2025年8月27日、スペースXの巨大宇宙船「スターシップ」(Starship)が、10回目の飛行試験で大きな成果を挙げた。
テキサス州ボカチカから打ち上げられたスターシップは、轟音を響かせながら上昇し、第1段のブースター「スーパー・ヘヴィ」は計画どおりメキシコ湾へ着水した。第2段の「スターシップ」宇宙船は、模擬衛星の放出やエンジン再着火などをこなしたのち、インド洋への制御着水に成功した。
ここ数カ月、スターシップの飛行試験は失敗、あるいは部分的成功にとどまり、足踏み状態が続いていた。しかし今回は、ついに主要な目標をすべて達成し、飛行試験プログラムはふたたび軌道に乗り始めた。
スターシップの足踏み
スターシップは、スペースXが開発している宇宙輸送システム。直径9m、全長約120mという、人類史上最大のロケットだ。
その巨体を活かして、スターシップは地球低軌道に100t以上のペイロードを運ぶ能力を備えている。この能力により、衛星の大量打ち上げや、米国航空宇宙局(NASA)が主導する国際有人月探査計画「アルテミス」の月着陸船としての利用、さらにスペースXが構想する有人火星飛行での活用も想定されている。
スターシップは、第1段の「スーパー・ヘヴィ」ブースターと第2段の「スターシップ」宇宙船で構成されており、完全再使用を前提とした設計になっている。これにより打ち上げコストを大幅に低減するとともに、飛行機のような高頻度運用をめざす。
しかし、その巨大さと複雑さゆえに開発は難航している。これまでの試験飛行では、成功と失敗を繰り返しながら少しずつ進展してきた。2023年4月の初飛行(IFT-1)は上昇途中で制御を失い、機体を自爆させる形で終了した。同年11月のIFT-2では、第1段と第2段の分離に成功したが、上段は高度約148kmで爆発し、完全な成果とは言えなかった。
2024年のIFT-3とIFT-4では再突入の試験が焦点となり、4回目にして初めて宇宙船が制御を維持したまま海上に到達した。
IFT-5からIFT-9までは、成功と失敗が交錯した。IFT-5では、ブースターB9が初めて発射塔の「メカジラ」アームによるキャッチに成功し、完全再使用への道を大きく切り開いた。
一方で、2025年からは「ブロック2」と呼ばれる改良型のスターシップの飛行試験に移ったものの、耐熱タイルの脱落や推進系の不具合といった問題が繰り返し露呈し、とくにスターシップ宇宙船の飛行は失敗が続いた。さらに、打ち上げ前の機体が地上試験中に爆発する事態にも見舞われた。
スペースXは、未完成の段階でも実際に打ち上げ、試験と改良を繰り返すことで完成度を高めていく手法を伝統としてきた。それでも、ブロック2に移行してからのここ数カ月は、進展が停滞に近い状況にあった。
こうしたなかで迎えたのが、今回の10回目の飛行試験だった。
大きな前進を見せた、10回目の飛行試験
スターシップは、日本時間8月27日8時30分(米中部夏時間26日18時27分)、テキサス州ボカチカにある同社の施設「スターベース」から離昇した。
ブースターB16は、全33基の「ラプター」エンジンを噴射し、轟音とともに機体は上昇を続けた。途中、中央部にある1基のエンジンが離昇から95秒後に停止したが、推力低下は許容範囲内だった。
離昇から2分44秒後、高度70km付近で、ブースターのエンジンを燃焼させたままスターシップ宇宙船のエンジンに着火し、同時に分離する「ホットステージング」を実施。分離シーケンスは円滑に進み、スターシップS37が宇宙へ向けて飛行を続ける一方、ブースターB16は帰還するためのブーストバック飛行に移行した。
ブースターB16はその後、ホットステージ・リングと呼ばれる、機体前部の耐熱シールドを分離するなど、順調に降下。終盤では、意図的に一部のエンジンを停止させ、その状態でも着陸ができるかどうかの実証が行われた。高度約200mでは一時的にホバリングし、メカジラによる捕捉を模擬する挙動を取ったのち、メキシコ湾(アメリカ湾)の海面へ落下し、予定どおりにミッションを終えた。
一方、スターシップS37は順調に加速を続け、離昇から8分53秒後、計画どおりエンジンを停止。機体はほぼ周回軌道に近いサブオービタル軌道へ到達した。
続いてペイロード・ベイのドアを開き、スターリンクv3衛星を模したダミー衛星8機を「ペッツ・ディスペンサー」と呼ばれる放出機構から分離し、宇宙空間に放出した。放出時には一部の衛星がドアに接触したが、最終的に分離は完了し、ドアも閉じられた。
さらに、宇宙空間でのエンジンの再着火の実証も行い、中央部の3基のラプターのうち1基が約3秒間燃焼した。スターシップ・ブロック2が宇宙空間でラプターの再着火に成功したのはこれが初めてだ。
そして離昇から約47分後、スターシップS37は大気圏に再突入した。今回の飛行試験では、機体の性能限界に関するデータを収集するため、意図的に耐熱タイルの一部を外していたとともに、フラップ(制御翼)に意図的に大きな圧力がかかるように飛行した。そのためか、高度90km付近で後部のスカート周辺が損傷し、後部のフラップにも損傷がみられた。
それでも、制御を保ったまま降下を続け、高度約300mでエンジンに着火し、機体を引き起こす「バックフリップ」を実施して、ほぼ垂直に立てたあと、エンジンを噴射しながらゆっくりとインド洋上へ着水を果たした。スペースXによれば、着水地点の誤差はわずか3mだったという。
試験後、スペースXは「世界初の完全再使用型打ち上げ機の開発において大きな前進を遂げました。主要な目標をすべて達成し、次世代のスターシップとスーパー・ヘヴィの設計に役立つ重要な知見が得られました」と発表している。
「飛行試験の過程において、成功の尺度は、得られる学びの大きさにあります。今回の飛行試験では、機体性能の限界に挑み、最大限の興奮をもたらしながら、貴重なデータが得られました」(スペースX)



