米国航空宇宙局(NASA)は2月19日、2024年に実施したボーイングの新型有人宇宙船「スターライナー」の有人飛行試験(CFT)についての最新の報告書を発表し、最も重大な事故にあたる「タイプA」に分類したと明らかにした。
過去には、スペースシャトル「チャレンジャー」や「コロンビア」の事故が同じタイプAに分類されており、事態の深刻さが浮き彫りとなった。
ボーイングは2026年、まず無人でスターライナーを飛行させて安全性を確認し、その後に有人飛行を再開する方針を示しているが、その先行きは不透明な状況となった。
スターライナーを巡るこれまでの経緯
スターライナー(Starliner)は、ボーイングが開発している有人宇宙船で、NASAによる国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する商業クルー計画(CCP)の下で開発が進められている。
宇宙船はカプセル型のクルー・モジュールと、スラスターやバッテリーなどを搭載するサービス・モジュールで構成される。ISSへの飛行ミッションでは最大4人を運ぶことを想定している。
NASAは2010年ごろから、民間企業に宇宙船の開発や運用を委ねる取り組みを進めてきた。ボーイングはNASAからの資金提供を受けてスターライナーを開発している。同じ枠組みには、起業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXも参加し、「クルー・ドラゴン」宇宙船を開発した。クルー・ドラゴンは2020年に運用を開始した一方、スターライナーは技術的な問題が相次ぎ、開発の遅れが目立っている。
2019年12月の初回無人飛行試験では、搭載時計の時刻系やスラスターに不具合が発生し、ISSへのドッキングを断念して早期に帰還する事態となった。改修後の2022年5月には2度目の無人飛行試験が実施され、ISSとのドッキングには成功したものの、打ち上げの前後でスラスターや配管に問題が発生した。
2024年6月には2人の宇宙飛行士を乗せ、初めての有人飛行試験(CFT)に臨んだ。しかし打ち上げ前から、推進系を加圧するためのヘリウムが漏れる不具合が起き、打ち上げ後もヘリウムの漏れが再発。さらに、ISSとのドッキング直前には、28基ある姿勢制御用スラスター(RCS)のうち5基が作動しなくなった。このうち3基は同じ方向の制御に関わるスラスターだったため、スターライナーは一時的に「6自由度」制御、つまり目標の方向と軌道を正確に維持する能力を失い、制御不能に近い、きわめて危険な状況となった。
その後、宇宙船のコンピューターの再起動などの対応により、5基のスラスターのうち4基が復旧し、またパイロットを務めていたバッチ・ウィルモア宇宙飛行士の操縦技術の甲斐もあって、最終的にドッキングは成功した。
ISSとのドッキング中に原因究明や対処が進められたものの、最終的にNASAとボーイングは、安全性に懸念が残るとして、宇宙飛行士を乗せたまま帰還させることを断念し、スターライナーを無人で地球へ帰還させることを決定した。スターライナーは2024年9月にISSから離脱し、着陸した。一方、搭乗していた2人の宇宙飛行士は、2025年3月までISSに滞在したのち、スペースXのクルー・ドラゴンで無事に地球へ帰還している。
スターライナー「CFT-1」関連記事
タイプAの重大事故に認定されたスターライナーCFT
こうした事態を受け、NASAは2025年2月、スターライナーに関する独立プログラム調査チームを設立。CFTで表面化した問題について、技術面に加えて組織面、文化面の要因も含めて調査を進めた。報告書は2025年11月に完成し、2026年2月19日に内容が公表された。
報告書によると、2022年の2度目の無人飛行試験でスラスターに問題が起きたにもかかわらず、その後、適切な措置が講じられず、発生した問題に真に対処することなくプロジェクトが継続されたという。また、ボーイングがスターライナーに加えた変更や改良の多くについて、NASAが十分に把握しないまま承認していたとも述べている。
また、スターライナーCFTが無人で帰還した際にも、クルー・モジュール側で推進系が故障し、大気圏再突入中にスラスターの故障許容性(フォールト・トレランス)が確保できない状態になっていたとの指摘がある。
さらに、サービス・モジュールの推進システムが、軌道離脱噴射に必要な二重故障に耐える設計(2フォールト・トレランス)を満たしていない欠陥を抱えていたことも指摘。この欠陥はCFTの打ち上げ直前に特定されたが、開発初期から存在していたにもかかわらず審査で見逃されており、検証プロセスに不備があったことを示すものだ。
くわえて、ボーイングが宇宙船の複数のシステムについて、設計限界を超える運用を容認していた点も問題視しており、この判断は乗組員の安全マージンと整合しないという。また、CFTで宇宙飛行士を乗せたまま帰還させるか、無人で帰還させるかが議論された際には、計画の評判に傷がつくことへの懸念が意思決定に影響し、安全が最優先とならない場面があった——すなわち体裁を保つために有人での帰還が強行される可能性もありえた——とも指摘している。
調査チームは、ハードウェアの故障に加え、認定要件の不備、リーダーシップの失策、文化面の問題が絡み合い、NASAの有人宇宙飛行安全基準と整合しないリスク状況を生み出していたと結論づけた。
そして、調査チームはこの事案を「タイプA」に分類した。NASAは安全上の事案を深刻度で区分しており、重大な順にタイプA、B、C、D、ニアミスとしている。タイプAは、死亡や恒久的な重度障害、または損害額が200万ドル以上に達する事案などを含む最上位区分とされる。過去には1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」の事故、2003年の「コロンビア」の事故がタイプAに分類されている。
報告書は、ドッキングに失敗した場合やスラスターの復旧が進まなかった場合などには、スターライナーが宇宙空間に取り残され、乗員の生命に関わる事態に発展し得たと指摘している。NASAは「ドッキング前に姿勢制御が回復し、負傷者も出なかったものの、重大な事故が発生する可能性があったことを踏まえ、タイプAに認定する」としている。
なお、問題が起きた直後にタイプAに認定しなかった理由について、NASAのジャレッド・アイザックマン長官は、「スターライナー計画の評判への懸念が、当初の決定(タイプAに認定しなかったこと)に影響を与えた」と説明した。
また、NASA次官のアミット・クシャトリヤ氏は、「これは近年のNASAの歴史において、本当に困難な出来事だった。本当にひどい一日になる危険性があった」と述べた。
(次ページにつづく)



