エンジン再着火成功に注目。ただし課題も
スペースXと、同社のスターシップ開発プログラムにとって、今回の成功は必要不可欠だった。ブロック2に移行してから3回の飛行失敗と地上での爆発を経て、ようやくその設計の妥当性を証明した。
とりわけ注目すべきは、宇宙空間でスターシップ宇宙船のエンジン再着火に成功したことだ。この成果により、機体を宇宙ゴミとして残さず、安全に減速して大気圏へ再突入できる能力が示された。また、スターリンクv3衛星の放出実証にも成功したことで、有人飛行や完全再使用の実現は先としても、スターシップを通常のロケットと同じように衛星打ち上げに使用できる道筋が開かれた。
スペースXはすでに次世代衛星「スターリンクv3」の量産を進めており、スターシップによる打ち上げを待っている。打ち上げが始まるのも、そう遠くはないだろう。
再突入から着陸までのシーケンスにおいても前進がみられた。従来の飛行試験では、再突入時に機体が大きく損傷し、制御を失うケースが多くあった。しかし、スターシップS37は、一部が壊れながらも再突入に耐え抜き、精密な着水も達成した。これにより、再突入時の耐熱システムの技術や制御技術の向上が確認され、将来の運用に向けた重要なステップとなったばかりか、ブースターと同じように、発射塔のメカジラでキャッチして回収する道が開けた。
また、過去の飛行試験では前部のフラップが損傷したことから、ブロック2では改良が施されており、今回の飛行では大きな損傷はみられなかった。これは改良の効果が表れたことを示している。
もっとも、後部スカートや後部フラップが損傷したことは、決して軽視すべきではない。スターシップはあくまで、無傷の回収と再使用、なにより有人飛行を前提としたシステムであり、損傷は原則としてあってはならない。
前述のように、今回の飛行試験では、データ収集のため通常よりも意図的に負荷をかけたとされるが、この手の試験は、実際に起こりえる最悪の条件でも機体が耐えられるかどうかを確かめるために行うものであり、損傷は想定外だった可能性がある。今後の飛行試験で改善されるか注視すべきだろう。
次なる改良型「ブロック3」、最終形「ブロック4」でめざすもの
スペースXは今後、あと1回のブロック2の飛行試験を行ったのち、さらなる改良型である「ブロック3」による飛行試験に移ることを計画している。
ブロック3は主に、再使用性と打ち上げ能力の向上を目的としている。最大の改良点がエンジンで、耐久性やメンテナンス性が大幅に向上した新型の「ラプター3」を装備する。
ブースターには、新型のグリッド・フィンを装備し、より精密な空力制御を行い、発射塔のメカジラによる捕獲を容易にする設計が施されている。また、ホットステージ・リングを機体に統合し、分離しないようにすることで、真の意味で完全再使用ロケットとなる。
スターシップ宇宙船は、改良した耐熱タイルや冷却システムの採用により、再突入時の耐久性が高められる。
こうした改良により、ブロック3は地球低軌道に約100tのペイロードを投入できる性能をもつ。
ブロック3はまた、2026年に地球から火星への遷移軌道に乗れるタイミングに合わせ、火星への打ち上げも計画されている。
ブロック3の飛行試験を通じて再使用性を確立すること、すなわち回収したブースターや、軌道上給油の技術実証も重要だ。地球低軌道に到達した時点でスターシップの推進薬はほぼ使い果たされるため、月や火星へ到達するには、別のスターシップから推進薬を受け取る技術を確立する必要がある。
だが、軌道上で2機の宇宙船間で推進薬を受け渡す技術は極めて難しく、これまでに実証例は数えるほどしかない。スターシップほど巨大な宇宙船同士で、大量の推進薬を移送するとなれば、前例はほとんどない。
スペースXはまた、最終的な完成仕様とする「ブロック4」の開発も進めており、さらなる打ち上げ能力の向上と再使用性の確立をめざしている。ブロック4では、ブースターとスターシップ宇宙船の全長が大きく伸び、エンジンの数も増えることで、低軌道に200t以上のペイロードを投入できるという。初飛行は2027年の予定としている。
スターシップには依然として多くの課題があり、今後も新たな技術開発が必要だ。前述した推進薬の補給にとどまらず、巨大な機体を確実に回収し、繰り返し使用できるようにすること、また再突入時の耐熱システムを信頼できる水準へ仕上げることは、スペースXがめざす有人飛行、そして火星への移住にとって不可欠である。
スペースXはこれまで失敗を恐れず、実際の飛行を通じて課題を洗い出し、改良を重ねることで進展を遂げてきた。今回の成果もその流れの中で得られた一歩に過ぎず、今後は安定性と信頼性の確立が問われる。さらに、スターリンク衛星などの打ち上げを通じ、スターシップを商業ロケットとして継続的に運用し、事業として収益を生み出せる体制を築くことも急務だ。
はたして、数年以内に実用化を果たし、人類の宇宙進出を担うシステムとなるのか。スターシップの行方に世界の視線が注がれている。
参考文献


