東京大学(東大)の稲見昌彦教授が研究総括を担う「自在化身体プロジェクト」をご存じだろうか。人間がロボットや人工知能などと"人機一体"となることを目指すこのプロジェクトでは、その一環として2023年2月1日に、「自在肢(JIZAI ARMS)」の映像が公開されている。今回はその自在化身体プロジェクトについて、少し深掘りしながら紹介したいと思う。

  • 東大の稲見教授が先導する「自在化身体プロジェクト」から、装着することでしなやかな動きを見せる「自在肢(JIZAI ARMS)の映像を公開した。果たして彼らは、どんな未来に向かって研究を進めているのだろうか

    東大の稲見教授が先導する「自在化身体プロジェクト」から、装着することでしなやかな動きを見せる「自在肢(JIZAI ARMS)の映像を公開した。果たして彼らは、どんな未来に向かって研究を進めているのだろうか(出典:自在化身体プロジェクト)

自在化身体プロジェクトが目指す"人機一体"

自在化身体プロジェクトとは、人間とロボットなどが"人機一体"となり、自己主体感を保持したまま自在に行動することを支援する「自在化技術」の開発や、それによりもたらされた認知心理や神経機構の解析をテーマとする、先駆的な研究プロジェクトだ。

もう少し詳しくいうと、最先端テクノロジーを活用して、人間と情報環境とのインタフェースを柔軟に設計する「身体性編集」の基礎的知見の解明や設計指針の確立が目指されている。さらに、設計した自在化身体とそれがもたらす心と社会の変容を、実社会とバーチャル社会において検証することも目的としているという。ちなみにここでいう最先端テクノロジーには、VR・ヒューマンアシスティブロボット・ウェアラブルコンピューティング・脳情報デコーディング・機械学習などが挙げられる。

同プロジェクトは、東大の稲見教授が研究総括を担い、早稲田大学、慶應義塾大学、豊橋技術科学大学、電気通信大学、フランス国立科学研究センター(CNRS)、ジザイエの7拠点から研究者が参加し、以下の5グループで横断的な研究開発を行っている。

  1. 自在化身体構築グループ(Group1)
  2. システム知能・神経機構グループ(Group2)
  3. 認知心理・行動グループ(Group3)
  4. バーチャル身体構築グループ(Group4)
  5. 自在化身体調査研究グループ(Group5)

以下の図では、自在化身体プロジェクトにおける各グループの役割やそれぞれの関係性などが示されている。このプロジェクトは、2017年10月から2023年3月まで、超スマート社会に適応できる自在化身体を構築する技術基盤を確立することを目指しているという。

  • 自在化プロジェクトにおける5グループの概要図

    自在化プロジェクトにおける5グループの概要図(出典:自在化身体プロジェクト)

自在肢を身体の一部にして舞い踊る映像を公開

2023年2月1日には、プロジェクトの一環として自在肢を使った1つの映像が公開された。自在肢とは、複数の自在化身体間のインタラクションを探るためにデザインされたもので、6つのターミナルを持つベースユニットと、装着者が制御可能な着脱式ロボットアームからなるウェアラブルシステムだ。そのデザインは白を基調として細く美しいものになっており、複数の装着者間での腕の交換も可能だという。

以下の映像では、女性の身体側部から自在肢が伸び、音楽に合わせて優雅に舞う姿が映されている。自在肢の動きを見ると、女性の身体の一部とも、もう一人のパートナーの身体の一部とも感じ取れる。このような装着者との一体感、違和感のない滑らかでしなやかな動きが魅力的だ。今回公開された自在肢は、自在化身体の初期段階における開発品だとは思うが、人間の行動拡張性について何らかの示唆をもたらす素晴らしい成果だ。

自在肢を装着した女性が踊る様子。本人の身体とも、パートナーの身体とも感じられるその動きは、自然なしなやかさが特徴的だ(出典:自在化身体プロジェクト)

いかがだったろうか。稲見教授が取り組む研究は、とても魅了されるものが多い。例えば、再帰性投影技術を活用した透明人間ならぬ「光学迷彩」、眼電位を計測可能なメガネ 「JINS MEME」、そして超人スポーツ 「Bubble Jumper」なども有名だろう。今回新たな発展を見せた自在化身体プロジェクトによって、「身体を変幻自在にする」未来もそう遠くはないのではないだろうか。楽しみだ。

2023年3月22日訂正:記事初出時、自在化身体プロジェクトの説明として、一部「自己主体感」と記述すべきところを「事故主体感」と記載しておりましたので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。