2025年11月5日に地球への帰還を予定していた中国の有人宇宙船「神舟二十号」で、帰還直前の点検中に窓ガラスに小さなひびが見つかった。原因はスペース・デブリ(宇宙ごみ)の衝突とみられ、宇宙飛行士3人は9日後の11月14日、すでにドッキングしていた別の宇宙船「神舟二十一号」に乗り換えて地球へ戻った。

運用中の宇宙船が損傷し、宇宙飛行士が別の宇宙船で帰還するのは、中国の有人宇宙計画では初の事態である。

  • 神舟二十号のクルーを乗せて帰還した、神舟二十一号の帰還カプセル (C)CMSE

    神舟二十号のクルーを乗せて帰還した、神舟二十一号の帰還カプセル (C)CMSE

デブリが狂わせた帰還計画

中国の有人宇宙船「神舟二十号」は4月24日、長征二号Fロケットによって酒泉衛星発射センターから打ち上げられた

神舟二十号には、陳冬氏、陳中瑞氏、王傑氏の3人の宇宙飛行士(タイコノーツ)が搭乗した。陳冬氏は過去に神舟十一号と十四号で宇宙飛行の経験を持ち、今回はミッション全体を統括する司令官を務めた。陳中瑞氏と王傑氏は、今回が初めての宇宙飛行となった。

神舟二十号は打ち上げから約6時間後、中国宇宙ステーション(CSS)にドッキングし、3人は前任クルーと交代して約半年間の長期滞在ミッションに入った。ミッションでは、4回の船外活動が実施されたほか、宇宙材料や生命科学の実験など、多岐にわたる研究が行われた。

そして10月31日には、新たな交代クルーとなる3人の宇宙飛行士を乗せた「神舟二十一号」が打ち上げられ、翌11月1日にCSSにドッキングした。

  • 神舟二十号の打ち上げ (C)CMSE

    神舟二十号の打ち上げ (C)CMSE

当初の計画では、陳氏ら神舟二十号の宇宙飛行士は、11月5日に宇宙船に乗り込み、CSSから離脱して地上へ戻る予定だった。しかし同日朝、中国有人宇宙工程弁公室(CMSE)は、「神舟二十号にスペース・デブリが衝突した疑いがあり、影響分析とリスク評価のため帰還を延期する」と発表した。

延期発表から9日後の11月14日、CMSEは評価結果を公表した。それによると、神舟二十号の帰還カプセルにある小さな舷窓のガラスに「細かい亀裂」が見つかり、その原因は外部からのスペース・デブリとの衝突によるものと判断された。また、影響評価のために、窓周辺の画像解析、構造図面の再確認、衝突シミュレーション、さらには地上での風洞実験を行った結果、CMSEは「この状態では有人飛行の安全要求を満たさない」と判断した。

それを受け、CMSAは神舟二十号を使わず、陳冬氏ら3人を神舟二十一号に乗り換えさせて帰還させる計画を発表した。そして11月14日、神舟二十一号はCSSから離脱し、内モンゴル自治区にある東風着陸場に無事着陸した。3人の健康状態は良好だという。

一方で、神舟二十一号の本来の宇宙飛行士3人は、当初の計画どおり約6か月間、CSSでの長期滞在を続ける。ただし、彼らを送り届けた宇宙船は神舟二十号の宇宙飛行士の帰還に使われたため、現在は自分たちの帰還船がない状態にある。このため、次の宇宙船「神舟二十二号」を前倒しし、無人で打ち上げることとなった。打ち上げ日は未定だが、CMSAは「適切なタイミングで」打ち上げるとしている。また、無人であるものの、補給物資を搭載し、事実上の補給船として打ち上げられる。

損傷した神舟二十号については、神舟二十二号がCSSにドッキングしたのち、無人で帰還させるとしている。

  • 神舟二十号のクルーを乗せ、地球に帰還した神舟二十一号の帰還カプセル (C)CMSE

    神舟二十号のクルーを乗せ、地球に帰還した神舟二十一号の帰還カプセル (C)CMSE

中国の「生命第一、安全第一」の原則とデブリの脅威

中国の有人宇宙計画は「生命第一、安全第一」を原則とし、ミッション中にはつねに予備を用意するという運用方針が採用されている。有人飛行に用いる長征二号Fロケットの打ち上げ時には、次のミッション用のロケットがすでに組み立てられ、緊急時に備えられている。

また、毎回のクルー交代時に新旧2機の神舟宇宙船が同時にドッキングする運用としておくことで、いずれか一方にトラブルが起きても、もう一方で帰還できる余地を確保している。もっとも、神舟は1機あたり3人乗りであり、交代期に6人が同時滞在しているあいだに1機が失われた場合、残る1機だけで全員が一度に脱出できるわけではない。そのようなケースでは、ドッキング中の神舟と、地上で待機している救出用の神舟を組み合わせて段階的に退避させることになる。

今回のように、実際に「行きは神舟二十号、帰りは神舟二十一号」という宇宙船の入れ替えが行われたのは初めてだった。「生命第一、安全第一」の方針が、宇宙飛行士の安全確保のために具体的に機能した事例といえよう。

もっとも、「なぜ神舟二十二号を先に打ち上げてから、神舟二十一号を帰還させなかったのか」という点は、疑問として残る。

CSSには、当面6人での運用を続けるだけの物資の余裕もあり、本来であればまず神舟二十二号を先に打ち上げ、CSSに2機の健全な神舟がドッキングしている状態をつくったうえで、事態への対応を進めるべきだったのではないか。そうしておけば、本来の神舟二十一号の宇宙飛行士も、万が一のときには自分たちの帰還船で脱出できる体制を維持したまま、神舟二十号の宇宙飛行士を帰還させることができたはずである。現状では、CSSで緊急避難が必要になった場合、残っている神舟二十一号の宇宙飛行士は、損傷した神舟二十号で脱出せざるを得ない。

逆に言えば、神舟二十号がまったく使い物にならないのであれば、神舟二十一号を先に帰還させることはせず、神舟二十二号を先に打ち上げたはずだ。すなわち、CMSEは「通常の帰還ミッションに使うにはリスクが高すぎるが、他に手段がない緊急時であればなお選択肢になりうる」という評価を下したことになる。したがって、今回の事態は予期せぬことではあるものの、致命的で深刻とまでは言えない事態であったと推察される。

国際宇宙ステーション(ISS)の運用でも、損傷や不具合が疑われた宇宙船を避け、代替の宇宙船を用いて乗組員を帰還させた事例がある。

2022年には、ロシアの「ソユーズMS-22」宇宙船のラジエーターで冷却材漏れが発生し、NASAとロスコスモスは、原因は微小隕石による衝突の可能性が高いと説明したうえで、無人の「ソユーズMS-23」を早期に打ち上げて乗員を帰還させている。今回の神舟二十号の件は、その中国版と言えるケースである。

2024年には、米国ボーイングの宇宙船「スターライナー」の初の有人飛行試験で、技術的なトラブルが発生し、宇宙飛行士は別の宇宙船で帰還しなければならなかった。

有人宇宙飛行は本質的に大きな危険を伴う営みであり、どれほど技術が進歩しても、そのリスクをゼロにすることはできない。過去には大きな悲劇が何度もあった。

近年の神舟、ソユーズ、スターライナーの事例は、原因はそれぞれ異なる。それでも、少しでも懸念があればその宇宙船には宇宙飛行士を乗せず、代わりの宇宙船で帰すという判断は共通している。

こうしたリスクは今後も低下する見込みはない。とくに、神舟二十号が直面したデブリ問題の背景には、人工衛星やロケットの打ち上げが本格化した1960年代以降、悪化傾向が続いてきた。近年は衛星破壊兵器の実験や衛星コンステレーションの拡大などもあり、低軌道の混雑が一段と強く懸念されている。追跡可能なのは主に大きなデブリに限られるため、神舟二十号の窓を傷つけたような微小デブリは、「どこから飛んでくるのか分からない」リスクとして、世界中の運用現場を悩ませている。

こうした環境のもとで、人を宇宙に送り出すことの難しさは、今後も増すことはあっても、決して減ることはない。神舟二十号の「乗り換え」やソユーズ、スターライナーでの判断は、その厳しい現実に向き合いながらも人を宇宙に送り出し続けるために、エンジニアをはじめ関係者が安全文化を育ててきたことの表れだといえよう。

参考文献