
首相の高市早苗は9月17日、内閣改造を行い、第2次高市改造内閣を発足させた。官房長官の木原稔、外相の茂木敏充、財務相の片山さつき、防衛相の小泉進次郎、経済産業相・赤沢亮正ら主要閣僚を留任させる一方で、日本維新の会から中司宏らを初入閣させ、足場を固めた。ただ、総務相の林芳正は閣外に去り、来秋の自民党総裁選を見据えた活動を活発化させる。2年目を迎える高市政権。国内外で難題が山積する中、高市の「真価」が問われる。
「実行の内閣」
「この改造内閣は、決断と挑戦、そして実行の内閣だ。国民が安全で安心して暮らせる国をつくるため決断と挑戦を続けてきたが、いよいよ、本格的な実行のステージに入った」。高市は17日、内閣改造直後に記者会見し、こう強調した。
高市は前日の16日、自民党役員人事を行った。副総裁の麻生太郎、幹事長の鈴木俊一、政調会長の小林鷹之、選挙対策委員長の西村康稔、幹事長代行の萩生田光一を留任させた。総務会長には国対委員長を務めてきた梶山弘志を昇格させ、「骨格」を維持した。中枢人材をそのまま重用する「安定重視」の布陣だ。
閣内を含め留任が目立ったのは、政策変更は行わないという高市の強い意志の表れでもある。
片山と経済財政担当相の城内実の留任は「責任ある積極財政」を進めるとのメッセージだ。片山は米財務長官・ベッセントとの調整役として機能し、日米協調介入などでも存在感を発揮した。城内はAIや半導体などの「戦略17分野」をはじめとする成長戦略の推進役だ。赤沢の続投は米国と合意した投資を着実に進めるとの米国向けのアピールでもある。
国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定を進める茂木と小泉の続投からは、防衛力強化への高市の強い意志が透ける。国民と約束した政策を着実に「実行」に移す、という高市の宣言でもある。
基盤強化も図った。初入閣は7人で、そのうち文部科学相と農相には、自民党派閥裏金事件で政治資金収支報告書に不記載があった旧安倍派の関芳弘と簗和生をそれぞれ器用した。「不記載議員」の入閣は初めてとなる。世論の反発というリスクを抱えながら、旧安倍派の取り込みを優先させた形だ。
法相には山下貴司、国家公安委員長に葉梨康弘、復興相に細野豪志と閣僚経験者を充てた。山下、葉梨は法相経験者で葉梨は警察官僚出身だ。細野は旧民主党政権下で東日本大震災を受けた原発事故再生総括担当相や環境相などを歴任した。「実力重視」も演出してみせた。
アンケートを熟読
高市が重視したのは、自民党所属の衆院議員を対象に行ったのは「役職希望アンケート」だ。8月20日付で発出し、希望の役職は第5希望まで書き込める。高市は会見で「アンケートにつぶさに目を通し、本人の専門知識、課題意識、やる気を吟味し、積極性と情熱を見極めた」と打ち明けた。
かつて人事の際には、自民党は「挙党態勢」の名の下に各派閥が調整役を担い、ポスト配分で主導権を握ってきた。それに対し、首相は全議員の要望を一手に集め、人事を主導しようとした。裏金事件で麻生派を除く各派が解消されたことを踏まえ、「派閥主導」の旧弊を排除した形だ。
総務相に抜擢された藤井比早之は会見でアンケートについて「魂込めて書いたが、本当に総理は一言一句覚えておられた」と感激の表情を浮かべた。首相周辺はアンケートで人事を主導する手法を「革命的だ」と絶賛してみせた。ただ、アンケートを一心に読み込む高市の姿は、党内の人脈と情報の乏しさの裏返しとも言える。
初の内閣改造を乗り切った高市だが、高揚感は見られない。「地味な人事でしょ?」。改造直後、親しい議員には自嘲気味に漏らしたという。実際、高市にとっては我慢の人事でもあった。「高市カラー」よりも旧派閥出身者をバランス良く配置する「党内融和」を演出した。安全運転に徹した高市の視線の先には来秋の自民党総裁選がある。
党内基盤が脆弱な高市にとって、現存する唯一の派閥・麻生派の動向が大きく左右する。高市は内閣改造・自民党役員人事に向け8月25日、麻生と初めて2人きりで会談した。「高市さんは麻生さんに対し警戒心を持っている」。高市側近の一人はこう打ち明けるが、「麻生抜き」で政権運営を行える求心力は今の高市にはない。
この会談で高市は麻生の続投と、麻生が求めた鈴木の幹事長再任を確約した。一方で高市は自らに近い経済財政担当相の城内実と政調会長の小林のポストの入れ替えを検討した。政調会長を麻生との距離を縮める小林から、自らに近い城内に交代すれば、「麻生主導」の党運営に高市の意向をより反映することができる。だが、小林は続投を希望し麻生も小林の再任を求めた。交代案は幻に終わった。
国会運営で「主導権」
「高市らしさ」が見られたのは、国会運営の体制変更だ。国会対策委員長には村井英樹を抜擢した。国対委員長は国会運営の司令塔で、各党との調整役を担い、閣僚経験者のベテランを配するのが通例だ。当選6回で閣僚経験がない46歳の村井の起用は、国会改革に対する高市の期待感が見える。
村井は2018年に元防衛相・浜田靖一や小泉らと共に国会改革を議論する超党派の勉強会に参加しており、今後、首相や閣僚の国会出席日数の削減など国会のルール変更に意欲を示す可能性は高い。国会答弁を苦手とし政務に専念したい高市の意向に沿ったものだ。
もともと高市は衆院で圧倒的な議席数がありながら、野党に配慮する与党の国会運営の「伝統」に疑問を抱いている。村井の起用は官邸主導の国会運営を狙うための一手でもある。
一連の人事では参院も注目を集めた。参院は「熟議」を掲げ、衆院に対し独自性を重視する。参院自民党の役員の人事権も衆院議員である首相にはなく参院議員会長が握る。「独立機関」の参院自民で長年、国会運営を主導してきたのが参院幹事長だった石井準一だ。
石井は今年度予算の審議を巡り野党との関係を重視した国会運営を主導した。その結果、高市が掲げた予算の年度内成立は阻止された形となり、高市には「石井によるだまし討ち」と映った。さらに高市の神経を逆なでしたのが、4月の「自民党参議院クラブ」という独自グループの立ち上げだ。
こうした石井の動きに高市は不信感を強め、麻生も警戒感を強めた。板挟みとなった参院議員会長の松山政司は石井を交代させ、後任に青木一彦を充てる人事に踏み切った。高市や麻生との関係を重視したと映る。
青木の起用からは、石井の動きを封じる狙いが透ける。青木は石井と同じ旧茂木派出身で、参院をかつて主導してきた「参院のドン」青木幹雄の長男である。「石井さんも青木さんへの配慮から露骨な『反高市』の動きはしにくくなるだろう」。参院関係者はこう分析する。
総務相を務めた林の去就も焦点となった。高市は昨秋の総裁選で争った候補者のうち茂木、小泉、小林については、いずれも全員留任させた。林も続投など閣内にとどめ、安定的な政権運営を続けたいというのが本音だった。だが林は苦悩を深めた。
林が狙うのはもちろん「ポスト高市」だが、このまま閣内に残れば次期総裁選での出馬は難しくなる。高市への「裏切り」とも映りかねないためだ。一方で高市に反旗を翻す形で閣外に出れば、支援する議員ともども干し上げられる「冷や飯」のリスクがある。林には官邸側から「続投すれば、自身に近い議員の処遇も考慮する」とのメッセージも伝えられていた。「続投を求められれば、応じるつもりだ」。林は一時、周囲にこう宣言し続けていた。
最終的に高市政権との決別を決断したのは、支援者から「閣外に出て次の総裁選に備えるべきだ」との声が相次いだという要素が大きい。林は65歳。来秋の総裁選を見送った場合、その次の総裁が3年という任期満了まで務めれば、次々回の総裁選は70歳目前で迎えることとなる。「党内の世代交代論が強まれば出馬も危ぶまれる。来秋を狙うしかない」。関係者は解説する。
内閣改造翌日の9月18日、林は東京都内で講演した。総務相として26道府県を回ったとし「まだ21ある。いろいろな折りを見つけて地域の話を聞く機会をもうけたい」と意欲を語った。地方行脚で知名度アップを図る林の視線は、すでに「来秋」に向けられている。
「地味な人事」であるにもかかわらず、報道各社の内閣支持率は上昇傾向となった。高市に追い風を与えたのは、最大野党の中道改革連合の解散だ。旧立憲民主党出身議員の大半は新党「民主改革の会」へと移り、公明党出身者は同党に復党した。中道への12億円に上る政党交付金などもクローズアップされ、この解散劇は批判を集めた。野党の自滅という「敵失」が内閣支持率を相対的に押し上げた。
「暴走」するトランプ
内閣改造・党役員を終えた高市を悩ませたのが、米大統領・トランプの動向だ。国連総会出席のため、米ニューヨークを訪問した高市は22日、早速、トランプとの会談に臨んだ。この日米首脳会談の狙いは24日の米中首脳会談の直前に日米の結束を強化することだった。
だが、会談ではすれ違いも目立った。最大の懸案は国際刑事裁判所(ICC)だ。トランプは赤根智子所長らに制裁を科した。「法の支配」を根幹から揺るがす行為であり、欧州を始め国際社会の連携は揺らいでいる。会談で高市はこうした懸念を踏まえ、あえて「日本は一貫してICCを支持しており、引き続き支持していく」と言及した。ところがトランプは行動をエスカレートさせた。
国連の一般討論演説で登壇すると、ICCを「邪悪な人々の集団」とまで非難し、全加盟国に脱退を要求した。「米国のICCに対する不信感は非常に大きく、その姿勢は大変厳しい」。苦悩を深める高市は記者団にこう説明したが、トランプの「暴走」は日本のみならず、国際社会の不安材料となっている。
会談ではトランプが高市に「円安により米国の貿易が厳しい」と不満を漏らす場面もあった。11月の米中間選挙を目前に控え苛立つトランプ。円安や長期金利の上昇は高市政権にとっても大きな懸念となっている。
米中首脳会談も日本政府にとっては「誤算」だった。トランプの中国国家主席・習近平に対する厚遇ぶりが際立ち、歓迎式典では中国は第二次世界大戦で米中が「同盟国」だったとまで言及した。習も「米中の国民は日本の軍国主義の侵略者に対し肩を並べて抵抗し反撃した」と呼応した。
米大統領が過去の「抗日」まで挙げて中国との緊密さをアピールする異様な姿は、政権内に衝撃を与えた。高市は26日、トランプと電話会談し、記者団に「1週間間で2度の会談は、日米同盟の絆の強さを示すものだ」と強調したが、国際秩序を揺るがすトランプの存在は常に不安材料であり続ける。
高市は10月21日、首相就任から1年を迎える。経験を積んだ高市は厳しい情勢をどう乗り超えるのか。2年目は船出から試練の連続となる。(敬称略)