東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の両者は、岐阜県飛騨市の山中地下約600mにて建設が進む、次世代超大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置「ハイパーカミオカンデ」の検出器本体を設置する巨大地下空洞の掘削完了を8月5日に共同発表。掘削は約2年9カ月に及び、2025年7月31日に完了した。
1980年代後半に稼働したカミオカンデに始まり、現在稼働中のスーパーカミオカンデに続く3代目のハイパーカミオカンデは、東大とKEKが中核となり進める国際共同研究プロジェクトだ。2025年7月現在、世界22か国・約630名の研究者が参加している。
その巨大水槽は、現行のスーパーカミオカンデの約8倍の有効体積を持ち、水槽内面には2万個以上の新型光センサが装備される。これにより、非常に微かなチェレンコフ光を、今まで以上にわずかでも見逃さない高感度な観測が可能になる。この建設は、東大が中心となって進められている。
一方、KEKは、茨城県東海村において、大強度陽子加速器施設J-PARCセンターのニュートリノビーム増強や、中間検出器の建設を進行中だ。これは、現在J-PARCとスーパーカミオカンデの間で行われているT2K実験と同様の実験をハイパーカミオカンデでも実施するためだ。東海村からハイパーカミオカンデにもニュートリノを打ち込み、ニュートリノの謎の解明を目指す。
これらを組み合わせ、ハイパーカミオカンデではニュートリノの精密測定や陽子崩壊の探索を通し、宇宙の進化の謎を解き明かし、大統一理論の検証に挑む。計画は2020年2月に正式に始動し、2021年5月に建設位置に向けたトンネルの掘削が始まった。
ハイパーカミオカンデの本体空洞は、直径約69mのドーム形状の天井部(高さ約21m)と、その下に続く円筒形部分(高さ約73m)から構成され、岩盤内に掘られた人工空洞としては世界最大級の規模を誇る。建設地には日本有数の堅牢さを誇る飛騨片麻岩が広がるが、岩盤の性質や地圧のかかり方は、工事中や完成後の空洞の安定性に大きな影響を与える。
このため、掘削に先立ち、当初から継続して進められてきた地質調査の集大成として、2020年度には総延長730mに及ぶボーリングや新たな坑道の掘削など、大規模な地質調査が実施された。この結果を受けて、空洞の形状や補強方法を決定する「空洞設計」がトンネル工事と並行して進められた。
本体空洞のドーム部は、上方からの大きな地圧を三次元的なアーチ効果によって受け止める構造安定性の要となる部分だ。らせん状の仮設トンネルでドーム最上部へアクセスした後、2022年11月より吹付けコンクリートやPSアンカーで天井面を安定化させながら、空間が外側へと広げられていった。この天井崩落の危険性もある難工事を安全かつ効率的に進めるため、掘削で得られる地質情報や岩盤の動きに関する計測データを駆使し、空洞設計を随時更新する「情報化設計施工」が採用された。
2023年10月に始まった円筒部の掘削では、発生する岩石(ズリ)の排出効率が工事の進行を左右することが予想されていた。そこで、円筒部の中心に直径3.4mの立坑を底部のトンネルまであらかじめ掘削。発生したズリをこの立坑下部からダンプカーで効率的な排出する手法が取られた。これにより、安全性を最優先しながらも、空洞を1段ずつ掘り下げる工事が迅速に進められていった。
途中で大規模な足場を組んでの追加壁面補強工事が必要になったため、当初の予定から約半年遅れとなったが、2025年7月31日に約33万立方メートルに及ぶ本体空洞の掘削は完了した。これにより、ハイパーカミオカンデの建設におけるすべての掘削工程が完了し、プロジェクトは最も重要なマイルストーンのひとつが達成された。
今後は、26万立方メートルの超純水を貯める水槽を本体空洞に構築する工事が、2025年8月から始まる。続いて、2026年には装置を2層構造にするための構造体組み立てが始まり、その後、並行して光センサなどの機器の取り付けも順次進められる予定だ。
そうした作業に向け、国内では新型の超高感度50cm径光電子増倍管(PMT)の量産が順調に進む。また、海外機関が担当するPMT保護カバー、複眼光センサモジュール、外水槽用光センサユニット、電子回路システムといった各機器も、まもなく開発から量産に移行するという。
ハイパーカミオカンデは2027年にすべての機器の取り付けを完了し、超純水の注水を経て、2028年に観測を開始する計画だ。これまでのカミオカンデ、スーパーカミオカンデは、2代続けてノーベル賞に結びついた。3代目となるハイパーカミオカンデの新たな活躍に期待がかかる。

