この半導体ニュースのまとめ
・レゾナックがキオクシアと半導体前工程用高純度溶剤の水平リサイクルを2012年から継続して行っていることを公表
・リサイクル溶剤はバージン溶剤比でCFPを70%削減し、より安価な供給体制も構築
・使用済みプラスチックのガス化や再生材90%のアルミ合金でも環境価値と経済合理性を追求
レゾナックは10月13日、サーキュラーエコノミーへの取り組みに関する説明会を開催し、「半導体製造向け高純度溶剤のリサイクル」、「使用済みプラスチックのガス化ケミカルリサイクル」、「アルミスクラップを活用した低CO2高強度アルミ合金」の3つの取り組みを説明した。
同社はサステナビリティに関する取り組みを、経営基盤を強化する段階から、社会・環境価値を経済価値へ転換して成長機会を創出する段階へ移行させている。その一環として、社会や環境への貢献、ステークホルダーとの共創、将来性、事業へのインパクトなどを評価し、社会を変える製品やサービスを「Resonac Pride製品・サービス」として認定している。
今回紹介された3つの取り組みのうち、半導体製造向け高純度リサイクル溶剤は2026年10月末にResonac Pride製品・サービスとして認定される予定。低CO2アルミは2025年、ガス化ケミカルリサイクルは2024年に、それぞれ認定されている。
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レゾナックが説明した3つのサーキュラーエコノミー事業。半導体製造向け高純度リサイクル溶剤、使用済みプラスチックのガス化ケミカルリサイクル、低CO2高強度アルミを展開する (出所:レゾナック サーキュラーエコノミー説明会。以下すべて同様)
半導体前工程で繰り返し使用される高純度溶剤
レゾナックの情報電子化学品事業部は、半導体や電子デバイスの製造工程で用いる高純度ガスや高純度溶剤を手掛けている部署で、中でも高純度溶剤は「SOLFINE(ソルファイン)」のブランドで展開しており、シクロヘキサノンなどの単一溶剤のほか、PGMEとPGMEAなどを組み合わせた約40種類の独自組成製品を取りそろえている点を特長とする。
SOLFINEは、溶剤を意味するSolventと、高機能、高純度、高品質を意味するFineを組み合わせた造語で、石油化学事業で培った精製技術、危険化学品を安全に扱うハンドリング技術、半導体材料で磨いた微量分析技術を組み合わせて製造している。
半導体前工程では、成膜、リソグラフィ、エッチング、CMPなどの処理を繰り返しながら、シリコンウェハ上に回路を形成する。各工程では、パーティクルや残渣、不純物を次工程へ持ち込まないための洗浄が必要となる。
キオクシアと高純度溶剤を水平リサイクル
SOLFINEは、CMP工程や成膜工程後の洗浄、露光工程におけるパターン形成後の高純度洗浄、エッチング後のリムーバーやリンス、残渣除去などで用いられているが、キオクシアでもそうした同社の高純度溶剤が用いられており、それをレゾナックが再び同一工程で使えるようにリサイクルして提供していることが明らかにされた。
使用済みの溶剤を回収し、蒸留・精製を実施した後、一部のバージン溶剤を加えて品質と組成を調整した後、高純度リサイクル溶剤としてキオクシアへ納入しているという。回収した溶剤を品質要求の低い別用途に転用するダウングレード型ではなく、再び同じ半導体製造用途へ戻す水平リサイクルとなる。
この取り組みは2012年に始まり、2026年で14年目を迎えた。使用済み溶剤の性状は常に一定とは限らないため、事業化に際してはラボで精製試験を重ね、品質を予測・検証しながら最適な精製条件を確立したとする。
未知の不純物が品質異常を引き起こす可能性に対しても、山口県にある徳山事業所の技術を活用して原因を究明し、精製条件と分析方法を見直したという。
半導体材料では、わずかな不純物が歩留まりやデバイス特性へ影響する可能性がある。リサイクル材を採用するには、バージン材と同様に不純物を管理し、要求される純度と品質を継続的に保証する必要がある。レゾナックは、精密蒸留と微量分析という2つの技術に加え、キオクシアと環境課題や品質課題を共有できる関係を構築したことが、長期間にわたる運用を可能にしたと説明する。
バージン溶剤比でCFPを70%削減
レゾナックの試算によると、高純度リサイクル溶剤のライフサイクル全体のカーボンフットプリント(CFP)は、製品1kg当たり3.3kg-CO2e。バージン溶剤が11.3kg-CO2eであるため、比較すると8.0kg-CO2e、率にして70%の削減となる。原材料から溶剤を製造する工程と、使用後の廃液処理を減らせることで削減につながっているとする。
ライフサイクルアセスメント(LCA)による環境影響評価でも、リサイクル溶剤はバージン溶剤と比べて全体の環境負荷を70%削減できるとの結果を得たとする。カテゴリー別では、気候変動への影響を70%、水圏の生態毒性を79%、都市域の大気汚染を63%、資源消費を71%、廃棄物を79%それぞれ削減できると試算している。
半導体市場の拡大によって材料需要も増加する中、使用済み材料を再び製造工程へ戻せれば、廃棄物や温室効果ガス(GHG)排出量の削減だけでなく、材料の安定供給にもつながるとする。特に有機溶剤は化石資源を出発原料とするため、輸入地域や輸送経路を巡る地政学リスクの影響も受ける。そのため、国内で回収、精製、再利用する循環を構築することが、新規原料への依存度を下げ、調達リスクを低減する手段にもなるとする。
バージン品より安価な供給体制を構築
リサイクル材料を事業として継続するには、環境性能だけでなく経済合理性も必要になる。レゾナックによると、高純度リサイクル溶剤は、処理量と精製技術を組み合わせることにより、バージン品より安価に供給できる体制を構築しているという。
具体的な価格や収益性は顧客との契約に関わるため明らかにされなかったが、環境性能を理由に割高な製品を購入してもらうのではなく、品質、安定供給、価格を含めて事業として成立することが、14年間にわたって取引を継続できた理由との見方を示す。
レゾナック 最高サステナビリティ責任者(CSuO)の松古樹美氏は、サステナビリティと経済性のどちらかを選択する段階ではなく、環境価値を持つ製品をどのように事業化するかという観点から取り組みを進めていると説明していたほか、顧客側でもカーボンニュートラルや資源循環に対する要求が高まっており、材料メーカーと顧客が共同で技術や循環の仕組みを作る環境が整いつつあるとしている。
まず前工程材料で対象溶剤を拡大
レゾナックは今後、SOLFINEで培った精製、微量分析、品質管理の技術を活用し、現在はリサイクルできていない溶剤へ対象を広げることを目指すとしている。具体的な溶剤名や実用化時期は明らかにしていないが、複数の候補をリストアップし、技術検証を進めているという。
対象用途についても、NANDを含む半導体メモリからそれ以外の半導体、さらにEV用電池を含む半導体以外の分野への展開を計画する。
一方、半導体後工程材料については、現時点では製造と安定供給を優先すべき製品が多く、循環利用の完成事例は限られているとの認識を示す。このため、危険化学品の取り扱いや精製技術に知見を持つ同社としては、まずウェハプロセスで使われる前工程材料のリサイクルを拡大する方針だ。
半導体産業では微細化や積層化が進み、材料の品質要求も高まっている。高純度材料のリサイクルを広げるには、使用済み材料の回収量や性状を安定させ、バージン材と同等の品質を保証しながら、経済合理性を成立させることが課題となる。そのためには、材料メーカー1社だけでは実現できず、レゾナックとしては顧客と二人三脚で品質と環境の課題を解決し、対象溶剤と用途を段階的に広げていくとしている。
使用済みプラスチックを「都市油田」として活用
同社が半導体を含む幅広い産業へ展開するもう1つの循環技術が、使用済みプラスチックのガス化ケミカルリサイクルである。
世界のプラスチック消費量は2019年の約4億6000万トンから、2060年には約12億トンへ増加すると予測される一方、使用済みプラスチックの世界的なリサイクル率は9%にとどまる。
日本では2024年に約911万トンの使用済みプラスチックが回収されたが、67%が焼却時の熱を利用するサーマルリサイクルで、素材として再利用するマテリアルリサイクルは20%、化学原料へ戻すケミカルリサイクルは2%に留まっている。
また、複数の樹脂を重ねたフィルムや、金属、紙、食品残渣、塩素分などが混入した使用済みプラスチックは、素材ごとの分別が難しく、マテリアルリサイクルに適さない場合があるが、レゾナックでは川崎事業所にて、こうした難リサイクルプラスチックを高温でガス化し、水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスへ分解。水素をアンモニアやアクリロニトリルなどの原料として利用し、一酸化炭素は二酸化炭素へ転換して液化炭酸ガスやドライアイスへと活用している。
製造した基礎化学品は、半導体製造、接着剤、炭素繊維、医薬・農薬、肥料、燃料電池、食品、物流などで利用されているという。
年間6万トンを処理、国内ケミカルリサイクルの25%
レゾナックのガス化ケミカルリサイクルプラントは、年間約6万トン、1日当たり約200トンの使用済みプラスチックを処理する能力を有している。これは全国で分別収集される容器包装プラスチックの約10%、国内ケミカルリサイクル量の約25%に相当する。2003年の商業運転を開始したが、2026年9月末までの累計処理量は130万トンに達したという。
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使用済みプラスチックを水素と一酸化炭素の合成ガスへ分解し、アンモニア、アクリロニトリル、炭酸ガスなどへ再資源化する。処理能力は1日200トン、年間6万トンで、累計処理量は2026年9月末時点で130万トン
また、2012年以降は黒字化を達成しているとのことで、20年以上にわたって商業運転を続け、複合材料や汚れたプラスチックを受け入れながら、得られた合成ガスのほぼ100%を製品として利用している点を強みとする。
使用済みプラスチック由来の水素から製造するアンモニアは、都市ガス由来の一般的なアンモニアと比べ、製造時のGHG排出量を80%強削減できる。現在、アンモニア製造に用いる水素は使用済みプラスチック由来と都市ガス由来が約50%ずつだが、2030年4月以降に使用済みプラスチック由来水素100%へ移行することを目指す。
さらに、現在の水素やアンモニア、アクリロニトリル、炭酸ガスに加え、エチレン、プロピレン、BTXなどの基礎化学品原料を直接製造する新技術の開発・実証も進めている。2026年4月にベンチ設備の稼働を開始し、2030年代半ばの事業化を目標とする。
再生材90%でも強度を高めたアルミ合金
アルミ分野では、スクラップ由来の再生材を90%使用しながら、従来材と同等以上の強度を確保した低CO2高強度アルミ合金「SU641」を開発した。
アルミ鍛造品のGHG排出量の約8割は、ボーキサイトからアルミナを作り、大量の電力を使って電解精錬する新地金の製造に由来する。
これに対し、アルミスクラップを溶解して製造する再生地金は、電解精錬を必要としないため、新地金と比べてGHG排出量を97%削減できる点を特長とする。ただし、スクラップには鉄などの不純物が含まれる。鉄が増えるとAl-Fe系の金属間化合物が粗大化し、応力集中によって強度や伸びが低下する可能性がある。
SU641では、計算科学やAIを用いてスクラップ由来の不純物を考慮した材料と製造プロセスを設計。鋳造や鍛造、評価の技術を組み合わせ、金属間化合物の形状を制御することで、スクラップの使用量を増やしながら強度を維持することに成功したとする。また、従来は約3年を要していた合金開発も、計算科学、AI、実験、分析、製造データの連携によって約6か月へ短縮したという。
原材料の構成は新地金10%、市中スクラップ50%、社内スクラップ20%、顧客の工程端材20%。GHG排出量は新地金100%の場合の1kg当たり11.7kg-CO2eから3.7kg-CO2eへ約68%削減できる。
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低CO2高強度アルミ合金は、市中スクラップ50%、社内スクラップ20%、顧客の工程端材20%を含む再生材90%の構成。GHG排出量を新地金100%の場合の11.7kg-CO2e/kgから3.7kg-CO2e/kgへ約68%削減する
同合金は自動車のサスペンション部材への採用を想定し、顧客による認定作業が進められている。特定車種や量産時期は明らかにしていないが、サスペンションに限らず、顧客の要求に合わせて新たな合金を設計する方針だが、新たな専用製造設備を必要とせず、既存の鋳造・鍛造設備で製造できるほか、新地金より安価な再生地金を用いることから、経済合理性も成立するとしている。
環境価値を事業成長へつなげられるか
半導体用高純度溶剤、使用済みプラスチック、アルミ合金という3つの事例は対象とする市場や循環方法が異なるが、顧客や排出企業から使用済み材料を回収し、レゾナックの精製、分析、合金設計、ガス化などの技術によって再び産業利用が可能な品質へ引き上げる点は共通する。
また、環境価値を理由とする追加コストに依存せず、バージン品より安価な高純度リサイクル溶剤、既存設備で製造できる低CO2アルミ、2012年に黒字化したガス化ケミカルリサイクルなど、経済合理性を備えた事業として継続・拡大することも重視している。
半導体材料における循環利用は、品質や安定供給を優先する必要があることから、まだ完成事例が多いとはいえない。そうした状況の中にあって、キオクシアとの高純度溶剤リサイクルを14年間継続し、同じ前工程用途へ戻す水平リサイクルと経済合理性を両立したことは、半導体材料の循環利用を広げるうえでの1つのモデルとなりそうだ。
レゾナックが今後、半導体前工程を中心にリサイクル可能な溶剤のラインナップを広げていくことで、石油原料の輸入に頼らない有機溶媒の供給による地政学リスクの低減、材料の安定供給、廃棄物とGHG排出量の削減を同時に実現する循環型事業の拡大が期待される。これまで環境技術というと、既存のメインビジネスの線上とは異なる文脈のビジネスとしてとらえられてきたが、同社のこれらの取り組みはメインビジネスに絡んで、企業としての成長と環境への配慮の両立に挑んだ成果と言えるだろう。









