航空機製造のサプライチェーンに加わり、航空機部品を製造するということは、そのための設備・機材も必要になるということである。モノがモノだけに、高品質・高精度の加工が求められるし、航空機ならではの条件もある。

工作の手法と機材いろいろ

例えば、金属素材一つとっても、加工の方法は多種多様だ。以下、主な加工の方法を紹介しよう。

鋳造

内部に空間を持つ鋳型を作り、そこに溶かした金属(「湯」あるいは「溶湯」という)を流し込んだり、圧力をかけて注入したりする。複雑な形状を持つ部品の製造に向いている。鋳型をどのように形作り、溶かした金属素材をどこからどのように流し込むかという部分でノウハウが求められる。

鍛造

金属素材を型で挟んでプレス機にかけたり、ハンマーなどで叩いたりして成型する。加熱して柔らかくした素材を使う熱間鍛造や、加熱せずに使う冷間鍛造がある。外部から圧力を加えて成型するため、金属内部の空隙をつぶすとともに、組織を強化する効果がある。そうした理由から、降着装置のように、高い強度を求められる部品で使用する場面が多い。

削り出し

金属素材の塊を工具で削って、所定の形に仕上げる加工。削って小さくなる一方だから、当然ながら、完成する最終形態よりも大きなサイズの塊を用意しなければならない。複雑な形状を持つ部品の製作に向いている。

旋盤加工

円筒形の部材を回転させて、そこに刃物を当てて削る加工。側面から刃物を当てる場合もあれば、端面に刃物を当てる場合もある。

曲げ

まっすぐな板材や棒材を、機械で加工して曲げる加工。板材の場合、シンプルな二次曲面なら微妙に直径が異なるローラーで挟んで加工する方法を使えるが、複雑な形状になると単純な曲げ加工では済まないので、型に挟んでプレス機にかける。

穴開け

ドリルで穴を開ける加工。例えば、機体構造材をリベット(鋲)で固定する場合、まずリベットを通すための穴を正確に穿たなければならない。リベットの穴は数が多いだけに、大仕事になる。

押出

金属の素材を加熱・軟化させて、型を通してトコロテン式に押し出す加工。これにより、さまざまな断面形状を持つ細長い部材を形作ることができる。

こうしたさまざまな加工を行うには、もちろん専用の工作機械が必要になる。

金属以外の素材でも、加工のために専用の道具立てが必要になるのは同じだ。例えば、炭素繊維の織物に樹脂を含浸させたプリプレグ素材は、型に敷き込んだ後でオートクレーブと呼ばれる「釜」に入れて焼き固める。もちろん、オートクレーブは製品が収まるサイズでなければ意味がないから、大きなモノを作ろうとすれば、それだけ大きなオートクレーブが必要になる。

テキサス州フォートワースにある空軍プラントNo.4(ロッキード・マーティンがF-35の製造・組み立てに使用している)を訪れた際に、プリプレグ素材を型に敷き込む加工の現場を見せていただいた。その近くには、サイズが異なる何台ものオートクレーブが並んでいた。

工作機械がないと仕事にならない

航空機に限ったことではないが、いくら設計者が素晴らしい設計をして図面を引いても、その通りのモノを製造できなければ、最終製品は画餅と化す。

例えば、主翼を構成する翼桁でも、そこに組み合わせる外板でも、継目があると、そこが強度上の隘路になる。理想は継目なしの一体成形だ。すると、主翼が大きく、長くなるほどに、素材の加工に要する道具立ても大がかりになる。

しかも、主翼の断面形状は常に一定とは限らない。付根では高い荷重がかかるから、それに耐えられるように分厚い外板を用意する必要がある。しかし、翼端に向かうほどに荷重が減るため、その分だけ外板を薄くする。すべて一定の厚さでは過剰に重くなってしまうから、削り出しによって薄くして調整する。

  • ボーイング777の主翼。ウィングボックスを構成する部分の外板を一枚モノにすれば、継目がないから強度の面で有利 撮影:井上孝司

と書くだけなら簡単だが、そういう面倒くさい加工を実際に行える機械がなければ実現不可能だ。そこで出てくるのが、本連載の第2回目でも名前が出てきた「スキンミラー」という工作機械。これがあって初めて、B-47ストラトジェット爆撃機の主翼外板を、付根から翼端に向けて厚みが薄くなるように削り出す加工ができた。ただし完全な一体ではなく、板厚が一定の外翼部は独立した別パーツになった由。

  • 1950年代に飛行中のボーイングB-47ストラトジェット爆撃機 写真:USAF

ところが困ったことに、このスキンミラーは特注品で台数が少なく、しかもそれがボーイングとノースアメリカンの両社に優先的に回された。前者は、アメリカの核戦力を支える屋台骨であるB-47ストラトジェットを、後者は朝鮮戦争で活躍したF-86セイバー戦闘機を製造していた。すると何が起きるかというと、他のメーカーは主翼の外板を一体削り出しする手段を持たない、という話になる。

工作の手段がなければ、一体削り出しの外板を持つ主翼は作れない。すると、B-47みたいに大きな後退角を持つ細長い主翼を持つ機体を作るのに難儀をする。アメリカではなくソ連の話だが、外板の一体削り出し加工ができなかったため、主翼の設計に工夫をして、分割した外板でなんとか切り抜けた事例がある。

ところで。「スキンミラー」でGoogle検索をかけてみたら、化粧品について書かれたWebサイトばかり大量にヒットしてしまったのだが、これはいったいなんなのだろう。

工作機械が使えなくなったら!?

工作機械が入手できるかどうかという問題だけでなく、その工作機械を維持できるかどうかという問題もある。工作機械が輸入品で、輸入元の国との関係が悪化したらどうなるか。機械のメンテナンスができなくなり、稼働できなくなったり、稼働できても工作精度を維持できなくなったりする。それでは所定の品質を持つ部品を作れない。日本が太平洋戦争中に、実際に直面したことである。

そして2022年現在、ロシアの航空機産業が、こうした問題に直撃される可能性に直面しているようだ。機体メーカーの工場がロシア国内にあっても、そこで使用している工作機械、あるいは工作機械にデータを送り込むCADソフトが外国製では、そちらが制裁の影響を受ける可能性があるからだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。