• 国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした、ボーイングの有人宇宙船「スターライナー」 (C)NASA

    国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした、ボーイングの有人宇宙船「スターライナー」 (C)NASA

米国航空宇宙局(NASA)は2026年9月28日、ボーイングの有人宇宙船「スターライナー」の今後の計画を発表した。

スターライナーは2024年の有人飛行試験で推進系に不具合が生じ、宇宙飛行士を乗せずに帰還していた。

次の飛行ミッションとなる「Starliner-1」は、早ければ2026年12月または2027年1月に実施され、無人で国際宇宙ステーション(ISS)へ向かい、改修の効果を確かめる。その結果を踏まえ、2028年までに「Starliner-2」で有人飛行を再開する計画だ。

不具合の原因は何か。NASAとボーイングは、どのように立て直そうとしているのだろうか。

次の飛行は無人で実施

  • 2024年、米国ニューメキシコ州ホワイトサンズに無人で着陸したスターライナー (C)NASA/Aubrey Gemignani

    2024年、米国ニューメキシコ州ホワイトサンズに無人で着陸したスターライナー (C)NASA/Aubrey Gemignani

スターライナーは、NASAの商業乗員輸送プログラム(CCP)のもとで、ボーイングが開発している宇宙船である。NASAは2014年、ISSへの有人輸送を担う企業としてボーイングとスペースXを選んだ。異なる宇宙船を並行して運用し、一方が飛べなくなっても輸送手段を確保できるようにする狙いがあった。

スペースXの「クルー・ドラゴン」は2020年にNASAの認証を受け、その後はISSへの有人輸送を続けている。一方、スターライナーは2019年の最初の無人飛行試験でISSへの到達に失敗した。2022年の2回目の無人試験ではISSとの往復に成功し、2024年6月に初めて宇宙飛行士を乗せた飛行試験に進んだ。

この飛行では、NASAのバリー・ウィルモア、サニータ・ウィリアムズ両宇宙飛行士がISSへ到着したものの、途中でサービス・モジュールの姿勢制御用スラスターの一部が正常に働かなくなり、推進系のヘリウム漏れも確認された。NASAとボーイングは地上試験や解析を重ねたが、NASAは2人の飛行士をスターライナーに乗せて帰還させるには不確実性が残ると判断した。宇宙船は同年9月に無人で帰還し、2人は2025年3月にクルー・ドラゴンで地球へ戻った。

NASAとボーイングが不具合の原因究明を進める一方、NASAは別途、独立した調査チームを設け、技術面だけでなく、試験や認証、組織の判断についても調べた。2026年2月に公表した報告書では、ハードウェアの故障、認証に必要な試験の不足、判断上の問題などが重なり、NASAの有人宇宙飛行の安全基準に照らして受け入れられない危険が生じていたと結論づけた。NASAはこの飛行を、事故分類で最も重大な「タイプA」の事故に分類している。

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焦点はスラスターの熱環境

  • ISSにドッキング中のスターライナー (C)NASA

    ISSにドッキング中のスターライナー (C)NASA

2024年の飛行でとくに問題となったのが、サービス・モジュールにある姿勢制御システム(RCS)のスラスターだった。

NASAとボーイングの調査では、スラスター周辺の熱環境や設計上の問題など、複数の要因が性能低下に関係していたことがわかった。とくに、酸化剤の流れを制御する弁では、内部の「ポペット」と呼ばれる部品に使われているシールが変形して押し出され、酸化剤の流れを妨げる現象が確認された。

そこでボーイングは、スラスターの過熱を防ぐため、サービス・モジュールに熱を逃がす部材や遮熱材を追加した。さらに、スラスターにつながる推進剤の配管にも、熱の影響を抑えるテープを貼るなどの対策を施した。

NASAは、次の飛行ミッション「Starliner-1」を、宇宙飛行士を乗せない無人ミッションとし、さらに「工学的評価ミッション」とも位置づけている。ISSへの物資輸送も行うが、主な目的は宇宙空間で推進系を作動させ、スラスター周辺の温度や性能を測定することで、設計変更の効果を確かめることにある。また、有人飛行の再開に向けて、ほかに問題が残っていないかも調べる。

また、NASAとボーイングは、サービス・モジュールのスラスター弁についても設計変更を行う。これは、ポペットのシールが押し出され、スラスターの性能が低下する問題に対処するためのもので、Starliner-1の飛行後に完了させる計画だ。

このほか、有人飛行までにクルー・モジュールのスラスター弁を交換し、腐食を防ぐ対策も施す。バッテリーも更新するほか、パラシュートにも性能と信頼性を高めるための改良を加える。

2028年までに有人飛行再開へ

  • 2024年6月5日、2人の宇宙飛行士を乗せた「スターライナー」が、「アトラスV」ロケットで打ち上げられた (C)NASA/Joel Kowsky

    2024年6月5日、2人の宇宙飛行士を乗せた「スターライナー」が、「アトラスV」ロケットで打ち上げられた (C)NASA/Joel Kowsky

NASAは、必要な改修や試験、認証を終えたうえで、有人の「Starliner-2」を2028年までに飛ばす計画を示している。NASA宇宙飛行士のウォーレン・ホーバーグ氏が船長を務める予定だ。

その後の運用についても方針が変わった。NASAとボーイングは2025年11月、スターライナーによるISSへの飛行について、契約上の確定分を4回に減らし、残る2回をオプションとする契約変更を行っていた。しかし今回NASAは、このオプションを行使し、当初予定していた計6回の飛行を実施する意向を示した。

また、スターライナーが現在打ち上げに使用しているユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「アトラスV」ロケットは、近いうちに退役が予定されている。このためNASAは、ULAの後継ロケット「ヴァルカン」をスターライナーの有人打ち上げに使えるよう、ボーイング、ULAと認証作業を進めるとした。

NASAがスターライナーの開発を続ける背景には、有人輸送を1種類の宇宙船だけに依存しないという方針がある。NASAは今回、ISSだけでなく、将来の民間宇宙ステーションなど低軌道の目的地への輸送にもスターライナーを使う考えを示した。

また、スペースXが近い将来、クルー・ドラゴンやファルコン9の運用を終了し、次世代の「スターシップ」へ移行する意向であることも関係している。NASAのジャレッド・アイザックマン長官は9月28日の記者会見でこの方針に言及し、これまでの開発実績などを踏まえ、スターライナーが低軌道への有人輸送を維持するための最も早く実現できる選択肢だとの考えを示した。ただし、クルー・ドラゴンの具体的な退役時期は決まっていない。

2024年の有人飛行試験から2年以上を経て、スターライナーの飛行再開に向けた計画がようやく具体的になった。不具合の原因究明が進み、次の無人飛行で確認すべき項目も明らかになったが、その飛行結果によっては、さらに改修や試験を重ねる必要が生じる可能性もある。

2028年までに有人飛行を再開できるかどうかは、Starliner-1の飛行結果と、その後の改修や認証作業の進展にかかっている。

参考文献