弁護士・久保利英明の【わたしの一冊】『カンパニー・ロイヤーへの道程』

企業内法律家(ジェネラル・カウンセル)の価値とジレンマ

 著者は日清食品HDの執行役員を務める経験35年の弁護士である。1999年以降、複数の企業のジェネラル・カウンセル等を務めたカンパニー・ロイヤーの先駆者であり、草分けの一人である。

 日本でも同意なき買収やTOB(株式公開買い付け)は急増し、海外子会社での会計不正や、サプライチェーンでのコンプライアンス違反、サイバー攻撃による全社的システム障害、SNSによる企業のレピュテーション毀損リスクの増大など、経営者にとって一刻も油断の出来ない経営環境が発現している。

 ガバナンス、コンプライアンス、内部統制が叫ばれても実態は追いつかない。当然これらのリスクは最終的にはリーガルリスクへと直結するから、各社ともリーガル・パワーの増強に奮闘しているが、司法試験合格者数は頭打ちで、社内弁護士の新規採用もままならない。

 米国の大企業においては4分の3に置かれているジェネラル・カウンセルなのに、本書によれば、東証上場企業においては僅か0.5%。日立製作所・エーザイ・三菱UFJ銀行など20社にしか置かれていない。司法小国かつ、経営後進国に位置づけられる日本には彼らの養成システムがなく、供給源にも乏しい。

 本書は、ジェネラル・カウンセルの本場、米国・英国での沿革や現状と、企業内弁護士を認めないドイツ・フランスとを比較しつつ、日本の現状や役割や業務内容を論じている。しかし、ジェネラル・カウンセルは法的規範に依拠する法律家として公正な法的判断者であると共に、企業トップの信頼感を得られるビジネス判断の決定者という二足のわらじを履くが故に、カンパニー・ロイヤーが抱える困難性やジレンマについても深く分析している。

 本書は、ジェネラル・カウンセルを目指す若手法曹のみならず、真剣にその採用を検討する経営者にとって、リスクマネジメントの必須の参考書となる好著といえる。

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