筆者は最近、多くの採用面接に関わりました。その一つがデジタルマーケティング担当者の採用です。数名を面接したのですが、多くの人が笑っちゃうくらい同じことを言うのです。

それは、「私は、広告運用に戦略を立てて、KPIを設定して、PDCAで回して、結果を出しました」というもの。

途中からは筆者も意地悪になり、「ほとんどの人は同じことを言いますが、あなたは何が違うのですか?」と質問していました。「ウッ」と詰まる人が多かったですね。

さて、上記のデジタルマーケティング候補者たちの言い分は、実はかなり間違った表現です。そこも気にいらないところです。みなさんは、どこか分かりますか?

・そもそも戦略とは収益を上げるための作戦であり、広告運用については「プラン」です。プランが悪いわけではないです。PDCAのPです。
・KPIも同じように、収益や利益であるKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)を達成するための重要指標であり、それは単なる指標です。
・広告運用はPDCAではなく、実際もっと早いサイクルで改善活動をしているはずです。1週間かけてPlanを練り、1カ月間Doして、翌月にCheckする……そんな悠長なことをしていたら、広告費は一瞬で溶けます。ですからPDCAは、適切な言葉ではありません。

今回はそんなPDCAの話題です。

PDCAの由来と限界

そもそも「PDCA」は、1950年代に統計学的品質管理の権威であるエドワーズ・デミング博士(W. Edwards Deming)らによって日本で提唱されました。製造業の現場の改善に使われ、他の分野に広まっていました。

PDCAという言葉は、日本では氾濫していますが、海外ではまず通用しません。以前、外国人の上司にPDCAで改善しますと言ったら、「それ何?」って質問されました。

かつての高度経済成長期には最強のツールだったPDCAも、現代の変化の激しいVUCA時代においては、限界が指摘されています。システム開発のウォータフォール型のようなイメージです。以下が指摘されている3つの限界です。

①スピード感の欠如

PDCAは「じっくり計画(Plan)を立てる」ことから始まります。しかし、市場の変化が速い現代では、計画を立てている間に前提条件が変わってしまうことが多々あります。また、正解が分からない状況では、まずはやってみて、状況をみて改善するということが極めて重要です。また、広告運用のように、常にアジャイル型で改善していく「サイクル」がPDCAには欠如しているのです。

②何かを生み出すには不向き

PDCAは「既存のプロセスを改善する」のには向いていますが、「全く新しいものを生み出す」ようなイノベーションには不向きです。あくまでも計画であり、開発をするわけではないからです。

③「Check」と「Act」の形骸化

多くの現場で、やりっぱなし(Do)で終わってしまい、検証(Check)や改善(Act)が疎かになりがちです。その場では反省しますが、そのチェックの結果から次につながるアクションをほとんど見たことがありません。仕組み化ができない組織が多いのも1つの原因です。

そもそもPlan→Do→Check→Actで、DoかCheckに戻らないといけないですよね?筆者はいまだに、「ActがどこまでDoをカバーしているんだろう」と疑問をもちます。Actとは結局、次Actionを決めることです。でも、多くのPDCAは『以後気をつけます』という反省で終わっているのです。それはActではなく、単なる感情論になりかねないです。

ですから、これからはPDSだという方もいらっしゃいます。Plan→Do→Seeをグルグル回すという意味です。こちらの方が筆者の感覚に近しいです。

PDCAを補完する4つの方法

PDCAを適応できる領域もありますが、よりスピードを求める場合は、以下のような手法があります。

アジャイル

短いサイクル(スプリント)で試作と改善を繰り返す手法で、説明が不要なほどソフトウェア開発や新規事業立案では広く使われています。PDCAが「大きな1周」を時間をかけて回そうとするのに対し、アジャイルは極小のPDCAを猛スピードで回し続けるイメージです。

反復(イテレーション)で雪だるまのように拡大し、実施に動くものを優先して、最初に決めた計画に固執せず、途中の変更を歓迎するのが特徴です。

OODAループ

これはもともと、アメリカ空軍の戦闘機パイロットだったジョン・ボイド氏が、空中戦で生き残り、勝利するために考案した意思決定の理論です。変化が激しく、即断即決が必要な現場に向いています。そうしないと撃ち落されますからね。

Observe(観察)して情報収取し、Orient(情勢判断)して、今、何が起きているのかを理解し、何ができるかの方向性を決めます。そして、Decide(意思決定)し、即座に決定したことをAct(実行)します。ループとついているように、OODAをグルグル回します。

ケイデンス(Cadence)

本稿ではこれを少し詳しく説明します。

ケイデンスは、年間を通して、主要な活動に対し、四半期ごと、隔月、毎月、隔週、週などの単位で、状況確認のための会議の日程を決めておき、それをリズムよく実行していきます。

タスクによってレビューのタイミングが異なるため、適切な会議の周期を設定するのです。当然、修正プランもそこに含まれています。自転車のケイデンス(ペダルの回転)のようにリズミカルにオペレーションを回していくイメージです。

  • エンタープライズIT新潮流73-1

マーケティングやセールスのオペレーションにおいて、欧米ではよく使われる用語です。日本ではあまり馴染みがないかもしれません。マイクロソフトに筆者が勤めていた当時、Rhythm of Business(ビジネスのリズム)と呼んでいました。そっちの方がイメージつきやすいですよね。

例えば、月曜の朝はOODAで現場の動きを確認し、隔週の金曜はケイデンス(定例会議)で軌道修正を行う。このように「リズム」を仕組み化することで、個人の能力に頼らず組織として勝手にサイクルが回るようになります。オペレーションにぴったりです。

年間の会議スケジュールを年度の始めに設定して、オンラインのスケジュール管理に入れてしまうのが効果的です。そのときは、会議の目的や参加者への期待、会議の結果なにを得るのかも定義して、会議の招待にいれます。

留意点としては、ケイデンスで回しても日々の改善はアジャイル型で迅速に行うということです。会議を待ってレビューを受けて改善では遅いのです。レビューはあくまでもそのときに状況の確認とアクションの確認です。そうして進捗させていくのです。

PDCAは万能な方法ではありません。言葉遣いも含めて、それに固執せず、最適な方法で、グルグル回すことをお勧めします。その際、こんなイメージをもつと良いでしょう。

PDCA:改善(工場のラインを1%良くする)
OODAループ:反応(飛んできた弾を避ける)
アジャイル:探索(霧の中で宝箱を探す)
ケイデンス:規律(心臓の鼓動のように組織を動かす)

そして、外国の方にはPDCAとは言わないように!笑