• 今回の研究成果の概要 (出所:産総研Webサイト)

    今回の研究成果の概要 (出所:産総研Webサイト)

半導体の製造工程や燃料電池、化学プロセスなどで利用される重要なエネルギー媒体・原料である高純度水素を得るには、水素を含む他のガスから効率よく分離・高純度化する技術が必要となる。パラジウム膜は水素を選択的に透過させる性質を持ち、有望な水素分離膜として期待されるが、高価な貴金属であることが実用化の障壁となっていた。そのため、膜を薄くして使用量を減らすことが求められているが、薄膜化すると両側の圧力差で破損しやすくなり、低コスト化と信頼性の両立が課題だった。

そうした中、産業技術総合研究所(産総研)は、電気めっき法を用いて、厚さ約1.5μmのパラジウム層と多孔質ニッケル支持体を一体化させた自立型「パラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜」を開発したと10月15日に発表。その性能を評価した結果、400度・差圧0.75MPa(約7.5気圧)の条件に耐え、有効直径7.1mmの膜で毎分150cm3を超える水素流量を達成したという。

同成果は、産総研 再生可能エネルギー研究センターの遠藤成輝主任研究員、山王の研究者らの共同研究チームによるもの。山王がパラジウム膜の成膜および実験データの取得を担い、産総研が得られたデータに基づく性能解析と考察を行うことで、膜構造と性能の関係を明らかにした。詳細は、国際水素エネルギー協会が刊行する、水素エネルギー分野を扱う専門論文誌「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載された。

水素精製に欠かせない「分離膜」の開発課題

パラジウム膜を用いた水素精製では、水素を含むガスを膜の片側に加圧して供給し、膜の両側に生じる圧力差を利用して水素を取り出す。そのため、分離膜には高い水素透過性だけでなく、圧力差に耐えてガスシール性を保つ機械的強度が求められる。

しかし、パラジウムは高価なため、実用化に向けて使用量の削減と性能の維持を両立させる必要がある。薄膜化はパラジウムの使用量を減らせる上に、水素透過性能も向上するメリットがある一方で、圧力差や加熱・冷却の繰り返しによる破損が生じやすくなる。つまり、薄膜化と耐久性・信頼性という、トレードオフの関係を克服することが強く求められていた。

その解決策として、パラジウム薄膜と多孔質支持体を組み合わせる複合構造が注目されている。この構造では、多孔質支持体が水素ガスの流路を確保しながら、パラジウム薄膜を機械的に支える。従来は、多孔質支持体の材料として主にセラミックスやステンレスなどが検討されてきたが、成膜工程が複雑化しやすく、パラジウム薄膜に欠陥が発生しやすい点が課題だった。

産総研はこれまでに、パラジウムを用いた水素分離膜の研究開発において、電気めっきによるワンステップ・パラジウム銅合金膜や単層純パラジウム膜、および多孔質ニッケル金属支持体を用いた分離膜をそれぞれ開発してきた。研究チームは今回、これら要素技術を統合し、電気めっき法を用いて、自立型のパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜を開発し、その分離評価を行うことにした。

今回の研究成果

新たに開発された、自立型のパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜では、厚さ約1.5μmのパラジウム層が水素のみを選択的に透過させ、多孔質ニッケル支持体が水素の流路を確保しつつ、極めて薄いパラジウム層を機械的に支える仕組みとなっている。

今回の成果のポイントは、高価なパラジウムの使用量を抑える薄膜化と、実用上重要となる耐差圧性の両立に成功した点だ。空孔率約30%の多孔質ニッケル支持体を用いた膜では、ヘリウムリーク試験で明確な気体漏れが観察されず、高度なガスシール性が維持されていることが確認された。その上で、400度・差圧0.75MPaの条件下、有効直径7.1mmの膜で毎分150cm3を超える水素流量が示された。

  • 開発されたパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜の断面構造。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)

    開発されたパラジウム/多孔質ニッケル複合水素分離膜の断面構造。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)

同膜の作製では、薄いパラジウム層を先に形成し、その上に多孔質ニッケル支持体を重ねる製膜プロセスが用いられた。最大の特徴は、双方を電気めっきで形成する「オール電気めっき製膜」により作製された点だ。電気めっき法は、膜厚や析出量を精密に制御でき、異なる金属層を連続的に形成できるため、今回の複合膜の作製に適しているという。

また、平板状の導電性基板上に必要な金属層を順次形成する工程であるため、基板サイズやめっき槽を拡大するだけで膜を大面積化しやすく、量産化を見据えた製造プロセスとしても有望とされる。

具体的には、まず平滑なステンレス基板上に緻密なパラジウム層を成膜し、続いてその上に多孔質ニッケル支持体を積層し、最後に基板から剥離させることで、パラジウム層と多孔質ニッケル支持体が一体化した自立型複合膜が得られる。

  • オール電気めっき製膜によるパラジウム/多孔質ニッケル複合膜の作製プロセス。ステンレス基板上にパラジウム層と多孔質ニッケル層の双方を電気めっきで順次形成し、基板から剥離することで自立型複合膜が得られた。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)

    オール電気めっき製膜によるパラジウム/多孔質ニッケル複合膜の作製プロセス。ステンレス基板上にパラジウム層と多孔質ニッケル層の双方を電気めっきで順次形成し、基板から剥離することで自立型複合膜が得られた。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)

続いて、多孔質ニッケル支持体の空孔率を変えた複合膜を作製し、水素透過性と耐差圧性の関係が調べられた。一般に、空孔率を高めると水素の流路は増えるが、支持体の機械的強度が低下する可能性がある。今回の研究では、作製された膜の比較評価により、空孔率約30%の支持体が、薄いパラジウム層を支えながら水素を多量に通す構造として有効であることが確認された。

研究チームが過去に作製した厚さ5μmの単層純パラジウム膜(有効直径7.1mm)は、0.3MPaの差圧で破損していた。それに対し、今回の複合膜はパラジウム層がその3分の1以下の約1.5μmの薄さであるにもかかわらず、2倍以上の0.75MPaの差圧にも耐えうる高い強度が確認された。

また、400度・差圧0.75MPaの高温・高圧下で毎分150cm3超の水素流量を記録。さらに、ヘリウムリーク試験で明確な漏れは認められず、優れたガスシール性を維持していることも実証された。薄いパラジウム層でありながら高差圧下でガスシール性と水素透過性を高次元で両立した点は、実用的な水素精製装置への実装を見据える上で極めて重要な成果といえる。

研究チームは今後、実用条件に近い混合ガスでの水素分離性能や共存ガスの影響、長時間使用時の耐久性を評価し、水素精製装置や膜反応器への応用に向けた膜構造と製造プロセスのさらなる改良を進めていくとしている。

  • 従来の単層純パラジウム膜と今回開発したパラジウム/多孔質ニッケル複合膜の耐差圧性の比較。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)

    従来の単層純パラジウム膜と今回開発したパラジウム/多孔質ニッケル複合膜の耐差圧性の比較。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている (出所:産総研Webサイト)