
米騒動、イラン戦争と食品企業にコストアップの試練続く
食品の値上げが止まらない─。令和6年から始まった米騒動、また今年2月末からアメリカ・イスラエルによる攻撃が開始されたイラン戦争で、外食・食品業界では価格転嫁が繰り返されている。2025年の消費者物価上昇率は3.1%で、生鮮食品を除くと7%にのぼる。
産業界で賃上げは続くが、厚労省が発表した令和7年の名目賃金は前年比2.3%の上昇に留まる。まだまだ物価上昇に追い付いておらず、消費者は日々の食品の選択において価格は非常に敏感。それをわかっているメーカーは顧客離れを懸念し値上げは苦渋の決断だが、採算を確保するためにやむを得ない。
消費者は食費節約で自炊に向かう動きも顕著だ。家庭に常備される基礎調味料・味噌メーカーにも変化が起きている。味噌業界3位のひかり味噌(信州)・専務取締役コーポレートマーケティング本部長の林恭子氏は次のように語る。
「独身世帯の増加や調理簡便化のニーズの高まりで、小容量の味噌や即席みその商品が伸びており、今後もそちらにシフトしていくと見ていたが、今年は定番サイズの650〜750グラムサイズの味噌が好調。同業他社の値上げもあって、当社の商品を選択される動きもあった」
味噌市場は約1000億円あり、うちマルコメ、ハナマルキ、ひかり味噌の大手3社が大部分のシェアを占め、しのぎを削る。全体では2~3ポイント市場縮小していたが、物価高騰による自炊回帰で25年は8年ぶりに下げ止まった。
同社では現在イラン戦争の影響によるナフサ不足で、プラスチック容器の調達が困難になり始めている。原料も大豆と米を使うため、令和のコメ騒動以来、原料高には頭を悩ませる。
「一番影響が大きいのは包装資材。6月までの分は確保しているが、その先が不透明。資材メーカーから値上げ要請がきている。工場で使うテープなども入手しづらくなっており、代替素材のものを検討中。しかしすぐには切り替えられない」(同)
こうした状況もあり、ひかり味噌も今年7月に値上げを予定している。業界全体が縮小に向かう中で、同社は14年売上を伸ばしている。25年9月期は売上高226億円。強みは他社にはない〝オーガニック〟食品であること。オーガニック味噌の分類では同社が85%を占め、日本の味噌輸出量全体においても最多の3割を占めている。
米国最大のスーパー・ウォルマートにも売り場拡大
食の欧米化で国内は味噌の消費量が年々減少しているのと対照的に、海外での味噌の存在感は増している。特に米国では健康や食への意識が高いアッパー層を中心にオーガニック食品需要が高い。このことに目を付け、同社は1997年に米国にオフィスを構え、同国の有機認定機関OCIAの認証を取得し、業界の中でも先駆けてオーガニック味噌を売り込んでいった。
現状、海外では味噌は発酵食品として腸内環境を整える調味料だと認知されている。
「当社の商品は、これまで駐在員や日本食の飲食店が多く利用する日系スーパー、ホールフーズなどの健康意識の高いスーパーマーケットに置かれていたが、昨年10月からアメリカ最大のスーパーであるウォルマートでの陳列が始まった。現地で一般の方々に広がっている手応えを感じている」(同)
現地の外食企業でも味噌は取り入れられ、メニューに〝miso〟と記載があるとcoolだと受け止められるまでにもなっているという。旨味が強いため、味噌汁としてだけでなく、隠し味やソースの一部に用いられ、現地の食文化に馴染みつつある。日本では500円を超えると高価格帯とみなされる中、海外の味噌売り場では、1パックおよそ9ドル(日本円で約1500円)で販売されている。
海外での販路拡大に活路を見出すひかり味噌。昨年8月にはサッポログループ食品から神州一味噌を買収した。もともと神州一味噌も米国、中国を中心に海外事業の土壌がある。両社が一緒になったことで、更なる海外市場の拡大を目指す。
「現在の海外比率15%を、将来的には30%くらいまであげていきたい。当社の強みであるオーガニックの、手間暇をかけて作られたおいしさを伝えていきたい。また、有機農法は農薬や化学肥料による土壌の劣化を防ぎ、地球環境の保全につながる。農家にとっても負担の少ないサステナブルな農業という点も大きな価値」と林氏。
同社では消費者の味噌へのハードルを下げるため、そのまま食べて美味しい「CRAFT MISO」や、味噌を溶く必要がなくそのまま料理の味付けができる「CRAFT MISOとろみ」などユニークな商品開発で需要を喚起。家で母親が料理をする姿を見る機会が少なくいい使い方がわからない世代や、料理をしない人向けに、そのまま食べられる「CRAFT MISO」は特にヒット商品となっている。
「良い調味料を使うと料理の味が格段に上がるので、自炊の質を高める一助になりたい。味噌は作り手や微生物によって仕上がりが変わる面白い食材。新しい食べ方の提案をしながら、味噌の素晴らしさを後世に伝えていきたい」と林氏は語る。
世界でしょうゆに次ぐ日本の代表的な調味料という座を得ようとしている味噌。現在日本には1000を超える味噌メーカーがあるが、海外市場の掘り起こしが生き残りの明暗を分けることになるだろう。