本連載の第2回で「主翼のボックス構造を密封して燃料タンクにしている」という話を書いた。戦闘機だと事情が異なることもあるが、民航機や軍用輸送機では、まずは燃料タンクにするのは主翼の中である。主翼の曲げ荷重を緩和するのに役立つから、ちょうどいい。

燃料タンクの設置場所いろいろ

その燃料タンクが、今回のお題。乗用車だと、燃料タンクは1つしかないのが普通だが、飛行機だと事情が違う。必要とする燃料をまとめて搭載できるような、大きな燃料タンクの空間を確保できるとは限らないからだ。

それに、大きな燃料タンクが1つだけあると、燃料を消費して空きスペースが増えてきた時に、機体の姿勢変化に伴って燃料が暴れそうである。同じスペースでも、複数の小さい空間に小分けにしておくほうが、具合が良さそうではないかと思える。

もちろん、この辺の事情は機体によって異なる。例えば、アメリカで第2次世界大戦の末期に開発した艦上攻撃機、ダグラスA-1スカイレイダーは、コックピットの後ろ側に1つだけ、大きな燃料タンクを設置していた。

タンクの設置位置は重心位置に近い胴体内で、しかも「背が高い」形状をしていたから、燃料を消費した時に発生する重心点の移動や、姿勢変化によって燃料が暴れる問題は少なかったと思われる。

同じ第2次世界大戦中の機体だと、グラマンF6Fヘルキャットは操縦席の床下にタンクを配置していた。豪快(?)なのはリパブリックP-47サンダーボルトで、操縦席の前から床下にかけてL字型のタンクを設けていた。

こういう配置ができるのは胴体が太いからで、これが零戦になると燃料タンクは主として主翼内ということになる。厚みは少ないが面積が広いから、主翼内に燃料タンクを設置すると、かなりの容量を稼げる。もっとも零戦では、胴体内にも燃料タンクがあったが。

今時の戦闘機だとどうか。例えば、F-35ライトニングIIは、胴体内に9ヶ所、それと左右の主翼内、合計11カ所に分けて燃料タンクを設置している。胴体内タンクの最前部は左右一体、その他は左右に分かれているので、合計が奇数になっている。

F-35ライトニングII Photo:Lockheed Martin photo by Todd R. McQueen

ステルス性を確保するには外部に燃料タンクをぶら下げたくないので、機内燃料タンクの容量をできるだけ大きくとりたい。それで、使える機内空間は燃料タンクと機内兵器倉と電子機器室などで埋め尽くされて、もうギチギチである(製作途上の機体を見ると、特にそれがよくわかる)。

もっとも、タンクがたくさんあっても、給油口は1つだけだ。そこから圧力をかけて送り込んだ燃料が、機内にあるすべての燃料タンクに行き渡る。そうなっていないと、空中給油する時に困ってしまう。空中給油で燃料を受けるポイントは1つしかないのだから、そこから全部の燃料タンクに補給できないと、何のための空中給油かわからなくなる。

燃料タンクが複数ある場合の面倒

ところが、燃料タンクが複数あっても、そのすべてを同時に使うとは限らない。決められた順番で1つずつ使っていくのが普通である。もちろん、何事にも例外はある。特に多発機はそうだ。

ボーイング747の場合、左右の翼内タンクがそれぞれ複数のタンクに区切られている。そして、1番エンジンから4番エンジンまで4基あるエンジンがそれぞれ、直後にある燃料タンクから燃料を受け取る形の運用「も」可能だという。この場合、4基のタンクがそれぞれ均等に燃料を減らしていくことになるわけだ。

「も」と書いたのは、エンジンと直後のタンクをひもづけない形の運用が基本だから。個々のエンジンが直後のタンクから燃料を受け取るのは、短距離飛行の場合らしい。

燃料を取り出すタンクを1つだけ決めて、すべてのエンジンにそこから燃料を供給すると、そのタンクが真っ先に空になる。そうなった時に、次に行う操作は2種類考えられる。

まず、まだ燃料が入っている別のタンクに供給元を切り替える方法。もう1つは、燃料が入っている別のタンクから、空になったタンクに燃料を移送する方法。

ただ、どちらにしてもパイロットの注意力と手動操作に依存していると、事故の元である。まだ燃料が残っているタンクがあるのに、コックの切替操作を間違えてガス欠を起こしてしまうとか、燃料移送の操作を間違えるとかいう話、皆無ではあるまい。

ちなみにF-35では、正面の計器盤に設けたタッチスクリーン式液晶ディスプレイの表示モードとして、燃料関連の操作も用意されている。タンクごとの燃料の残量をグラフィック表示してくれたり、タンク間での燃料の移送を指示したり、その際の重心点の変化を計算して表示してくれたり、といった機能がある。

釣合をとるための燃料移送

タンク間での燃料の移送において注意しないといけないのが、第13回で触れた「静安定性」の問題。前方にある燃料タンクから先に燃料を使っていくと、だんだんと頭が軽くなってくる。すると、機体の重心点が後方に移動していく。主翼が発生する揚力の中心点は変わらないから、結果として静安定性を損ねる方向に働いてしまう。

それに対して、後方にある燃料タンクから順番に燃料を使っていけば、機体の重心点はだんだんと前方に移動していく。もちろん程度問題ではあるが、少なくとも静安定性を損ねる方向には働かない。

つまり、「どこから燃料を使うか」が「安定して飛べるかどうか」に関わってくるわけだ。

そこで引き合いに出すのが、すでに引退してしまった超音速旅客機・コンコルド。この機体、速度の増減や燃料の消費が発生した時に安定性を保つ目的で、タンクの間で燃料を移送する方法を積極的に使っていた。

例えば、速度変化によって揚力中心が前方に移動したとする。それによって揚力中心が重心より前に出てしまうと縦の静安定性を維持できなくなるから、後方のタンクから前方のタンクに燃料を移送して、重心点を前に移動させる。速度変化によって揚力中心が後方に移動した場合は逆だ。

コンコルドの燃料タンク配置と、釣合のための燃料移送について図を載せているWebサイトがあったので、参考のためにリンクしておこう。

CONCORDE SST : FUEL SYSTEMS
http://www.concordesst.com/fuelsys.html

この手のトリム制御(釣合制御)は、空力的に行うこともできる。専用の小さな舵面を用意しておいて、それを動かすことで機首の微妙な上げ下げを行い、釣合をとる仕組み。ただ、この方法だと空気抵抗が増えてしまうから、ことにコンコルドみたいな超音速機では具合が良くない。

その点、燃料を移送する方法なら空気抵抗は増えない。だから、コンコルドは燃料の移送によって釣合をとり、静安定性を崩さないようにしたのであろう。