経団連常務理事・岩崎一雄の【 書評 】『ヒトとAI』

AI時代に人間に求められる役割とは

 

 SF映画の主要なジャンルに、未知の知的存在との遭遇を描くファースト・コンタクトものがあります。近年では、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「メッセージ」が、異星人と「言語」を通じて意思疎通を試みる思索的な作品でした。

 AI企業Preferred Networksの共同創業者である著者は、AIを人類が初めて出会う「人間以外の高度な知能」だとします。すでに人生の悩み事をAIに相談したり、かつてなら自分や部下がしていた仕事をAIにさせたりしている人は多いと思います。人の形をしたヒューマノイドが、家庭や仕事場、工場などで当たり前に稼働する日も近いと思われます。

 本書では、AIとは何かと共に、「ヒト」とは何かということが、自由と責任、意識と自己といった哲学的な観点から分析されます。その上で、「人間がAIと共にどのように生き、新しい社会をどのように築いていくのか」が、数式などを使わず、しかし、根源的なところから考察されます。

 本書の重要な示唆は、不可逆性が「主体」を立ち上げ、主体であるからこそ自由があり、同時に責任が生じるということです。不可逆性とは有限性、より端的に言えば「死」です。いま、自律的に判断を行うAIが、あたかも「主体」であるかのように社会に入り込みつつあります。しかし、不可逆性を持たない現在のAIは、判断は行えても、その結果生じる「責任」を引き受けることはありません。

 AIが行う判断は超高速かつ大規模であり、なぜその判断に至ったのか、人間には俄には理解できないことさえあります。判断する主体と責任を負う主体とのずれを放置してはならず、「あらかじめ責任が割り当てられている構造」を社会に組み込むことが必要だ、と著者は指摘します。

 冷静な筆致でありながら、初めて出会う「高度な知能」を前に、人間の果たすべき役割を再定義し、人類社会の進化を目指す、エキサイティングな一冊と言えるでしょう。

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