ビジネスワーカーにも才能は必要か?

英語では、才能を「Gift」と言います。要するに、才能は与えられた贈りものであり、持って生まれ持ったものと位置付けられるのです。「音楽の才能がある」と英語で書くと、「Have a gift for music」となります。筆者も音楽をやってきたので分かりますが、根性と練習だけでは超えられないGiftを持つ人は確実にいます。偉大なミュージシャンを見れば分かりますよね。

アスリートもそうですね。天才と言われる人もいます。ビジネス界にも、スポーツ界にも、芸術界にも天才はいます。この天才と才能は別と考えます。天才は何かを変革した偉業を成し遂げた人で、その人への称賛の言葉です。

では、われわれのようなビジネスの仕事をしている人にも、Giftは必要でしょうか?残念ながら必要です。筆者は30年近く人を管理する仕事を担当してきましたが、人材の育成というのは大きなテーマで、しかも悩ましい課題であり、すべての人に同じやり方は通用しません。なぜなら、このGiftが大きく影響するからです。

筆者は、結構努力が好きです。たぶん、向上心がとても強いのだと思います。昔の上司に言われた「北川さんは、脳を鍛えるのが趣味だね」という言葉が、私の性格をとても表していると思います。ですから、他者に対しても楽観的に、脳を鍛えればその人が成長できると考えてきた節があります。

ただ、その楽観的な考え方のまま部下を管理をしてきたと考えると、部下育成での通信簿はあまり良くありません。実は、多くの人はそんなに努力しないのです。LinkedInがそれなりに普及してきてもかなり一部の意識高い系の人の利用にとどまっていますし、普段からビジネス書をよく読んでいる人は本当に少ない気がします。

特に日本ではその傾向が顕著で、パーソル研究所の調査「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」の社外の学習・自己啓発セクションをみると、日本はAPACの中で一番学習しない国になっています。

最近、少し前に出版された書籍『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0』(日本経済新聞出版 著者:トム・ラス)を読んで、その要因について、「なるほど」と思った内容があります。同著によると、「ビジネスに必要な基本的な才能が3つある」のだそうです。「さてなんでしょう?」と知人に質問しても、大概は1つくらいしか答えられません。

ビジネスワーカーに求められる才能とは?

答えを発表します。その3つとは、「考える力」「努力する力」「人と仲良くなる力」です。このように言われると、同意される方が多いのではないかと思います。

考える力とは、英語で表すと「Think」です。Thinkには「~と思う、判断する(みなす)、信じる、~するつもりである、意図する、熟考する、思案する、よく考えて決める、思い出す、想像する、思い描く」など、多くの意味があります。これらは、戦略やプランの作成、物事のすすめ方など、すべての基盤になるかと思います。

そういえば、IBM社が"Think IT"というタグラインを使っていますが、あれはもともとNCR社の工場に貼ってあった標語「Think」からです。IBM社の創設者がNCRの工場に勤めていたときに、「あ、これいいな」と思って流用したのです。Thinkせよ、です。

努力する力とは、工夫して継続して成し遂げる力、そして、改善していく力です。自身のスキル向上やビジネスプロセスの改善など、仕事はどれも努力が必要ですよね。英語の「effort」は古いフランス語が語源で、ef(外へ)+fort(強い・かたい)が合成され、「力を外へ出し尽くして励むこと」との解釈だそうです。出しつくすくらい努力しないといけません。

人と仲良くなる力は、言葉の通りです。われわれは組織内や組織外や企業外の人と仕事をするので、とても大事な力です。コラボレーションの基盤ですね。一方で、書籍『「静かな人」の戦略書――騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ダイヤモンド社 著者:ジル・チャン)にあるように、人づきあいの苦手な静かなに人も違うやり方があるので面白いです。

この3つの力について考えてみると、手前みそですが、私は基本的なGiftを持っている気がします。自慢です!ただし、人と仲良くなる力はあまり自信が持てませんが。

『マインドセット』(草思社 著者:キャロル・S・ドゥエック)という書籍があります。同書は「ビル・ゲイツ絶賛!」と帯に記載されているのですが、とても良い本です。同書では、人間のマインドセットをしなやかなマインドセットと硬直したマインドセットに分類しています。

しなやかなマインドセットとは、現状に満足や悲観しないで努力する人であり、努力することを認めてほしい人です。反対に、硬直したマインドセットとは、現状の能力や知能を認めてほしい人で、"CEO病"とも表現されていました。前者の方が成長するに決まっていますが、やっぱり努力する人って才能だと思いますね。

こうした学びによって、筆者はビジネスに必要なスキルや知識の習得が3つのGiftで成り立っているのかと思うようになったのです。少なくとも、考えて、努力しないと、これらの力は習得できないからです。

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才能あるビジネスワーカーと組織作り

では、Giftは後天的に身に着けられるのかというと、「先天的なものなので無理」という身も蓋もない結論になってしまいます。ただ、自分のGiftにまだ目覚めてない人を支援して、その能力を発揮してもらうということは可能です。

筆者はとても楽観的です。考える力、努力する力、人と仲良くなる力は、0か100かの世界ではありませんね。高ければ高いほど良いとは思うのですが、誰もが少なからず備えている能力でもあります。筆者としては、人間の可能性を信じて他者のこれらの能力を伸ばしてあげたいと考えています。皆さんも自分の才能を信じて、鍛えられてない脳を鍛錬してください。

先述の『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0』で学んだことがもう1つあります。それは、組織のパフォーマンスを最大化する方法です。Giftを持ったハイパフォーマーの育成を優先して、組織全体のパフォーマンスを上げるという手法です。

ハイパフォーマーは適切な担当割りとコーチングによって著しい成果を上げるので、少し放置する場面が多くなるかもしれません。しかし、そこにこそ管理者は注力すべきだということです。

それに、動詞のPerformの語源がper(完全に)+form(形)であるように、われわれが求められるパフォーマンスは何かを創り出すことではなく、ある形を完全に実行することなので、ちょっと肩の力を抜いてでも遂行すればいいのです。

筆者の欠点の1つに、パフォーマンスが上げられていない人をついつい手厚くサポートしてしまうことがあると感じています。自分の中のどこかで、人はカフカの『変身』のように変われるという、楽観的な想いがあるからだと思います。現在は考えを改めている途中です。

ここまでを振り返ると、組織やプロジェクトの中にも3つのGiftを持った人が欲しいですよね。もしそうであれば、採用に力を入れなければいけません。面接も含めて、採用プロセスを充実させるのが最も大事になります。

その中で、3つのGiftをそれぞれどれくらい持っているのかを評価する質問やテストを作り上げ、評価して、Giftを持っている可能性のある人を採用するのです。Giftのある人が増え、その人たちが動きやすい環境を作っていくことで、企業の成長プロジェクトの成功の可能性が上がるのです。さらに、その評判が高まればGiftを持った候補者をより引き付けることが可能になり、正の循環が生まれるのです。

才能は天才とは違います。天才はやっぱり特殊な存在で、「特別なGift」を持っている人です。書籍『天才 ~ その隠れた習慣を解き明かす』(すばる舎 著者:クレイグ・ライト)では、「天才は、才能と努力で作る」と記されています。ただ、努力するのも才能ですから、天才は本当に才能の塊なのです。そして、何より大切な才能は、努力することなのかもしれません。筆者の記事をここまで読んでいる人は、きっと努力するGiftをお持ちなのだと確信していますよ。