NVIDIAは2026年10月21日、独ベルリンで開催された「GTC Berlin」において、欧州のAIクラウド事業者やインフラ企業が、AIファクトリーの構築と運用に「NVIDIA DSX」を採用していることを明らかにした。

AIファクトリーとは、AIモデルの学習や推論に必要な大規模コンピューティング基盤で、GPUなどの演算設備に加え、ネットワーク、ストレージ、ソフトウェア、電力、冷却を一体的に設計する。NVIDIA DSXは、これらを単一のシステムとして協調設計し、施設の設計から展開、運用までを最適化するフルスタックのリファレンスアーキテクチャとなる。

  • NVIDIAがAIファクトリー向け「DSX」を欧州で展開。最大30%の電力削減に期待

電力と冷却がAIファクトリーの処理能力を左右

大規模なAIファクトリーでは、利用できる電力が稼働可能な処理能力を左右する。また、高密度に配置されたGPUから生じる熱を処理する冷却設備も必要となり、電力効率と水使用量の抑制が課題となる。

NVIDIA DSXは、検証済みのインフラ構成を提供する「DSX Reference Design」のほか、動的に電力を配分する「DSX MaxLPS」、電力網の状況に合わせてワークロードを調整する「DSX Flex」、シミュレーション用の「DSX Sim」、インフラ管理向けの「DSX OS」、コンピューティング設備と施設システムを接続する「DSX Exchange」などで構成される。

設計、建設、電力、冷却の各分野では、AVEVA、Dassault Systèmes、Siemens、ABB、Eaton、GE Vernova、Hitachi Energy、Schneider Electric、Siemens Energy、Trane Technologies、Vertivなどがエコシステムに参加しており、施設インフラとアクセラレーテッドコンピューティングを連携させ、欧州でのAIファクトリー構築を進めているという。

閉ループ式液冷で冷却用水の消費量をほぼゼロに

NVIDIA DSXのリファレンスデザインは、液冷コンピューティングと、水の蒸発を伴わないドライクーラーを組み合わせる。冷却液を閉じた経路内で循環させ、コンピューティング機器から吸収した熱を屋外のドライクーラーから空気中へ放出する仕組みにより、施設の冷却用水の消費量をほぼゼロに抑えられるとのことだ。

NVIDIA Vera Rubinインフラは、最大45℃の冷却水温度で100%の液冷に対応する。NVIDIAによると、2GW規模の施設にDSXの設計を導入した場合、従来の冷却塔を使用するシステムと比べて、1日当たり5400万リットルの水を節約できるという。これは18万世帯が1日に使用する水の量に相当する(暑い時期に補助的な機械式冷却が必要になるかどうかは、施設が立地する地域の気候条件によって異なる)。

DSX MaxLPS、同じAI出力で電力を最大30%削減

DSX MaxLPSは、AIファクトリーに割り当てられた電力予算の範囲内で、GPUやラック、ワークロードへの電力配分を動的に調整するソフトウェアとなる。

NVIDIAによると、DSX MaxLPSを利用することで、同じ数のトークンを生成する場合の使用電力を最大30%削減できるとのことだ。これはAIの出力量を減らして節電するのではなく、従来と同等のAI出力を維持しながら、必要な電力を抑えることを目指した技術となる。事業者は、この効率向上分を利用し、既存の電力予算を増やさずに、より多くのGPU容量や高い処理能力を確保することが期待される。

LambdaがNVIDIA HGX B200システムを使用して行った概念実証では、固定された電力予算内でクラスタのトークンスループットが24%向上し、利用可能なGPU容量が19%増加した。また、アイスランドにあるNscaleのAIファクトリーでは、4台のNVIDIA GB300 NVL72ラックとDSX MaxLPSを使用。同じ264kWの電力予算内で、推論スループットが49%、管理可能なGPU容量が37%向上したという。

DSX Flexは、電力会社からの供給、敷地内の再生可能エネルギー、蓄電システムを協調制御し、電力網の状況やエネルギー価格に応じてワークロードの消費電力を調整する。Emerald AI、EPRI、Nebius、英国のNational Grid、NVIDIAによる初期試験では、重要なワークロードを継続して動かしながら、NVIDIA Blackwell Ultra GPUクラスタの消費電力を最大40%削減できたとしている。

デジタルツインとDSX OSで設計から運用まで支援

NVIDIAは、AIファクトリーを建設する前に電力、冷却、設備構成を評価するため、DSX Simとデジタルツインを活用する。Nscaleはポルトガルとアイスランドの施設において、DSX Simを用いてインフラ構成を仮想空間に再現し、潜在的な問題の特定や設計の検証を進めている。

NVIDIAは併せて、検証済みの電力設備や冷却設備のデジタルモデルを集約した「SimReady Central Library」をHugging Faceで公開した。DSX Simと組み合わせることで、建設事業者は物理的な機器を設置する前にインフラ構成をモデル化し、電力や冷却に関する設計判断を評価できるという。

運用面では、モジュール型のオープンソースソフトウェア「DSX OS」のポートフォリオを拡充した。ネットワーク設定を自動化する「NVIDIA Config Manager」、ラック単位で電力やファームウェア、スイッチなどを管理する「NVIDIA Rack Management Service」、本番ワークロードの投入前にGPUクラスタを検証する「NVIDIA Cluster Readiness Engine」を開発者向けプレビューとして提供する。

このほか、Schneider ElectricはNVIDIA Vera Rubinインフラ向けの電力・冷却リファレンスデザインの開発を進めている。SiemensはDSX Simを使って電力、冷却、音響をシミュレーションし、Dassault SystèmesとVertivはVertiv OneCore向けのデジタルツインワークフローを開発中だ。ABBもDSX Simに対応するアセットを開発し、建設前に電源からラックまでの電力供給アーキテクチャを評価できるようにする。

NVIDIAは、こうしたソフトウェアやパートナー企業の技術を組み合わせ、AIファクトリーの設計、建設、電力、冷却、運用を連携させる。限られた電力と水資源からより多くのAI処理能力を引き出すとともに、計画から本番稼働までの期間短縮を支援していくとのことだ。