社内の従業員だけでなく社外のステークホルダーにまで対象を広げた「拡張エンタープライズラーニング」は、さまざまな業種業界で実践例を見つけることができます。

例えば、IT企業が自社の新人エンジニア向け研修のスライド資料を公開することがありますが、これも一種の拡張エンタープライズラーニングと言えます。

今回は、そうした拡張エンタープライズラーニングの5つの活用シーンを紹介します。

顧客教育

自社の顧客に製品知識や活用方法を習得してもらうために、コンテンツを配信したり、レッスンを提供することを顧客教育と言います。販売して終わりではないサブスクリプション型のビジネスの場合、成約後も継続的に顧客と関係を構築するうえで、顧客教育は有効な施策の1つになり得ます。

特に最近では、SaaS(Software as a Service) 製品で顧客教育の実践例をよく目にします。CRMプラットフォームである「Salesforce」は、Salesforceについて効率よく学べる「Trailhead」という学習プラットフォームを提供しています。また、クラウド人事労務ソフトの「SmartHR」は「SmartHRスクール」という、SmartHRの操作方法や活用方法が学べるサイトを提供しています。

代理店教育

販売代理店やセールスパートナーを抱える企業にとって、製品知識やマーケティング戦略に関する情報を提供するなど、代理店やパートナーが成果を出せるような支援をすることが、売上アップや顧客の満足度の向上に直結します。

代理店への情報提供を教育という観点で捉え直し、営業マネージャーが新人に対して知識とスキルの習得に力を注ぐように、拡張エンタープライズラーニングに取り組むことで、優れた代理店網を構築できるでしょう。

代理店網の構築にあたっては、前述の顧客教育サイトの中に検定試験や認定制度を設けて、それらを活用して代理店やパートナーのスキルアップを図っているケースもあります。例えば、クラウド会計ソフトの「マネーフォワード クラウド会計」ではパートナーである会計士や税理士などの士業の方向けに「マネーフォワード クラウド検定」という検定制度を提供し、士業事務所のパートナー育成に取り組んでいます。

フランチャイズ教育

フランチャイズ加盟店(フランチャイジー)の開発にも拡張エンタープライズラーニングは活用できます。代理店はさまざまな会社の製品を同時に扱いますが、フランチャイズの場合は、基本的に1社で1事業のみに専念し、製品の取り扱いだけでなく、ブランドや販売ノウハウも一緒に引き受けます。

フランチャイザー(フランチャイズ事業を展開する企業)側からすると、本社のノウハウをいかに効率良くフランチャイジーに習得してもらい、加盟店数を増やせるかどうかが重要です。 美容サロンや趣味・習い事の教室など、フランチャイジー側で専門的なノウハウの習得が必須な業態では、拡張エンタープライズラーニングが特に有効でしょう。

請負業者のオンボーディング

ワークシェアリングやスキマ時間を活用したアルバイト、大手企業でも広がりを見せている副業など、働き方の多様化が進んでいます。業務を発注する企業は、仕事を請ける人たちがすぐに業務に取りかかれるために、また業務上のリスクを低減するために、拡張エンタープライズラーニングを活用するといいでしょう。

請負業者のオンボーディングでは、モバイル対応のLMS(ラーニングマネジメントシステム)がよく利用されます。遵守すべきルールやコンプライアンスについてスマートフォンで手軽に学び、学習履歴も確認できるからです。

弊社が展開しているEE-LMSでも、宅配事業者に導入いただき、ギグワーカーの方々が配送時のルールや接客マナーについて、モバイル端末で学べる環境の構築に活用いただいた例があります。

教育機関や認定団体など、教育を主たる活動とする組織

上記で述べた4つの例は、一般的な事業会社での拡張エンタープライズラーニングの活用例ですが、最後に紹介するのは教育を主たる活動とする教育機関や公的機関、検定の実施や認定証の発行を行う学会や各種団体が活用するケースです。

このような組織では、教育サービスの提供という事業そのものが、拡張エンタープライズラーニングと言えます。学校や塾で先生が生徒に教える活動、研修会社が提供する研修サービス、医学系の学会が配信する講演や認定制度、行政サービスの一環である健康や防災に関する啓蒙活動などが該当します。このタイプの活動でもLMSが多く活用されています。教育サービスを有償で提供する場合も多く、LMSに決済機能が求められることもあります。

また、BtoBではなくBtoCの形で教育サービスが提供されることもあり、システムの運用の際に、ECサイトの運用ノウハウが必要な場合もあります。この例の用途で利用されるEE-LMSを、事業会社が利用するものと区別するためにCE-LMS(Continuing Education LMS、生涯学習LMS、社会人教育LMS)と呼ぶことがあります。

拡張エンタープライズラーニングを実践し、競合よりも魅力的な学習コンテンツを揃え、優れた学習環境を提供することは、競争優位性を築く有効な施策の1つです。ぜひ、拡張エンタープライズラーニングを活用できるシーンが自社にないか探してみてください。

最終回である次回は、企業が自社の学習コンテンツを販売し収益化を実現している例を紹介します。