インターネットイニシアティブ(IIJ)は11月6日、2027年3月期第2四半期(中間期)の連結決算を発表し、同日に決算説明会を開催した。説明会には谷脇康彦 代表取締役 社長執行役員 Co-CEO&COO、渡井昭久 取締役 副社長執行役員 CFO、鈴木幸一 代表取締役 会長執行役員 Co-CEOが登壇した。

  • 説明会の登壇者。谷脇康彦 代表取締役 社長執行役員 Co-CEO&COO(中央)、渡井昭久 取締役 副社長執行役員 CFO(左)、鈴木幸一 代表取締役 会長執行役員 Co-CEO(右)

    説明会の登壇者。谷脇康彦 代表取締役 社長執行役員 Co-CEO&COO(中央)、渡井昭久 取締役 副社長執行役員 CFO(左)、鈴木幸一 代表取締役 会長執行役員 Co-CEO(右)

売上高は29.9%増、SI事業が成長を牽引

上半期の連結業績は、売上高が前年同期比29.9%増の2,103億円、営業利益が同7.4%増の165億3,100万円となった。税引前利益は同5.9%増の160億4,500万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同7.4%増の107億7,200万円だった。国内企業のネットワーク・システム更新需要に加え、海外のGPU関連大型案件が売上拡大に寄与した。

  • 2027年3月期上半期の連結業績と通期業績予想。売上高、営業利益ともに当初予想を上回った

    2027年3月期上半期の連結業績と通期業績予想。売上高、営業利益ともに当初予想を上回った

売上高は当初予想の1,800億円を303億円上回り、営業利益も当初予想の154億円を11億3,100万円上回った。

第2四半期の3カ月間(7~9月)に限ると、売上高は前年同期比32.4%増の1,126億9,900万円、営業利益は同6.3%増の99億4,300万円となっている。

今回の大幅増収を牽引したのは、システムインテグレーション(SI)事業だ。SI事業の上半期売上高は前年同期比57.1%増の1,152億800万円となり、このうちシステム構築・機器販売は同114.4%増の606億6,900万円と倍増した。システム運用保守も同21.1%増の545億3,900万円と堅調に伸びている。

SI事業の受注額も増加している。上半期のSI構築受注額は894億円で、前年同期から526億円増加。運用保守の受注額は809億円で、同268億円増加した。受注残高は、SI構築と運用保守を合わせて約2,140億円の規模に達している。説明会において決算内容の詳細説明を担当した渡井副社長は、SI構築の受注残高のうち相当部分が来期の売上にもつながるとの見通しを示しており、システム構築案件を獲得することによって、その後の運用保守に関する継続収益も積み上がると説明した。

  • SI事業の売上高・受注額・受注残高の推移。GPU関連の大型案件などが構築売上の拡大に寄与した

    SI事業の売上高・受注額・受注残高の推移。GPU関連の大型案件などが構築売上の拡大に寄与した

セキュリティサービスは11.8%増、モバイル回線数も拡大

ネットワークサービスでは、モバイルを除く売上高が前年同期比6.6%増の641億500万円となった。法人向けIPサービスやアウトソーシングサービスが堅調に推移している。とくにセキュリティサービスの売上高は前年同期比11.8%増の220億600万円と拡大した。セキュリティインシデントが多発するなか、企業からのコンサルティングやアセスメント、セキュアなインフラ構築などへの需要が増加しているという。

渡井副社長は、月額課金型のセキュリティサービスが幅広い分野で成長していることに加え、アセスメントやコンサルティングなどSI事業として計上される案件でも需要が高まっていると説明した。

モバイル・IoT事業の売上高は前年同期比9.4%増の294億3,000万円。法人向けIoT用途などを中心に回線数が増加し、モバイルサービスの総回線数は前年同期から76万回線増の675万回線となった。とくに法人モバイルの回線数については前四半期の6.4万回線の減少から一転して39.4万回線の純増となった。ただし渡井副社長は、法人向けモバイル回線は大量の回線を利用する顧客もいるため四半期ごとの増減が大きくなる場合があるとして、今四半期の伸長も通常の事業運営の範囲内だとの認識を示した。

  • セキュリティサービス売上高(左)とモバイル回線数・売上高(右)の推移。法人モバイルの回線数は9月末に390万2,652回線となった

    セキュリティサービス売上高(左)とモバイル回線数・売上高(右)の推移。法人モバイルの回線数は9月末に390万2,652回線となった

大型案件の影響で利益率は低下、通期業績予想を上方修正

売上高が約3割増加した一方、営業利益の伸びは7.4%にとどまった。売上総利益率は前年同期の21.7%から18.8%に、営業利益率は9.5%から7.9%に低下した。

背景には、GPU基盤構築などハードウェアの比率が高い大型SI案件の増加がある。渡井副社長は、ハードウェアの仕入れを伴う案件は人員の工数によって収益を得る案件よりも利益率が低くなる傾向にあると説明し、収益性そのものが悪化したわけではなく、売上の構成による影響との見方を示した。

実際に、SI事業の売上総利益は前年同期比35.2%増の145億8,100万円と増加している。

  • 売上原価と売上総利益率の推移。ハードウェア主体の大型SI案件が増え、売上総利益額は増加した一方で利益率は低下した

    売上原価と売上総利益率の推移。ハードウェア主体の大型SI案件が増え、売上総利益額は増加した一方で利益率は低下した

また、前年同期には退職金制度の改定に伴う11億7,000万円の一時利益が計上されており、その反動も今回の利益の伸び率に影響している。

こうした業績を踏まえ、IIJは2027年3月期通期の業績予想を上方修正した。売上高は従来予想の3,850億円から4,280億円へ430億円引き上げ、前期比23.9%増を見込む。営業利益は385億円から390億円へ、親会社の所有者に帰属する当期利益は250億円から255億円へ、それぞれ5億円引き上げた。

谷脇社長は構造的な事業拡大期へ移行しつつあるとの認識を示す

説明会では、決算内容の詳細に先立ち、谷脇社長が事業環境の変化と今後の成長戦略について語った。

谷脇社長は、国内企業のネットワーク・システム更新や増強に対する高い需要が続いていることを挙げ、IIJが「構造的な事業拡大期」に入りつつあるとの認識を示す。こうした事業拡大を支えるのが、ネットワーク/クラウド/セキュリティ/データセンターなどの技術と運用ノウハウを組み合わせた総合的なサービス提供能力だという。

具体的な案件としては、大手金融機関グループ向けのインターネット接続インフラ統合や、サイバーセキュリティガバナンス強化支援、小売事業者向けデータセンターインフラ再構築、GPU基盤構築などを紹介した。

大手金融機関グループ向けの案件では、ネットワークやセキュリティ、ガバナンスを含むIT基盤全体の高度化を支援。サイバーセキュリティガバナンス強化では、現状の可視化から課題抽出、対策方針の策定、インシデント発生時の対応体制整備までを対象としている。GPU基盤構築についても、単にGPUサーバーを調達・納入するだけでなく、ネットワークなどと組み合わせてシステムとして構築し、運用までを一括して手がけているという。

  • 谷脇社長が紹介したIIJの大型案件。金融機関のITインフラ統合やセキュリティ強化、GPU基盤構築など幅広い領域に対応している

    谷脇社長が紹介したIIJの大型案件。金融機関のITインフラ統合やセキュリティ強化、GPU基盤構築など幅広い領域に対応している

個別の製品やサービスだけでなく、複数の技術領域を横断する総合力が求められる案件が増えているとし、これをIIJの競争優位性につなげていくというのが谷脇社長の方針だ。

2030年までに全社業務の3割をAI化、一部開発では速度が2~3倍に

またIIJのAI戦略についても、直近の進捗を紹介した。

IIJは自社でのAI活用と、そこで得たノウハウの顧客向けサービスへの展開を並行して進めている。社内では、認証やログ管理、ガバナンスを組み込んだ全社共通のAI基盤の整備が進んでいる。2026年10月には生成AI利活用ガイドラインの第2版を施行しており、2030年3月までに全社業務の3割をAI化するという目標を掲げている。

具体的な成果も出始めており、新サービスの開発においてAIを設計・開発・テストなどに活用した結果、一部の領域では開発体制を従来の約半数にしながら、開発速度を2~3倍に向上させたという。営業やセキュリティサービスの運用、法人向けサポート、社内情報システムの運用管理などでもAIの活用を進めている。

こうした社内での実践を顧客向けサービスにも展開する。2026年9月には「IIJ AI活用支援ソリューション」の提供を開始した。これは、顧客専用環境に認証、アクセス制御、利用ログ管理などを備え、複数の大規模言語モデル(LLM)から利用するモデルを選択でき、社内文書などを参照して回答を生成するRAG(検索拡張生成)にも対応するものだ。

AIの利用基盤だけでなく、大容量・低遅延のネットワーク、クラウド、データセンターなど、AIを稼働させる社会インフラについても事業を展開する。同社はこうした基盤を「AIバックボーン」と位置付け、GPU基盤や高発熱機器に対応する水冷式データセンターなどの整備を進めている。

  • IIJのAI戦略。社内でのAI活用と実践ノウハウの顧客向けサービスへの展開を並行して進める

    IIJのAI戦略。社内でのAI活用と実践ノウハウの顧客向けサービスへの展開を並行して進める

質疑応答でAI基盤やガバナンスにおけるIIJ独自の強みを問われた谷脇社長は、ネットワーク/クラウド/データセンター/セキュリティなどを総合的に提供できる点を強調。AIエージェントの利用拡大やセキュリティ問題の深刻化が進むなか、特定の領域に限らず全体のバランスを踏まえた対策を提案できることが強みになるとの考えを示した。

また、AI導入の経済性や電力供給、データセンターの確保などについても課題を認識していると説明。大規模なデータセンターへの集中だけでなく、比較的小規模なデータセンターを分散配置する構成なども含め、実現可能性の高いAIインフラの在り方を模索していくという。

AIによるサイバー攻撃の高度化に対応、セキュリティを次の成長エンジンへ

谷脇社長がAIと並んで成長分野に位置付けたのが、サイバーセキュリティの領域だ。

AIの発達によって、攻撃者は従来よりも高速かつ大規模にシステムの脆弱性を探し出せるようになっている。さらにAIエージェントが普及すると、情報収集だけでなく実際の操作や処理もAIが行うようになるため、被害が複数のシステムへ連鎖するリスクも生じると指摘した。

こうした環境の変化を踏まえ、IIJは防御側にもAIを積極的に取り入れる方針。長年蓄積してきた脅威データや運用現場での判断ノウハウをAIに実装し、検知/分析/対応の高度化・自律化を目指す。事業面では、セキュリティコンサルティングやシステム構築、監視・運用、改善支援までを一貫して提供する体制を強化する。また、AIを活用した次世代のセキュリティ運用サービスや、サイバー攻撃を受けても重要業務を継続できるようにする「サイバーBCP」の高度化を進める。

IIJとしてはサイバーセキュリティ需要の拡大を、継続収益型サービスと高付加価値なSI・コンサルティング事業の成長につなげていく方針だ。

  • AI時代のサイバーセキュリティに対するIIJの戦略。AIを活用した次世代運用やサイバーBCPの高度化を推進する

    AI時代のサイバーセキュリティに対するIIJの戦略。AIを活用した次世代運用やサイバーBCPの高度化を推進する

鈴木会長はAI投資の過熱を警戒、UNIXなど基礎技術の重要性を強調

谷脇社長と渡井副社長による説明の後、鈴木会長がAIを取り巻く投資環境と、サイバーセキュリティを支える技術者の重要性について見解を述べた。

AIについては、今後さまざまな業務で利用が広がっていくとの見通しを示す一方、利用によって得られる効果に対し、導入・運用コストが高くなりすぎているのではないかと懸念を表明した。とくに米国のデータセンターなどを含むAI関連投資には過熱感があるとし、IIJとしてもAIの活用を積極的に進める必要があるものの、投資と効果のバランスを見ながら、地に足をつけた形で対応すべきだというのが鈴木会長の考えだ。

そのうえで、製造業で機械化が進展したように、AIも業務を代替・効率化する技術として徐々に浸透していくとの見方を示した。

  • 鈴木幸一 代表取締役 会長執行役員 Co-CEO

    鈴木幸一 代表取締役 会長執行役員 Co-CEO

また鈴木会長は、近年のセキュリティインシデントの多発に関連して、UNIXなどの基礎技術を深く理解するエンジニアの重要性を繰り返し語った。優れたUNIXエンジニアがいれば、ソフトウェアやシステムの構成・実装に起因する問題を未然に防ぎ、より優れたサービスの開発につなげられる。一方で、こうした基礎技術に精通したエンジニアが十分に育っていないのではないかという問題提起だ。

鈴木会長は説明会の終盤にも改めてこの話題に触れ、サービスを作るうえでの基本的な技術をどう維持・発展させていくかが重要な課題であり、優れた技術者がいなければ綻びが出ると指摘。説明会に参加したメディアに対して「そういう当たり前のことをぜひ書いていただきたい」と締めくくった。

質疑応答:料金改定やモバイル事業、データセンターの今後

決算説明会の質疑応答では、事業戦略に加えて、法人向け通信サービスの価格改定、個人向けモバイルサービス、データセンター、通信事業者によるブロッキングなどについても質問が出た。

Q.2027年度に予定しているというネットワークサービスの価格改定は値上げなのか。個人向けサービスも対象になるのか。

谷脇社長:値上げを予定している。主な対象は法人向けのネットワークサービスで、2027年4月からの実施に向けて準備している。具体的な改定幅については顧客との協議が必要なため、現時点では明らかにできない。個人向けサービスについては、現時点で価格改定を考えていない。

Q.IIJmioにおけるeSIMの品揃え拡充は、契約数の増加に寄与しているのか。

谷脇社長:SMS機能付きeSIMやデータ通信専用eSIMなどへの引き合いは強い。eSIMの認知度と利便性への理解が広がっており、物理SIMに比べてeSIMの構成比率は徐々に上がっているとの実感がある。ただし、eSIMの拡充だけで契約数が増加しているわけではない。

Q.携帯大手のサブブランドの料金改定に対し、IIJmioではどのような対応を考えているのか。

谷脇社長:IIJmioでは従来、2GBや5GBのプランが中心だったが、最近は10GB以上のプランの比率が上がっている。これまでも料金の引き下げを実施してきたが、現時点で新たな値下げなどの具体的な計画はない。他社の動向を注視しながら、機敏に対応できるようにしていきたい。

Q.携帯電話大手が提供する端末購入プログラムの制度見直しについて、IIJの考えは。

谷脇社長:公正な競争と利用者利益の保護は、行政としてしっかり守ってほしい。その趣旨が損なわれる検討にならないよう、健全な議論を期待している。MNPホッピングなどへの対策は必要だが、そのために必要な範囲を超えて規制が緩和されることに対しては、これまでと同様に慎重な立場だ。また、端末販売価格が適正で利用者に誤認を与えないことや、利用者間の負担の公平性を維持することが重要だ。

Q.企業のAI活用では、セキュリティを含めたガバナンスやガードレールを統一すべきではないか。

谷脇社長:どこまでを統一するかという問題はある。「これだけはやってはいけない」という部分については共通認識を醸成していくことができると思うが、ガードレールの在り方には文化や地域ごとの考え方の違いが表れる場合もある。IIJだけでできる話ではなく、官民を挙げて、国際的な議論も含めて標準化やガイドライン策定を議論していく必要がある。

Q.政府が検討しているサイバー攻撃の緊急対策について、どのように評価するか。政府への要望はあるか。

谷脇社長:政府による対策の強化には基本的に期待している。サイバー攻撃への対処では、脆弱性への基本的な対策を徹底することが重要だが、攻撃側でもAIの活用が進み、攻撃の頻度が高まっているため、人手だけでの対応には限界がある。防御側でのAI活用に加え、官民や民間事業者間での情報共有を従来以上に進める必要があると考える。

Q.サイバー攻撃に関連して、総務省から通信事業者にブロッキングの要請が出たという報道があった。実際に要請はあったのか。また、GMOの記者会見でブロッキングを認めるようにしてほしいとの意見があったが、これに対するIIJの考えは。

谷脇社長:進行中の個別事案については、総務省からの要請の有無を含めてコメントを差し控える。一般論として、ブロッキングについては児童ポルノ対策の例を除いて法制度上の課題があると認識しており、法的な観点から慎重に検討する必要があるテーマだ。

Q.建設中の白井データセンターキャンパス第3期棟は、資材価格の高騰や工期の長期化による影響を受けていないのか。

谷脇社長:第3期棟は2026年度内の完成に向けて予定通り進捗している。建設費についても、当初予定していた全体額より若干抑えられている。