
走行できる道が分かる地図
7月28日に熊本地震が発生したことは記憶に新しい。地震発生後、各地に避難所が設置され、支援物資が運ばれた。また、被災地にある店舗にも物資が輸送された。実は震災などの災害発生時に、物資輸送を手掛ける運送事業者の壁になっていたのがひび割れや水・陥没といった被害や災害に伴う渋滞などを受けて「どの道が通行できるか、リアルタイムでは分からない」といった共通の悩みだ。
しかし、今回の熊本地震では、熊本県近辺でトラックが通行できる道を可視化した「トラック通れた道マップ」が公開され、地図上に大型トラックが走行できる道路が示された。手掛けたのは日野自動車の子会社でシステム開発を手がける日野コンピューターシステム(HCS)。
同社社長の岡田克巳氏は「もともと日野のトラックが正常に稼働しているかどうかを把握できるシステムを構築していた中で、災害時にトラックが通行できるかどうかが社会課題の1つになってきた。ビッグデータを自社内で把握しているだけでは社会貢献できない。そこで眠れる資産を外部に提供しようとする流れができた」と話す。
岡田克巳・日野コンピューターシステム社長
日野と三菱ふそうトラック・バスは今年4月、経営統合し、持ち株会社「アーチオン」が発足。傘下にトヨタ自動車グループだった日野とメルセデス・ベンツなどを擁するダイムラーグループの一員だった三菱ふそうが1つになり、世界最大級のトラックメーカーが本格始動した。
両社の国内での年間販売台数は6.8万台となり、UDトラックスを買収した、いすゞ自動車に迫る規模。車両や部品の共通化をはじめ、相互のOEM供給で製品群を強化するといった両社のハード面でのシナジー効果がある一方、デジタルの領域では物流事業者の課題解決の提供が可能になってきた。
その1つが両社の車両から取得するコネクテッドデータを活用した「ロジータ」だ。両社のデータを集約することで、対象車両は国内で50万台に拡大した。日野は2017年以降に製造・販売するトラックに通信機を標準搭載。車両から取得したデータをサーバーに蓄積・保有する仕組みを整え、「コネクテッドデータ」として活用できるようにした。日付や緯度・経度、走行距離や燃料消費量、ハザードランプの点灯数やワイパーの動作数などに至る動態データが最大1分に1回、サーバーに送られるようになっていた。
また、衝突軽減ブレーキシステムや急加速度、車両ふらつき警報といった安全装置作動情報に至っては即時送信。「当初は商用車を購入したお客様に公開していた仕組みが今はソリューション事業という形で花開いている」と岡田氏は強調する。
しかも、「日野は大・中型トラックに強く、三菱は小型トラックに強い。大・中型トラックが走行する幹線道路の状況が分かる上に、小型トラックが走る一般道路や生活道路の状況も分かるようになり、両社が一緒になることで、より精緻なデータを把握できるようになった」(同)。
先の「トラック通れた道マップ」の公開後は通信社や大手メディア、地方紙等にも取り上げられ、取引先の物流会社にも情報を案内した。他のトラックメーカーでもHCSのような子会社をグループに抱えているものの、外部にまでデータを提供している例は稀有だ。過去にはトヨタ自動車が乗用車版の「通れた道マップ」を提供している。
インフラの設置検討も支援
商用車の走行データは社会課題の解決にもつながっている。福岡県では商用車の走行データから「水素ステーションをどこに作るべきか」を分析。従来の調査や勘・経験だけでは把握しにくかったが、「いつ」「どこを」「どれくらい」走っているのかといった物流特有の複雑な動きを詳細に把握した上で、投資効率の高い候補地を提案した。「行政の評価も良好だ」(同)。
また、愛媛県東温市では松山市のベッドタウンとして高速道路へのアクセスを活かした企業誘致や工業団地の造成が不可欠となっており、同市は「東温スマートインターチェンジ」の整備を計画。その検討にあたり、建設コンサルタントから商用車の流動分析が提案され、HCSの実走行データが採用された。
「大型トラックの生活道路への侵入や抜け道、行き止まりリスクをデータで特定し、自治体・道路建設関係者と連携して合意形成と対策立案を支援した」(同)。従来の調査では限界があった出発地から到着地までの詳細な流動が分かるようになった。
そんなHCSの設立は1986年。日野のIT子会社として発足し、社内の業務効率化に資するシステム開発やインフラ運用を担ってきた。磁気テープやパンチカード主流の時代から生産・研究開発・部品手配・経理など製造業全体を支える業務システムを連携させて製造業の業務知見を蓄積させてきた。
生え抜き社長でもある岡田氏は自社の扱うデータを「眠れる資産」と表現する。トラックなどの商用車は乗用車と比べて・長時間・長距離を走行する傾向があり、24時間365日稼働する車両もある。こうした特性から、商用車由来のデータは「道路の利用実態や物流の動きを継続的に捉えやすい」(同)。将来、蓄積したデータを活用することで、安全運転教育や道路・交通分野など、物流業界以外の様々な用途への展開も期待できる。
物流業界はドライバー不足をはじめ、労働時間規制や健康経営など社会課題に直面。様々なIT企業や大手物流企業などがソフト領域で新たなサービスを打ち出す中、商用車IT企業として、これまでにないソリューションを生み出せるか。全社を挙げて挑戦していく考えだ。
