシステムとは

まず、今回実証実験が行われた対話AIシステムについて見ていこう。下の図をご覧いただきたい。同システムには、ぬいぐるみ型の対話端末とスマートフォンアプリの2種類があるという。利用の際、高齢者には端末に向かって対話をしてもらう。

  • 今回の実証実験で使用されたぬいぐるみ型端末と、スマートフォンアプリのイメージ図

    今回の実証実験で使用されたぬいぐるみ型端末と、スマートフォンアプリのイメージ図(出典:NICT)

この対話AIには、彼らが開発したマルチモーダル音声対話システム(MICSUS)が搭載されている。このMICSUSには、介護の専門家の知見が取り込まれており、300万件の言語資源データから言語モデルを構築することで、ユーザー発話の意味解釈を高度化し、遠まわしな発話にも対応する高度な自然言語処理を実現しているというから驚きだ。またその対話においては、ネット上の情報やニュースなどに関連した雑談もできるという。

介護モニタリングの業務負荷軽減に成功した実証実験とは

今回の実証実験では、サービス付き高齢者向け住宅や自宅などで暮らす高齢者179名を対象に、MICSUSを組み込んだ端末を通じてケアマネジャーと計927回の面談を行ったという。そしてケアマネジャーはその対話を通じて、高齢者の健康状態や生活状況の変化、画像からは表情やうなずき、そして音声からは音韻の特徴などのデータを収集・記録する。

では、実証実験によってどのような結果が得られたのだろうか。この対話AIシステムを使うことで、ケアマネジャーが普段高齢者との1回の面談で費やす時間の平均が、約7.0分から約2.2分へとおおよそ7割短縮できたという。

また、対話AIシステムだからといって高齢者が操作しづらいかというとそうではなく、その半数以上が笑顔や積極的な興味を示したりするなど、コミュニケーション不足の解消に寄与できていることも示唆されたとのこと。また、MICSUSを通して健康状態や生活習慣に対して質問し、高齢者がそれに回答する形での対話でも、高齢者の健康状態や生活習慣を約93%の精度で収集し、同程度の精度で適切な応答も可能だったとしている。

  • 対話AIシステムを使った実証実験の様子

    対話AIシステムを使った実証実験の様子(出典:NICT)

いかがだっただろうか。高齢化社会となった日本では、高齢者の孤立やコミュニケーション不足による健康悪化のリスクが社会課題となっている。またそれに伴って介護の需要は増しており、ケアマネジャなどの労働力不足も懸念されている。そんな時勢において、内閣府による「SIP第2期」に採択されたというこの実証実験は、どのようなものだろうか。このような取り組みはとても価値の高いものと考えられる。

今後彼らは、このシステムの社会実装に向けてさまざまな取り組みを行い、そして事業化を目指すという。