これまで、主として燃料を「積む」場面に関する話を取り上げてきた。軍用機でも民航機でも、長い時間、あるいは長い距離を飛行するには、できるだけ燃料を多く積みたいところだが、そうすると機体が重くなる。クルマも同じだが、燃費を良くすることも同じように重要だ。そこで今回は、飛行機における燃費改善について考えてみたい。

どうすれば燃費が良くなるのか

まず、真っ先に思いつくのはエンジンの改善であろう。同じ推進力を、より少ない燃料消費で発揮できれば、結果として燃費が向上する。高バイパス比のターボファン・エンジンは、それを実現するための究極の姿であるといえる。

もう1つの燃費改善施策は、抵抗の低減である。飛行機が飛ぶ際に発生する抵抗は主として空力的なものだが、細かく分けるといろいろな種類がある。例えば、機体の形状に関わる抵抗があれば、機体の表面を流れる空気流に起因する摩擦抵抗もある。

「えっ」というところでは、機体表面の塗装がある。塗装をはがして塗り直すと表面の平滑度が増して、摩擦抵抗が減るので燃費の改善につながる。それによって得られる燃料費の節減効果で、塗装にかかる費用のモトがとれるという話もあるぐらいだからすごい。

なにしろ、機体の表面を水洗いして汚れを落とすだけでも燃料消費がコンマ何パーセントか減る、なんていう話もあるぐらいだ。そこら辺の乗用車と違い、スピードが速い上に燃料消費の絶対量が多いから、摩擦抵抗低減の効果も大きいわけだ。

ただし軍用機の場合、表面がツルツル・ピカピカだと光を反射しやすくなって存在を暴露する原因を作るので、ツヤ消し塗装が一般的である。たぶん、ツルツル・ピカピカの民航機と比べると抵抗が大きいだろう。もっとも、戦闘機なら表面積は小さいから、まだマシ。厄介なのは大型の輸送機や爆撃機であろう。

極端なことをいえば、塗装すると塗料の分だけ機体が重くなるわけだから、塗装なんかはがしてしまえ、ということになりかねない。実際、記録に挑戦する場面で「機体を少しでも軽くしたい」といって塗装をはがした事例はある。しかし、それでは機体が長持ちしないので、これは「最後の手段」である。

塗装だけでもこんな調子だから、無論、機体の表面が凸凹しているのはよろしくない。突出物があったり、窓や扉のところが凹んだりしていれば、塗装とか機体の汚れとかいうのとは桁が違うレベルで抵抗が増えてしまう。だから、空港でスポットに居並ぶ旅客機を見てみるといい。表面は凸凹が極力抑えられたツルンツルンである。

ただし、そういう話になると軍用機はいささか様相を異にする。武器や増槽などの「吊るしもの」が不可欠だ。また、自らの身を護るための電子戦装置のアンテナ、通信するためのアンテナ、敵を探知・識別するためのセンサー機器など、機体の表面に突出する「ひっつきもの」がたくさんある。

当然、「吊るしもの」や「ひっつきもの」は抵抗を増やして燃費を悪化させる要素になるが、任務を果たすことの方が優先される。その辺は、経済性がとことん重んじられる民航機と違う。

誘導抵抗を減らす

その民航機の分野で、すっかり当たり前の存在となったのが、主翼の端部に取り付けられた各種の空力付加物である。これは、主翼の端部に発生する空気の渦(翼端渦)を減少させたり、発生する方向を上方にそらしたりして、結果として誘導抵抗と呼ばれる空気抵抗を減らそうというもの。

メーカーがいろいろと工夫をしているので、形態のバラエティは意外と豊富だ。ポピュラーなウィングレットは翼端が上方に折れ曲がったものだが、角を付けて折れ曲がっているものもあれば、曲線でつないでいるものもあるし、その曲線もきつかったり緩やかだったりする。

能書きよりも現物の写真を御覧いただくほうがよいだろう。

まず、エアバスの機体に多く見られる、小さな翼端板。A320シリーズやA380でおなじみだ。

A380は小さな翼端板を備えており、主翼断面の後半分で上下に生やしている

A320も同じ… というか、正確にはこちらがA380よりも先である。ただし、最近のモデルだと……

上方に折れ曲がった「シャークレット」と呼ばれるものを装着したモデルもある

ボーイング747-400(国際線仕様)は、ごくごく普通のウィングレット。角を付けて上に折り曲げた形になっている

こちらはボーイング767-300ER。比較的、背の高いウィングレットを備えている

エアバスA350は曲線的で、クルンと丸めたような形状の翼端になっている。真横から見るとあまりピンとこないが、前後方向から見ると特徴がある

他に例を見ない変わった形状なのが、ボーイング737のスプリット・シミタール・ウィングレット(Split Scimitar Winglet)。もともと上向きのウィングレットがあるところに、さらに下向きの部材を後付けして、こういう形になっている。

スプリット・シミタール・ウィングレットを備えるボーイング737。日本のエアラインでは導入事例はないようだ

最近になってボーイング社が多用しているレイクド・ウィングチップは、軽量化と誘導抵抗の低減を両立しようとした工夫の1つだと言える。最近の、ボーイングの長距離向け機材は大抵ウィングレットではなくレイクド・ウィングチップを使っている。

ボーイング787はアスペクト比が高く、しかも反り返った主翼が特徴だが、その主翼を見ると翼端部だけ後退角が大きい。曲線的に成形してあるので目立たないが、これもレイクド・ウィングチップの一種と言えるだろう。

レイクド・ウィングチップのアップ。これは777-300ERのものだが、747-8も似たような形状のものをつけている

ウィングレットをわざと付けないこともある

飛行する距離が長い長距離国際線ほど、空力的な燃費改善が効いてくる。近距離の国内線では上昇して巡航に移ったと思ったら降下を始めてしまうので、巡航時間は短い。そうなると、ウィングレットのような空力付加物の効果は限定的。

しかも、軽量化のための工夫をしているとはいえ、ウィングレットを追加すれば、その分だけ確実に機体は重くなる。だから近距離国内線仕様の場合、わざとウィングレットを付けないこともある。

その典型例がボーイング747-400。日本の国内線で使われていた、いわゆる747-400Dはウィングレットなしである。ボーイング767-300のウィングレット付き、ボーイング777-300のレイクド・ウィングチップ付きも同様で、国際線仕様だけ。国内線仕様にはついていない。

777-300の場合、レイクド・ウィングチップ付きの国際線仕様は国内線仕様より3.9m幅広になる。翼幅が広がると、スポットに入りきれない問題が生じる可能性が懸念されるが、これぐらいの差分ならなんとかなるようだ。

最近は、787やA350みたいに、もともと翼幅が広い機体が増えている。そのうち、スポットの間隔を見直さなければならない時期が来るだろうか?