
尊敬される経営者について、「あの人には未来が見えていた」と語られることがある。私自身、そう感じる経営者に何人もお会いしてきた。しかし、何十年も先の未来をなぜ見通せたのかと尋ねると、多くの方が「見えていたわけではない」とおっしゃる。
では、なぜ未来を見通していたかのような結果を残せたのだろうか。
長年の経営者との対話から、いくつかの共通点が浮かび上がる。世界を広く見ていること。心配性であること。顧客を第一に考えること。そして、未来を共につくる仲間がいることだ。心配性だからこそ、まだ起きていない変化や危機を想像し、誰よりも早く備えようとされるのかもしれない。
ある経営者は、海外で新しい動きがあると聞けば、すぐにそこを訪ね、自らの五感で現実を確かめた。その上で、自社にとって最適な姿を構想し、二十年かけて実現した。未来を予測したというより、世界の変化を誰よりも早く体感し、自ら描いた未来を実現したのである。
また、ある経営者は、世間のトレンドに耳を傾けながらも、それが本当にすべての顧客の幸せにつながるのかを問い、結果として世間とは異なる道を選び、批判を受けながらも、その選択を貫いた。
いずれも、世間に先んじたり、常識とは異なる判断をした経営者である。当然、社内外から疑念や批判を浴びることもある。ある引退した経営者は、在任中、毎晩睡眠導入剤を飲んでいたという。
しかし、退任したその日から薬なしで眠れるようになったそうだ。信念という旗を掲げ、それを倒さずに持ち続けるには、想像を超える精神力が必要なのだろう。 しかし、彼らは決して独裁者ではなかった。
掲げた旗を共に支え、実現しようとする仲間がいた。一人ひとりが成長を実感し、仕事に喜びを感じられるようにと心を配る。
自分の信念を押し付けるのではなく、仲間が自らの意思で歩めるようにする愛情がある。どれほど優れた構想であっても、一人では実現できない。仲間の力を信じ、長い時間をかけて共に歩むことも、未来をつくる力なのだと思う。
遠くから見れば、未来を見通す特別な能力を持った人に見える。しかし、近くで接すると、誰よりも心配し、考え続け、行動し続ける姿がある。そして、考え抜いた末に得た信念を貫く胆力と、仲間への深い愛情、顧客への感謝がある。
未来が見えていたのではない。見えない未来を信じ、仲間とともに実現するまで歩み続けたからこそ、後から振り返ると、未来が見えていたように映るのではないだろうか。