窒素自身が燃焼して酸素と結合することは通常は起こらないが、燃料などの燃焼で生じる高熱の吸熱反応で、窒素酸化物(NOx)が生成される。人体や環境に悪影響を与えるため、NOxは現在、アンモニア(NH3)などを利用して窒素へと触媒変換する「無害化」が行われている。しかし、無害化に必要なNH3などの合成にはきわめて多大なエネルギー消費と二酸化炭素(CO2)の大量放出を伴うため、排ガスの浄化と有用資源の回収を同時に行える、NOxのNH3などへの直接的な「資源化」が期待されている。

そうした中、産業技術総合研究所(産総研)は、産総研 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に整備されている大型(ベンチスケール)装置を使用し、燃焼排ガスと還元ガスを交互に切り替えて燃焼排ガス中に含まれるNOxをNH3に変換する、「吸蔵NTA(NOx to Ammonia)反応」の実証に成功したことを10月7日に発表した。

  • 今回の研究の概要(※原論文の図を引用・改変されたもの) (出所:産総研Webサイト)

    今回の研究の概要(※原論文の図を引用・改変されたもの) (出所:産総研Webサイト)

同成果は、産総研 マルチマテリアル研究部門の若林隆太郎研究グループ付、同・冨田衷子主任研究員、同・木村辰雄上級主任研究員らの研究チームによるもの。

排ガスNOxの資源化に対する技術的課題

大気中の窒素分子(N2)は化学結合がきわめて強固なため、NH3の合成にはその結合を切断する必要があり、莫大なエネルギー消費とCO2排出を伴う。しかし、この工程をスキップし、すでに結合が切れている排ガス中のNOxを利用してNH3を合成できれば、大幅な省エネと脱炭素を実現できる。

そこで産総研では2019年頃より、NOxを化学原料としたNH3の選択合成を実現するため、燃焼排ガスと還元ガスを交互に切り替えて導入する「吸蔵NTA反応」の研究・開発を行っている。独自開発の多孔質材料(酸化物系メソポーラス材料)を活用し、多孔性を保持したまま金属触媒と吸蔵成分を精密に複合化したナノ複合触媒材料の設計を中心に、材料組成の選定や反応条件の最適化が進められてきた。

しかし、吸蔵NTA反応を社会実装するには、いくつかの技術的課題が残されていた。特に、産業活動由来の排ガスに含まれるNOx濃度は0.1%以下と低く、低濃度のNOxを確実に回収するには、触媒を保持する機構(担体)を含め、緻密に設計された反応プロセスを確立する必要がある。単位時間あたりに処理する排ガス量が増え、反応管の容積が大きくなるにつれ、この課題はより顕在化することがわかっていた。

そこで今回の研究では、ラボスケールでの反応試験の結果を精査しながら、スケールアップした場合の吸蔵NTA反応によるNH3製造の検証を行うことにしたという。

今回の研究成果

ラボスケールの装置に対し、ベンチスケールの反応装置で使用する反応管の容積は約100倍の100cm3で、全長は10倍以上の500mmに達し、反応試験は最大毎分44Lのガス流量で実施された。スケールアップに伴う反応挙動の違いについて、ガス組成の変化や反応管内の温度分布を分析・観察することで、実プロセスに必要な情報が収集された。

  • 導入ガス切替式のNOx吸蔵還元反応に対応したラボスケールの反応装置(左上)、導入ガス切替式の2塔式反応試験への展開も見据えたベンチスケールの反応装置(下)、反応管の設置場所は赤枠で記載。ラボスケールとベンチスケールの反応装置の比較一覧(右上) (出所:産総研Webサイト)

    導入ガス切替式のNOx吸蔵還元反応に対応したラボスケールの反応装置(左上)、導入ガス切替式の2塔式反応試験への展開も見据えたベンチスケールの反応装置(下)、反応管の設置場所は赤枠で記載。ラボスケールとベンチスケールの反応装置の比較一覧(右上) (出所:産総研Webサイト)

ベンチスケールの反応試験に使用するハニカム触媒を調製するため、反応管にモジュール式で充填するハニカム基材(外径:16mmφ×長さ:62.5mm)が設計された。メソポーラスアルミナ(m-Al2O3)を触媒担体として、触媒活性種の白金(Pt)と吸蔵成分の酸化バリウム(BaO)を複合化したナノ複合触媒材料「BaO/Pt@mAl2O3」を含むスラリーがその基材に塗布された。

還元工程では、水素を含む還元ガスに切り替えると、白金触媒上で解離した水素種により吸蔵したNOxが水素化され、還元工程の初期にNH3が多く生成されている様子が確認された。8本のハニカム触媒を充填した反応管を用いた場合、NH3化率は20%程度になったという。

また、ラボスケール装置を併用した検証により、ガス流速を下げてNOxと触媒材料との接触時間を延ばすとNH3化率が改善することや、反応試験を40回程度まで繰り返しても触媒性能が安定して維持されることが確かめられた。それらの実験結果を踏まえて現在、NH3化率のさらなる改善や大流量の燃焼排ガスの処理に対応するため、産総研 再生可能エネルギー研究センターとともにベンチスケール装置の改良を進めているとのこと。

  • アルミナ系ハニカム触媒を使用したベンチスケールの反応試験。反応温度は250度、触媒量は1.6g(アルミナ系ハニカム触媒8本)、ガス流量は毎分8.8L、反応時間は60分、ガス組成は(導入ガス1:吸蔵過程)200ppmNO+10%O2+10%CO2+10%H2O⇔(導入ガス2:還元過程)5%H2 (出所:産総研Webサイト)

    アルミナ系ハニカム触媒を使用したベンチスケールの反応試験。反応温度は250度、触媒量は1.6g(アルミナ系ハニカム触媒8本)、ガス流量は毎分8.8L、反応時間は60分、ガス組成は(導入ガス1:吸蔵過程)200ppmNO+10%O2+10%CO2+10%H2O⇔(導入ガス2:還元過程)5%H2 (出所:産総研Webサイト)

【動画】動画「多孔質触媒材料を用いた吸蔵NTA反応の様子【産総研公式】」(再生時間:0分53秒) (出所:YouTube産総研公式チャンネル)

研究チームはさらに、市販のアルミナ粒子に金属触媒や吸蔵成分を複合化するような既存技術を利用した量産化や部材化も想定し、BaO/Pt@mAl2O3と同等性能を示す、アルミナ系ペレット触媒の開発も進めているという。

ペレット触媒の設計には、白金触媒の平均粒径を制御する必要があり、塩化白金酸などの白金源を担持した後の焼成温度を適切に選択することが重要となる。大型反応管に充填したペレット触媒の量(44g)を考慮し、ラボスケールの反応試験と「ガス流量に対する触媒量」が同一となる条件(反応温度:250度、反応時間:60min、ガス流量:毎分44L)が決定された。

加えて、ごみ焼却場を想定した排ガス組成に固定した上で、ベンチスケールの反応試験による吸蔵NTA反応の進行も確認された。触媒量がハニカム触媒の27.5倍に増えたことを反映し、NH3化率は約60%に改善された。さらに、ガス流量を毎分44Lから毎分8.8Lへと減らすことでNOxと触媒の接触時間が増加し、NH3化率が約90%に達することも実証された。

  • アルミナ系ペレット触媒を使用したベンチスケールの反応試験。[反応温度:250度、触媒量:44g、ガス流量:8.8Lmin-1、反応時間:60min、ガス組成:(導入ガス1:吸蔵過程)200ppmNO+10%O2+10%CO2+10%H2O⇔(導入ガス2:還元過程)5%H2](出所:産総研Webサイト)

    アルミナ系ペレット触媒を使用したベンチスケールの反応試験。[反応温度:250度、触媒量:44g、ガス流量:8.8Lmin-1、反応時間:60min、ガス組成:(導入ガス1:吸蔵過程)200ppmNO+10%O2+10%CO2+10%H2O⇔(導入ガス2:還元過程)5%H2](出所:産総研Webサイト)

今後は、実際のごみ焼却場などにおける排ガス総量の処理への適用を見据え、反応器の大型化などに伴う技術的課題を整理しながら、ベンチスケール装置の100倍(ごみ焼却場の排ガス総量の100分の1相当)のパイロットスケールの装置の構成を検討していく方針だ。

研究チームは、吸蔵NTA反応、あるいは周辺技術の社会実装を加速するため、企業連携を進めるとともに、ガスタービンやボイラーなどの燃焼設備、並びにその後段の排ガス処理施設への技術接続を想定したライフサイクルアセスメントの評価も進めていくという。環境問題、資源問題、エネルギー問題の解決に資する今回の技術による窒素問題の解消やサーキュラーエコノミー(循環型経済)への貢献をめざすとしている。