2023年3月14日、スイス連邦材料試験研究所(Empa)は、足裏にかかる圧力を随時測定することができるインソールを、3Dプリントによって製造する技術を開発したと発表した。では、この3Dプリントインソールはどのようなことに役立つのか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

センサを搭載したインソールを3Dプリントする技術をEmpaが開発

まずは、以下の画像をご覧いただきたい。これは、3Dプリントしている最中のインソールだ。

  • 3Dプリント中の圧力センサ搭載インソール

    3Dプリント中の圧力センサ搭載インソール(出典:Empa)

インソールの大部分を占める主な素材はシリコーンとセルロースの混合剤で、足裏のクッション性や電気的な絶縁などを担っている。またインソール上に見える線は、銀を含む導電性のインクで引かれている。そして、白色の丸いパッチのようなものも確認できるだろう。これが、このインソールで重要なセンサだ。圧電効果を利用したこのセンサは、足裏にかかる圧力の測定で重要な箇所へと正確に配置されている。これらの素材や部品、導線は、3Dプリンタによって積層構造で実装されている。

センサを搭載したインソールの開発に加えて、3Dプリンタで一気にインソールを製造できる点も、大きな研究成果の1つだといえる。Empaによると、この積層構造の接着にかなり苦労したといい、最終的には高温プラズマで処理する方法を生み出し、ようやく完成に至ったとしている。

インソールを3Dプリントする様子(出典:Empa)

足裏への圧力を測定するメリットとは?

一瞬の差が勝敗を分ける一流のアスリートにとって、パフォーマンスを最大限発揮するためには、自身の足裏にかかる圧力のバランスを把握することも重要になる。調子が良い時のバランスを維持することができれば、パフォーマンスも向上することになるだろう。

このようなニーズが集まる足裏の圧力の測定において、これまではカスタムメイドのインソールが用いられていたという。しかしこのインソールは、不快感や痛みが生じ、快適な状況で測定できないことがあったという。

また別の方法として、感圧マットの上を裸足で歩き、その圧力を測定する方法も取られてきたとのこと。だがこの方法は、データ取得に時間がかかる点や、限られたスペースでの測定になってしまうことなどから、データの正確性に課題があったというのだ。

Empaが、靴に入れるだけで足裏の圧力を測定できるインソールを開発した背景には、こうした課題がある。今回開発されたインソールによって、より正確で自然な圧力データをワイヤレスで計測することができるのだ。

また、そのメリットはアスリートに限定したものではない。このセンサでは、歩行・走行・重量物を背負った状態など、さまざまなデータを把握することができる。このデータを活用することで、日常生活における姿勢管理、あるいはケガをした際の治療やリハビリなどの効果を測定するのにも役立つとしている。

なお今回の研究成果は、科学誌「Scientific Reports」にも掲載されている。

いかがだっただろうか。今回紹介した開発品を、単なる3Dプリントされたインソールだと軽視してはいけない。この新しいアイデアにより、スポーツや理学療法などの分野に新しい光が照らされるのではないかと感じている。とても素晴らしい研究だ。