この半導体ニュースのまとめ

・A.T. カーニーは企業向けQLC・TLCなどのNAND供給が2030年まで逼迫すると予測
・AI需要を背景に半導体メーカーの投資が収益性の高いHBM・DRAMへ集中
・企業には複数年契約やSKU削減、階層型ストレージへの再設計などを提言

A.T. カーニーは11月6日、AI需要の拡大がフラッシュメモリの需給に与える影響を分析した論考「深刻化するストレージ不足(英題:The great storage squeeze)」を公開した。

同論考は、AI向けストレージ需要が急速に拡大する一方、半導体メーカーの設備投資がNANDフラッシュメモリから、収益性の高いHBMやDRAMへシフトしていると指摘。この構造がNANDの供給不足を長期化させる可能性があるとの見方を示した。

Kearney PERLabの需給モデルによる標準シナリオでは、企業向けQLC・TLC NANDと先端の積層世代について、2030年まで供給の逼迫が続く見通しだという。

NANDの需要は年率8~12%増、供給は2~4%増

A.T. カーニーによると、2026年から2029年にかけたNANDのウェハ需要は年率8~12%で増加する一方、供給能力の増加は年率2~4%にとどまる見通しだ。

  • NANDフラッシュメモリの需要増加率と供給増加率の予測

    NANDフラッシュメモリの需要と供給の見通し。2026~2029年のウェハ需要が年率8~12%で増加する一方、供給の伸びは年率2~4%にとどまると予測する (出所:A.T. カーニー)

AIモデルの学習や推論では、膨大な量のデータを保存する必要がある。特に生成AIやエージェント型AIでは、学習済みモデル、推論データ、ベクトルデータベース、KVキャッシュなどを保存する高速・大容量ストレージの重要性が高まっている。

こうした用途では、従来のHDDだけでは性能や消費電力の要件を満たしにくく、エンタープライズSSDの採用が拡大している。大容量化に適したQLC NANDに加え、性能や耐久性を重視する用途ではTLC NANDの需要も増加する。

一方、NANDメーカーが需要の拡大に合わせて供給能力を増強できるとは限らない。

半導体メモリメーカー、特に3大メモリメーカーと呼ばれるSamsung Electronics(サムスン)、SK hynix、Micron Technologyは、NANDだけでなくDRAMも生産している。限られた設備投資資金や人材、製造装置をどの製品へ配分するかを判断する際、AI用途で需要と収益性が高まっているHBMやサーバDRAMが優先されやすくなっている。

A.T. カーニーは、2026年のNAND向け設備投資が前年比約5%増の約220億ドルにとどまる一方、DRAM向けは同約14%増の約610億ドルまで拡大すると予測する。

DRAM向け設備投資はNANDの約2.8倍に達する計算で、AI需要によってメモリ市場全体が成長しても、その投資がNANDの増産へ向かうとは限らない構造となっている。

HBMへの投資集中がNAND増産を制約

AI半導体に搭載されるHBMは、複数のDRAMダイを積層し、広い帯域幅でGPUやAIアクセラレータとデータをやり取りするメモリである。

AIサーバの性能向上に伴い、搭載されるHBMの容量や積層数は増加している。HBMは従来型DRAMと比べて製造工程が複雑で、ウェハ投入量や先端パッケージング能力も多く必要とする。

その一方で、販売単価や利益率も高いため、3大メモリメーカーにとって、HBMは優先的に投資すべき製品となっている。

NAND市場では過去に、各社による積極的な設備投資が供給過剰と価格下落を招いた。メモリメーカーの多くがそうした経験から、需要の拡大が見込まれても、工場の新設や大規模な能力増強に慎重な姿勢を取っている。

現在のNANDへの増産投資は、既存工場の生産能力を拡張するのではなく、積層数の増加や製造プロセスの改善によって、ウェハ1枚から得られる記憶容量を増やす取り組みが中心となっている。しかし、AI向けストレージ需要が供給側の生産性向上を上回れば、ウェハベースの供給制約が続くことになる。

企業向けQLC・TLCは2030年まで逼迫

A.T. カーニーの標準シナリオでは、企業向けQLC・TLC NANDと先端の積層世代で2030年まで供給が逼迫する。

企業向けSSDでは、24時間稼働するデータセンターで使用することを前提に、性能、耐久性、信頼性、電力効率などの厳しい要件が設けられる。一般消費者向けと同じNANDをそのまま転用できるわけではなく、コントローラやファームウェアを含めた検証と認定が必要となる。そのため、NAND全体の供給量が増えても、企業向けとして利用できる製品が不足する可能性がある。

主流のクライアント向けTLCについては、2028年に需給が一部緩和する可能性があるものの、供給制約が完全に解消するわけではないという。

供給能力が限られる状況では、高い価格を支払い、長期契約を結ぶAIインフラやデータセンター向け顧客への供給が優先されやすい。その結果、PCやスマートフォン、小売向けSSDなどの消費者市場に、値上げや欠品という形で影響が先に現れる可能性がある。

自動車・産業向けは納期が20週間超に

供給不足の影響は、データセンターや消費者向け製品だけにとどまらない。

産業制御機器や自動車では、製品を長期間にわたって安定運用するため、高い信頼性と耐久性を備えたTLCやpSLC NANDが使用される。A.T. カーニーによると、こうした製品では納期が20週間を超える場合があるという。

産業機器や自動車向けのフラッシュメモリは、部品を入手できなければすぐに別製品へ切り替えられるものではない。温度範囲、書き込み耐久性、データ保持特性、機能安全などを検証し、認定を受ける必要があるためだ。容量やパッケージ、インタフェースが同じ製品であっても、NANDの世代やセル構造が変われば、再評価が必要になる場合がある。

供給不足が長期化すれば、完成品メーカーは数年先の生産計画を見据え、必要なNANDを早期に確保する必要が生じる。特に、製品寿命の長い自動車、医療機器、産業設備、社会インフラでは、価格だけでなく長期供給の確実性が重要になる。

中国の増産で主流TLCの不足は緩和するか?

NAND需給を改善する可能性がある要因として、A.T. カーニーは中国メーカーによる増産を挙げる。中国勢が供給するNANDは、主流または従来世代のTLCを中心に、世界市場の供給不足を補う可能性がある。増産された製品が中国以外の買い手にも供給されれば、主流製品の需給は早ければ2028年に緩和する可能性があるという。

ただし、中国メーカーがどの程度の速度で生産能力を増強できるかに加え、中国以外の企業が実際に調達できるかは不透明だ。

米国による対中半導体輸出規制や、各国政府による経済安全保障政策、顧客企業の調達基準などが、中国製NANDの採用に影響する可能性がある。特に自動車や社会インフラ、政府関連システムでは、価格や供給量だけでなく、原産国、情報セキュリティ、長期供給、規制への適合なども調達判断の要素となる。

中国勢の増産が世界のNAND需給を緩和できるかどうかは、生産能力だけでなく、供給された製品がどの市場へ流通するかによって決まることになる。

HBFの普及は新たな供給逼迫要因にも

NAND需要をさらに押し上げる可能性があるのが「HBF(High Bandwidth Flash:高帯域フラッシュ)」だ。

HBFは、NANDをベースに、AI処理で求められる高い帯域幅と大容量を両立することを目指したメモリ技術である。HBMと比べて大容量化しやすいNANDの特徴を生かし、AI推論で使用するモデルデータやKVキャッシュなどを、演算処理を担うプロセッサの近くへ配置する用途が想定されている。

HBFが普及すれば、NANDにAI向けの新たな高価格帯市場が生まれる。一方で、NANDウェハや設備投資がHBFへ優先配分されれば、一般的なSSDや組み込み用NANDの供給を圧迫する可能性もある。

高付加価値のAI向け製品へ生産能力を優先配分するという、HBMと同様の動きがNAND市場内でも発生する可能性があるためだ。

HBFはNANDメーカーにとって新たな成長機会となるが、既存製品を使用する企業にとっては、供給制約を強めるリスクにもなり得る。

ニアラインHDDの供給回復も需給を左右

企業向けQLC SSDの需要には、ニアラインHDDの供給状況も影響する。大容量データの保存には、容量当たりのコストが低いニアラインHDDが広く利用されている。しかし、HDDが不足すると、クラウドサービス事業者やデータセンター運営企業は、代替として大容量QLC SSDを採用する可能性がある。

この需要がNANDの供給をさらに圧迫する一方、HDDの供給が回復すれば、一部のストレージ需要がSSDからHDDへ戻り、QLC NANDの需給が緩和する可能性がある。

AIデータセンターのストレージ構成は、HBM、DRAM、SSD、HDDを用途や性能に応じて使い分ける階層型となっている。特定のメモリやストレージの不足は、ほかの階層の製品需要にも波及する。

NANDの需給を予測するには、NANDメーカーの設備投資だけでなく、DRAMやHBM、HBF、HDDを含めたストレージシステム全体を見る必要がある。

調達だけでなく製品とストレージ設計も見直す

A.T. カーニーは、NANDの供給制約へ対応するため、調達部門だけでなく、製品企画や設計、データ管理を横断した対策が必要だと提言する。

  • NANDフラッシュメモリ不足に備える製品構成と調達と設計の対策

    NANDフラッシュメモリの供給制約に備えて企業が検討すべき対策。製品構成、調達、設計・データ管理を一体で見直す必要があるとする (出所:A.T. カーニー)

製品構成では、限られたフラッシュメモリを優先的に割り当てる製品を選定し、SKUを簡素化する。複数の容量や仕様を扱うほど、製品ごとに異なるNANDを確保する必要が生じるため、製品構成を整理することで調達量を集約できる。

調達面では、複数年契約を結び、供給元の地域別評価を行うことが求められる。回収品を再認定して利用する方法も考えられるが、書き込み耐久性と残存寿命を把握する必要がある。

設計・データ管理では、高速なSSDだけに依存せず、データの利用頻度に応じてDRAM、SSD、HDDなどへ配置する階層型ストレージを採用する。

重複データの削除や圧縮、保存期間の見直しによって、必要なストレージ容量そのものを減らす取り組みも有効となる。

また、TLCからQLC、またはSLCからpSLCといったセル種別の変更や、異なる積層世代への移行に対応できる設計を採用すれば、特定のNAND製品が不足した場合にも調達先や製品を切り替えやすくなる。

NAND不足は、単純に在庫を増やせば解決できる問題ではない。供給を確保すべき製品の選定、複数年契約、製品仕様の簡素化、ストレージ階層の再設計、データ量の削減を一体で進める必要がある。

A.T. カーニーは政策面でも、自動車や産業機器、医療、社会インフラなど重要分野におけるストレージ調達リスクを監視し、信頼できる供給を確保する枠組みが必要になるとしている。

AI需要がメモリ市場の成長を押し上げる一方、設備投資や供給能力は需要と同じ速度では増えない。企業にはNANDの価格や納期の変化を一時的な市況変動として捉えるのではなく、2030年を見据えた構造的な供給制約として、製品戦略と調達戦略を見直すことが求められそうだ。