米GitLabの日本法人(以下、GitLab)は9月25日、企業経営に関する調査の結果をまとめたレポート「ソフトウェアイノベーションによる経済効果:日本が直面する1.6兆円のチャンスとその岐路」を発表し、説明会を開催した。
この調査レポートは、ビジネスの成功におけるソフトウェアイノベーションの役割について、アメリカ、オーストラリア、フランス、ドイツ、インド、日本、シンガポール、イギリスの8市場において2786人の経営者を対象に実施した調査の日本版。日本版においては251人の経営層が回答した。
なお、レポート内ではソフトウェアイノベーションを「新しいソフトウェアの開発、または既存ソフトウェアの大幅な機能強化により、新たな機能の導入、効率性の向上、革新的な問題解決を実現すること」と定義している。
AI活用はトレンドを超えてビジネス推進の原動力に
調査の結果、企業はAIへの投資により、デベロッパーの作業時間を短縮して1人当たり年間約123万円を削減できていることが明らかとなった。これは、デベロッパーの平均年収から平均時給を算出し、AIによる業務削減時間と比較して試算した値だ。
この数字を日本国内のデベロッパー人口である約130万人に当てはめると、年間ではおよそ1兆6000億円の経済価値につながるとのことだ。
GitLabのヘッド・オブ・ジャパンを務める小澤正治氏は「この結果はAIを活用したイノベーションによるものではなく、あくまで業務削減効果によるもの。つまり、最低限でもこれだけの規模の経済効果が見込めることが示唆された」と、調査結果を分析してみせた。
同氏によると、AIに対する経営層の意識にも変化が見られるという。それを裏付けるように、88%が「AI時代において、ソフトウェア開発は単なる支出ではなく企業の経済成長の原動力である」と回答したほか、同じく88%が「自社は今後18カ月間でソフトウェア開発へのAI投資を増やす予定である」と回答している。
また、「今後18カ月間で優位に立つためにはソフトウェアイノベーションを先導する必要がある」、「ソフトウェアイノベーションは今や事業の最優先事項である」と回答した人は、それぞれ87%だった。さらに、77%が「ソフトウェアイノベーションを優先するためであれば、年間のIT予算の半分以上を投資してもかまわない」と回答した。
さらに、経営層の54%が2025年におけるテクノロジーの最優先事項としてAIを挙げた。これは、2024年の最優先事項であったクラウドを上回る数値だ。AIに対する投資も進んでおり、89%の企業が過去12カ月間でソフトウェア開発への投資を増やしたと報告している。
こうしたソフトウェアへの投資を後押しする要因を調査したところ、「収益の増加」(43%)が最も多く、「顧客の需要」(42%)、「リスクの軽減」(39%)、「実証されたコスト削減」(38%)、「市場投入までの時間短縮」(37%)などの回答が続いた。
AIを導入した企業は、過去12カ月間における成果として、「デベロッパーの生産性」(65%)、「問題解決能力」(64%)、「市場投入までの時間」(64%)、「カスタマーエクスペリエンスの向上」(61%)、「収益の成長」(61%)と回答した。AIやソフトウェアに対する投資が、ビジネスの成長にも反映されつつあることがうかがえる。
さらに、87%が「過去12カ月間に行われたAIソフトウェアのイノベーションへの投資に対する直接的な結果として、ビジネスが成長した」と回答している。
「こうした結果から、ソフトウェアイノベーションは単なるトレンドを超えて、真のビジネス変革の推進力になっていると考えられる」(小澤氏)
自律型AIの導入に伴いガバナンス体制も準備が進む
経営層の88%は「自律型AIに関する規制の仕組みは、開発を制限するのではなく、イノベーションの促進に重点を置くべきである」と回答した。また、87%が「私の業界では、自立型AIを活用することで、活用していない企業に対して明確な競争優位性を得られる」と回答し、同じく87%が「自律型AIを導入することで、ソフトウェア開発チームの創造性とイノベーションが促進される」と回答した。
また、85%が「自律型AIは3年以内にソフトウェア開発の業界標準になる」と回答し、経営層はソフトウェアイノベーションにおける自律型AIのメリットに期待を見せていることが、調査結果からうかがえる。
その一方で、自律型AIの利用に伴うリスクや管理に対する懸念も増加している。主な懸念事項として「サイバーセキュリティの脅威」(50%)、「データのプライバシー / セキュリティ」(48%)、「AIエージェントに起因するミス」(47%)、「ガバナンスの維持」(45%)などが指摘された。
経営層の85%が「自律型AIにより、前例のないセキュリティの課題が生まれる」と回答したとのことだ。
ガバナンスのリスクに対し、少しずつ準備も進められている。自律型AIを利用する際のガバナンス体制について、55%が「規制への準拠」、51%が「社内ポリシーの整備」、49%が「第三者による監査」、48%が「AI倫理委員会」、44%が「パイロットプログラム / トレーニング」と回答した。
小澤氏は「私がお客様と会話する中では、まだまだ取り組みが開始した段階だと感じる。企業ごとに状況は異なるが、中身はこれからだという企業が多い」とコメントしていた。
自律型AIの活用促進においては、人間との共同が模索されているという。経営層の87%が「スキルギャップを埋めるために、従業員が自律型AIと協働できるようにするためのトレーニングを優先すべき」、86%が「自律型AIではどうしても置き換えられない、人間ならではの大切な素質がある」と回答したとのことだ。
AI時代に求められる人間らしい能力とは?
コスト効率の圧力が高まる中、経営層は優秀なエンジニア人材基盤を維持する必要性を認識している。「自社の属する業界では高付加価値なエンジニア人材よりもコスト効率を優先している」と回答した経営層は28%であり、33%は「自社の属する業界ではコスト効率よりも高付加価値なエンジニア人材を優先している」と回答した。
38%は「エンジニア人材とコスト効率の両方を同等に重視している」とバランス重視型の姿勢を見せており、コスト管理と同程度に長期的なイノベーションのためにエンジニア人材への投資も不可欠だと認識していることが示唆された。
AIの導入は人材採用と戦略にも影響を与えている。48%が「AIスキルのギャップを埋めるためにより多くのトレーニングが必要になった」、45%が「AIや契約社員を活用して人材不足を補っている」、41%が「これまでとは異なるスキルセットを持つ人材を採用するようになった」、39%が「AI関連職の人員を増やした」と回答した。
経営者から見た人間とAIの貢献度の比率は、現在は75対25(人間のインプット75%、AIのインプット25%)だとする回答が最も多かった。一方で、理想的な人間とAIの貢献度の比率を聞くと、50対50とする回答が最多となった。
「この結果から、AI活用の拡大と同時に、人間にしかできない貢献も等しく重視していると考えられる」(小澤氏)
97%とほぼ全ての経営層が「ソフトウェア開発において人間的要素は重要である」と回答している。中でも重視される人的貢献は、「創造性」(42%)、「コラボレーション」(38%)、「戦略的ビジョン」(37%)、適応力(34%)などだ。
デベロッパーの生産性はビジネスにも直結
イノベーションへの投資はビジネスの具体的な成果にもつながっている。過去12カ月間におけるビジネスへのAIの影響に関する調査結果から、経営者の49%が収益の増加、53%がデベロッパーの生産性向上を実感していることが明らかになった。また、デベロッパーが1年間に節約した時間は平均で753時間だった。
また、98%の経営層が「ソフトウェア投資のROIやインパクトを測定する指標を持っている」と回答。89%は「ビジネスへのインパクトを測ることで、コード量のような従来の指標よりもソフトウェア開発チームのパフォーマンスを正確に反映できる」と回答した。
ソフトウェアイノベーションの成功を測る指標としては「競争優位性の強化」(39%)、「デベロッパーの生産性の向上」(36%)、「収益成長の加速」(35%)、「コスト効率の向上」(35%)、「事業成長の拡大」(33%)などが利用されているそうだ。
小澤氏は「日本は世界的なトレンドと密接に連動しており、ほとんどの指標がグローバル平均と一致している」と説明した。続けて、日本とグローバルの主な相違点として「日本はAI活用による生産性向上がより顕著に表れている。AI導入に関してはグローバルよりもやや保守的であり、人間の創造性をより重視している傾向がある」と説明していた。







