三菱UFJ銀行頭取・大澤正和が進める、 AI活用で安定した金融インフラ整備

「社会課題」を解決できる銀行であるために

 

「状況は引き続き混沌としている。この先どうなるか、毎日のように状況が変わるので全く予測がつかない面がある。仮に事態が好転しても、少なくとも2026年度は一定の影響が出てくることは不可避。よく注視していく必要がある」─こう緊張感を見せるのは、三菱UFJ銀行頭取の大澤正和氏。 

 2026年2月28日に始まった米国・イスラエルによるイランへの攻撃。終戦への模索が続くが、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の米・イラン両国による封鎖などで日本のみならず各国で原油、付随する化学品の不足、価格高騰が起きている。 

「元々、25年度は企業業績、設備投資は悪くなく、賃上げの勢いも相応にあり、好循環が出てくる期待感があったが一定の影響が出る。25年度までの大きな流れにどのタイミングで戻れるか、その見極めが非常に大事」と大澤氏。 

 インフレ、金利、円安が企業に様々な影響を与え始めているが、銀行としてはどう対応するのか。「特に年内は様々な形でお客様の状況をよく見ていく。やはり中堅中小企業にしわ寄せが行く可能性があるので資金繰りの支援などを行っていく」 

 一方、世界に目を転じると影響は「まだら模様」。米国のようにホルムズ海峡を頼らずに原油もガスもあり、相対的に影響を受けない国もあれば、ASEAN(東南アジア諸国連合)のように依存度が高い国々は、日本以上に大きな影響が出る可能性がある。 

 ただ、こうした不透明な国際情勢においても、大澤氏は世界の企業にポジティブな「意思」を見出している。それが「AI」(人工知能)への投資。「AIの爆発的な技術革新で、それを企業業績にプラスに活用していこうという意思は、ほとんどの企業にあるのではないか」と指摘。 

 こうした企業の投資意欲や需要の強さが世界経済を牽引することが期待され、経済全体が一気に崩れる状況にはないというのが大澤氏の見方。 

 こうした内外ともに混沌とした状況下、大澤氏は26年4月に三菱UFJ銀行頭取に就任した。どういう思いを持っているのか。 

「やはり、銀行のトップとして社会、お客様、社員から、その価値を高く認められるような銀行にしていきたい。そして社会課題を解決する、真に価値のある企業でないと100年、200年というスパンで存続していくことはできない。お客様に真っ先に相談したいと思っていただける銀行であることが大きなポイント」と話す。 

 従来の預金や融資といった伝統的な銀行業務だけでなく、個人であればNISA(少額投資非課税制度)の普及で投資への意欲、関心が高まっており、そうした需要にどう応えるのか。また、企業であれば高市政権が進める「危機管理投資」の戦略17分野への投資を進める企業、イラン情勢を受けてサプライチェーンの再構築を図る企業などから「相談したい」と思ってもらえるかが重要。

 

「エムット」をどう浸透させていくか?

 

 24年3月、日本銀行がマイナス金利政策を解除し、日本に17年ぶりに「金利ある世界」が戻った。足元で政策金利は約0.75%とまだ低い水準だが、金利ある世界が定着してきたと言っていい状況。銀行にとっては個人、法人ともにプラス・マイナスの影響がある。 

 大澤氏は「金利があることが普通の状態で、本来の銀行業務に戻りつつある。そこを愚直にしっかりやっていく。競争は激しくなる」と気を引き締める。 

 預金獲得は他の銀行だけでなく、異業種から銀行業に参入した企業との競争があるし、資産運用では当然証券会社との競争になる。 

「資産運用で言えば、どういうポートフォリオを組むか、どうリスク分散をするかということについてテーラーメイドでアドバイスすることへのニーズが上がってくる。法人も、世界各国で金利水準が違い、投資のリスクプレミアムも変わる。そこのアドバイスが大事になる」 

 個人に向けて、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、25年6月から個人向け金融サービス「エムット」をスタートさせている。 

「エムット」は三菱UFJ銀行のアプリを刷新し、新たなポイントプログラムを導入、グループのサービスを一元的に使える形にした。さらに三菱UFJカードの還元率を向上させ、利用のメリットを高めている。 

 今後は、26年度中にもグループ共通ポイント「エムットポイント」をつくる他、新たに「デジタルバンク」の開業を目指す。 

 さらにMUFGの子会社であるネット証券の三菱UFJeスマート証券と、同じく子会社で、全自動の資産運用「ロボアドバイザー」を手掛けるウェルスナビを27年度中に経営統合、新会社を設立し、新たなデジタル資産形成サービスを展開する。 

「エムット」の展開が本格化する中、頭取就任前、デジタル戦略を担ってきた経験を持つ大澤氏はどう見ているのか。 

 大澤氏は「現在、MUFGのリテール・デジタル事業本部長は執行役専務の山本忠司が務めてくれているが、前任は何を隠そう私。当時からエムットそのものではないにせよ、デジタルバンクのような議論はあった」と振り返る。 

 ただ、当時は金利が付かない状況下にあり、「採算のシミュレーションを含めて踏み切れなかった部分があったが、その流れを山本が受け継いでくれて、議論を発展させ、今このような形になっており、自分としても非常に思いがある。リテール(個人向け業務)を力強くサポートしていくと同時に、自分事として牽引していく責務を感じている」と力を込める。 

 エムットは三菱UFJ銀行を始めとするMUFGの存在、サービスを個人に改めて浸透させる役割を担うもの。さらに前述のデジタル資産形成サービスではAIも活用して、個人の様々な資産運用ニーズに応えていく。 

「非常に大事なポイント。今、AIで取り沙汰されているのは、人間がやっていることをリプレイスすること。しかし、お客様からすれば、提供されるものは変わらない。やはりお客様に提供する価値そのものをいかにお引き上げられるかが、AIの最大の挑戦ではないかと思っている」(大澤氏)。 

 エムットではMUFGとウェルスナビが共同開発した総合アドバイザリー・プラットフォーム「MAP AI」(Money Advisory Platform AI)で、1人ひとりの生活、ライフステージに合わせたアドバイスを提供する方針。これを含めて「新しいエムットの世界で、お客様に付加価値の高い世界を提供できるかが非常に大事」と話す。 

 そこには、日本最大の個人預金を預かっている三菱UFJ銀行のデータが生きてくる。そこから過去の流れから将来を予測し、アドバイスするということが「MAP AI」を通じてできる可能性がある。 

 また、26年度中にも開業を目指しているデジタルバンクについて大澤氏は「大きな起爆剤になる」と期待を寄せる。社内組織上は三菱UFJ銀行と別だが、アプリ上ではシームレスに連携する。 

「組織を一緒にするか、別にするかについては社内でも議論があったがシステム的な軽さ、スピードなどを考えて、エンティティ(組織)を別にした上で、お客様の体験価値としてはシームレスな状態を実現していくのが1つの解」と話す。三菱UFJ銀行とデジタルバンクとで、どのような相乗効果を発揮していくかが問われる。 

 それによって先行する三井住友フィナンシャルグループの「オリーブ」との差別化も同時に進めていくことになる。

 

「AIネイティブ」な会社になるために

 

 MUFGは、前社長で現会長の亀澤宏規氏が「AIネイティブ」な会社になるという方針を打ち出し、会社の姿を変えようとしている。大澤氏はデジタル事業本部長、グループCDTOを務め、亀澤氏と二人三脚でMUFGのデジタル化を手掛けてきた経験を持つ。 

 そのAIについて大澤氏は「完全に同居するというか、常に横にあるという感覚。自分の外側にあって使うという感覚より、全ての業務で自然体で横にいるというような状態が『AIネイティブ』な世界」と話す。 

 つまりコンタクトセンターの機能アップの他、稟議を書く、稟議を審査するといった業務プロセス、前述の「MAP AI」のようにAI活用による資産形成アドバイスまで、あらゆる部分にAIを入れていく。 

「個人であろうと法人であろうと、グローバルマーケットであろうと、どの業務に携わっていても自然とAIが業務の中に入っていくことがポイント。一緒に仕事をするという感覚」 

 そして前述の通り、AIに人の仕事を代替させるのではなく「自分ができなかったことをやらせるといった拡張性を意識することが大事」と大澤氏。 

 AIとともに、それまでの自分を超えるような仕事をし、顧客への提供価値を上げていくことが「AIネイティブ」な企業の実現につながる。

 

自ら希望して証券会社に出向

 

 大澤氏はタイの大手銀行・アユタヤ銀行買収など、MUFGの数々のM&A(企業の合併・買収)にも携わってきた経験を持つ。MUFGは直近、26年4月にもインドのノンバンク大手・シュリラム・ファイナンスへの出資を完了したばかり。 

 イラン情勢もある中、海外市場は冒頭の大澤氏の発言にあるように不透明感が漂う。特にタイのアユタヤ銀行、インドネシアのバンクダナモン、その子会社であるアディラ・ファイナンスも、コンシューマーファイナンス事業の比率が高いため、与信費用など経済悪化の影響をよく見ていく必要がある。 

 インドについては、ASEANに比べると影響はそこまで大きくないと見ている。「マーケットとしては、引き続きプロアクティブに見ていく必要がある」。三井住友FG、みずほフィナンシャルグループもインド企業への出資や買収を進めるなど、日本勢の注力が目立つ。 

 世界最大の経済大国・米国については「マーケットが非常に大きいし、高いものが高く売れる、リスクとプライシングがしっかり評価される世界」という認識で、経済については「強気」に見ている。 

 大澤氏は1968年6月東京都生まれ。91年東京大学法学部卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。通常の銀行員としての出世コースを歩んでいたが、自ら社内公募に手を挙げて証券会社に出向した。 

 その動機について「昔からハンズオンが好きだった」と話す。ハンズオンとは、現場に深く入り込んで様々な実践を行うことを指すが、証券会社ではM&AやECM(株式引き受け)、DCM(債券引き受け)といった投資銀行業務に携わった。「常にお客様と対峙して、お客様の実際のトランザクション(取引)に直接アドレスしていく仕事をしたかった」 

 証券会社に出向する前は、銀行で出世コースとされる営業本部に在籍していたが「負債サイドから物事を考える形だったので、エクイティからお客様の事業課題、財務戦略課題にアプローチする仕事をやってみたかった」と振り返る。結果的に、この経験が09年の米モルガン・スタンレーとの提携交渉、連携企画の仕事につながった。 

 大澤氏の「ハンズオン」の原点は何なのだろうか。「お客様を含め、対人コミュニケーションが好き。部屋の中にこもっているより外に出ようという性格」と自己分析。 

 そして学生時代に、仲間と1つの大きな目標を実現することの喜びを知った。「1人でできることには限界があるというのは昔から思っていた。今、大きな組織の中で自分1人ができることは小さいが、みんなと一緒に色々やってみたいという気持ちになっている」 

 不透明な国際情勢、AIの進化、そして金利ある世界の中での他行、異業種との競争と、銀行を巡って様々なプラス・マイナスの要素があふれる中で、銀行のトップとして課せられた責任は重い。周囲を巻き込んだ戦略の立案が求められる。