今回のお題は、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)が2021年暮れに発表した、モハーベ無人機。機体の登場からは3年ぐらい経過しているが、最近になって同機を空母や揚陸艦の艦上で発着させる実験が行われているので、改めて「時事ネタ」として取り上げてみることにした。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
モハーベとはどんな機体?
GA-ASIは米陸軍向けに、MQ-1Cグレイ・イーグルという無人機を製造している。名称でお分かりの通り、ベースとなった機体はMQ-1プレデターだ。ただし、搭載する機器に相違があったり、兵装搭載能力が増強されたり、といった違いがある。
そのMQ-1Cを基に、新しい主翼を組み合わせたのがモハーベ。面積を大型化するとともに前縁スラットを追加して、離着陸性能の向上を図っている。面積を拡大することで翼面荷重の縮小を、前縁スラットの追加で揚力の増加を企図したものであろう。
それにより、離着陸滑走距離を短縮している。また、降着装置を強化して、不整地離着陸を可能とした。離陸滑走距離の具体的な数字を出すと、兵装を積まないISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)ミッションなら400ft(122m)、ヘルファイアを12発搭載した状態でも1,000ft(304.8m)。
着陸するときは燃料や兵装を使い果たして軽くなっているという前提なら、着陸滑走距離は離陸滑走距離より短くなると考えられる。
しかも、ペイロードは3,000lb(1,362kg)に増大した。AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルなら16発の搭載が可能だという。ベースモデルのMQ-1が、ヘルファイアを2発しか搭載できなかったのと比べると、大違いだ。
エンジンはロールス・ロイス製のターボプロップ・エンジンに変更して、出力を450hpとした。一方、飛行制御関連のアビオニクスはMQ-1CやMQ-9と共通で、そういうところは合理化が図られている。
まず英空母、次に韓国の揚陸艦で
そして2023年11月15日に、英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」艦上で、モハーベの発着艦試験が行われた。使用したのはGA-ASIの社有機(登録記号N450MV)。
続いて2024年11月12日に、韓国海軍の揚陸艦「独島」艦上でも、モハーベの発艦試験が行われた。このときは、モハーベを積み込んだ状態で艦を出航させて発艦のみを実施、着陸は陸上で実施した。
「独島」は「プリンス・オブ・ウェールズ」と比べると小さい艦だが、それでもモハーベの離着陸滑走距離なら十分に余裕を確保できるサイズがある。
実は、韓国海軍では「独島」の寿命中途近代化改修(MLU : Mid-Life Upgrade)を計画しており、それに併せて無人機を載せる構想を持っている。そこで、同艦で運用できそうな機体ということで、ハンファ・エアロスペースとGA-ASIが組んで、実際にモハーベを発艦させてみたのだそうだ。
モハーベならカタパルトや着艦拘束装置を必要としない。だから、艦側の対応改修は最小限で済む。GA-ASIの説明では、モハーベは150mの長さの甲板があれば発着艦ができるというから、我が国の「いずも」型護衛艦でも使えそうだとなる。
ちなみに、モハーベは2023年の夏にカリフォルニア州エルミラージュで不整地離着陸の試験を実施している。このときのリリースによると、離陸滑走距離は586ft(179m)、着陸滑走距離は335ft(102m)というから驚きの短さだ。ただし、この試験はフィードバックの収集が目的で、最短離着陸距離を追求したものではなかったとしている。それでもこの数字。
ただ、離着陸時の滑走距離が短くて済むといっても、発着艦の際には艦首を風上に向けて、艦尾から艦首に向かう形で滑走することになるので、いわゆる空母型の艦型でなければ対応できないだろう。着艦だけなら甲板の前方に構造物があっても可能かもしれないが、それもあまりゾッとしない話。それに、降りられても発艦できないのでは役に立たない。
おまけ
MQ-1プレデターにしろMQ-1Cグレイ・イーグルにしろ、あるいはモハーベにしろ、対地攻撃兵装の主役はヘルファイアだ。ところが2024年の春に、同機に別の兵装を搭載する試験が行われた。その際に使用した機体も、N450MVである。
使用した兵装は、ディロン・エアロ(Dillon Aero)DAP-6ガンポッド。7.62mmのガトリング機関銃M134D-Hを内蔵しており、発射速度は毎分3,000発、搭載弾数は3,000発。これを翼下に搭載して試射を行い、地上の静止目標を破壊したとのこと。試験全体で、約10,000発を撃ったという。
ただ、7.62mm径とはいえ、機関銃を撃てば反動が発生する。胴体直下のセンターライン上ならともかく、左右いずれかの翼下に搭載すれば、撃った時の反動でヨー方向の動きが発生する。それを自動的に補正しなければ機体の針路はフラフラしてしまうし、撃った弾が命中するかどうかも怪しくなる。そこは当然ながら、飛行制御コンピュータが補正しているのだろう(F-16やF-35Aもそうしている)。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。