ここまで、航空自衛隊のF-Xに絡める形で、日本の防衛産業基盤と国際共同開発・武器輸出三原則の問題について取り上げてきた。実のところ、海外から売り込みをかける側からすると、こうした問題もアピール材料である。

もちろん、製品そのものの良し悪しも重要だ。防衛産業に限ったことではないが、競合する製品やサービスには、それぞれ得意な分野・苦手な分野があることが多い。これは戦闘機も同様で、個々の機種が持つ優位点と航空自衛隊が求めているものが噛み合うか、さらに価格や産業基盤維持の問題でどう折り合いをつけるか、といった辺りが機種選定に影響する。

売り込む側としては、有利な点を積極的にアピールして、不利をカバーしようとする。そのことを改めて実感したのが、ボーイング社とBAEシステムズ社の記者説明会だった。

2社が同日に記者説明会をぶつけ合う

F-Xの候補機は既報のように、F-35(ロッキード・マーティン)、F/A-18E/F(ボーイング)、タイフーン(BAEシステムズ/ユーロファイター)となっている。

このうちボーイング社とBAEシステムズ社が2011年2月2日の午前と午後に記者説明会を開催した。同日にぶつけ合ったのだから、ライバル意識満々である。午前中にボーイング社、午後にBAEシステムズ社と発表会をハシゴしたおかげで、スタンスの違いを感じやすかった。

F/A-18E/Fはすでに米海軍が配備して実戦経験も有する機体であり、今後も追加発注が決まっている。そうした背景から、「熟成された安定性」「米海軍で大量調達を決めているがゆえの低コストと低リスク」「多様な任務に対応できる柔軟性」を前面に押し出し、さらに将来ロードマップに基づく発展性をアピールした。

また、戦闘機生産基盤維持の問題についても承知しているから、「旅客機の製造やF-4・F-15のライセンス生産などにおける、日本の航空産業界との過去50年間に渡るパートナーシップ」に加えて、「F/A-18E/Fでもライセンス生産による生産基盤維持が可能」と説明した。

ボーイング社は記者説明会で、リスクや価格の低さと発展性をアピール

では、競合するBAEシステムズ社はどうだったか? タイフーンもすでに6ヵ国で配備が完了あるいは進行中であり、導入機数や累計飛行時間は順調に伸びている。まずはその点をアピールしたうえで、「まずは優れた空対空戦闘能力を実現」「さらに、多様な任務に対応できる能力も実現。既存カスタマーでは合計11の機種をタイフーンで代替する」として、多用途性でも負けていないと主張する。

もちろん、日本国内におけるライセンス生産は可能であり、最終組み立てだけなら話が決まってから12~24ヵ月、部品の製造体制まで立ち上げるのであれば36~48ヵ月あれば実現可能とした。さらに「将来的には、発達型の共同開発に日本メーカーが参加することも可能」とまで踏み込んできたが、それは例の武器輸出三原則等の問題を解決できての話。「日本のメーカーに優れた技術があれば取り込んで活用したい」という思惑もあるだろう。

ちなみに、BAEシステムズ社の記者説明会場は英国大使館で開催され、英国大使のスピーチで幕を開けた。英国政府が自ら後押しをして売り込みをかけているわけで、そこまで国家レベルで本気を出さなければ武器輸出なんぞできるものではないことを如実に示している。

BAEシステムズ社は記者説明会で「3つのP」をアピール

足並みが揃う部分・明確な差が出る部分

タイフーンもF/A-18E/Fも「ステルス性に配慮している」としているが、当初からステルス機として設計したF-35と比べればハンデがある。そこで、「ステルス性がすべてではなく、バランスが重要」という主張で対抗するのが両社の作戦と言えそうだ。

ただし、「米軍との相互運用性」には違いが明確である。F/A-18E/Fは米海軍でも使っている機体だから、ボーイング社は「米軍と同じ機体にしておけば相互運用性を確保しやすい」とアピールする。かたやBAEシステムズ社は「NATO諸国は米軍と共同作戦を行うので、タイフーンはそれを問題なくこなすように作られている。よって、米軍と同じ機体である必然性はないと主張する。防衛省がどちらの主張に理があると見るか、興味深いところだ。