米国政府は、米国内で必要とする半導体チップやウェハの50%程度を米国内生産品で賄うことを目指しているが、米ハワード・ラトニック商務長官がテレビのインタビューで「台湾との半導体関税交渉に関する話し合いの中で、米国で消費される台湾企業製半導体の50%を米国内で生産するよう台湾政府に要請した」と述べたと海外メディアが報じている

これは台湾半導体業界の台湾での製造を減らし、米国での製造比率を50:50とすることを要求するもので、かねてより半導体の台湾への過度な依存に警鐘を鳴らしてきたトランプ政権が具体的な数値目標を示したことを意味する。

この発言に対し、米国での貿易交渉を終えて帰国したばかりの鄭麗君副行政院長(日本の副総理に相当)は、そうした約束をしたことがないと断言。台湾の行政院(日本の内閣に相当)も貿易交渉の焦点は相互関税率の引き下げや半導体への追加関税の回避といった現実的な通商問題であると公式声明を出す事態となった。

TSMCが米国での2nm量産を前倒しか?

ラトニック商務長官の発言は、TSMCのアリゾナ工場(TSMC Fab 21)を念頭に置いたものとみられる。TSMCは現在、最先端となる2nmプロセス(N2)の量産開始に向けて、台湾・新竹宝山のFab 20と高雄のFab 22の整備を進めているが、米国での需要の高まりを踏まえ、Fab 21キャンパスでの2nm開発も加速させている模様だ。

  • Fab 21が設置されているTSMC Arizonaの外観

    Fab 21が設置されているTSMC Arizonaの外観 (出所:TSMC)

業界関係者による話として、Fab 21でのN2導入は当初Phase3(第3工場)から予定されていたが、3nmプロセス対応予定であったPhase2(第2工場)でもN2に対応する予定になったとDititimesが伝えている。第2工場は現在、予定よりも約6か月前倒しで作業が進んでおり、装置の搬入・設置を2026年末までに完了させ、2027年後半よりN2の量産を開始する予定だという。TSMCは、N2以降の総生産能力の30%を米国工場に割り当てるとしているが、今回のラトニック商務長官の発言は、これを50%に引き上げろということだろう。

台湾の半導体サプライチェーン関係者によると、TSMCが工場の立地選定にあたって電力の確保が重要視されている模様で、電力の制約が厳しい台湾と比べて電力を確保しやすい米国を重視した場合、米国での先端プロセス生産割合は目標の30%を超す可能性があるという。しかし、TSMCの生産シェア50%を米国で担うためには、現在のアリゾナ工場の計画をさらに2倍近く拡張する必要があるという。

N2の顧客は15社ほど

半導体製造装置メーカーであるKLAのEVP兼CFOのブレント・ヒギンズ氏が9月10日開催のゴールドマンサックスのイベントにて「今後3年間で2nmが最大市場となる。現在、約15社がTSMCのN2で設計を行っており、内10社がHPC関連である」と述べた模様である。

関係者情報によると、TSMCのN2初期生産立ち上げ段階では、Apple、AMD、Qualcomm、MediaTek、Broadcom、Intelの6社の名前が挙がっている。また、Google、Broadcom、Amazon、OpenAIなどのクラウド大手各社もN2を用いたカスタムAIチップの開発を進めていると噂されている。ラトニック商務長官の発言の背景には、これらのほとんどが米国企業であり、彼らの需要が増加している一方で、現在の米国内の製造能力だけでは需要の半分も賄えそうな状況があるためだと思われる。