富士通はこのほど、プラットフォーム事業における2025年度の注力ポイントとして、クラウドサービスの強化、ハードウェアの推進、マネージドサービスの拡大などに取り組む考えを示した。
プラットフォーム事業を統括する同社 執行役員専務の古賀一司氏は「この1年間でクラウド、ハードウェア、マネージドサービスをそれぞれに整備し、お客さまのニーズに応えることができようになってきた。Time to Marketを超えるスピードで、市場に先んじてテクノロジーを提供するとともに、テクノロジーがお客さまにどう役立つのかといったことをしっかりと提案したい」と語る。
2025年4月14日から「Oracle Alloy」を同社の国内データセンター第1リージョンで稼働。さらに、2025年6月には第2リージョンでも稼働する予定も明らかにした。富士通のプラットフォーム事業について、同氏に聞いた。
富士通とオラクル、ソブリン性が異なる2つのクラウドを提供
古賀氏は2024年度のプラットフォーム事業への取り組みについて「次のクラウド戦略に向けた基盤が整い、準備ができた1年であった」と振り返る。2025年度は、これらの基盤をベースに取り組みをさらに加速する考えを示す。
なかでも、最大のポイントが2025年4月14日から同社のデータセンターで提供を開始したOracle Alloyである。Oracle Alloyは、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)のテクノロジーを活用し、オラクルのパートナー企業が専用クラウドを構築。独自の価値を付加したサービスを提供することが可能になる点が特徴だ。
日本オラクル 社長の三澤智光氏は「日本のためのクラウド提供が可能だ。日本のお客さま専用のクラウドを実現し、日本のパートナー企業から提供されるサービスが利用できるようになる。物理的にも、論理的にも、データ主権やオペレーション主権が、日本の企業によって保証される唯一のクラウドサービスになる」と自信を見せる。
すでに野村総合研究所(NRI)がOracle Alloyを導入し、金融分野向けにサービスを提供。富士通による稼働は日本では2例目となる。今後、NTTデータにおいて稼働することが決定している。
古賀氏は「富士通では従来から保有している国産クラウドサービス『FJcloud』に加えて、新たに日本オラクルとの協業による『Oracle Alloy』によるソブリンクラウドの提供が可能になる。データ主権や運用主権を守り、パブリッククラウドの柔軟性や先進性を活用したいユーザーはOracle Alloy、テクノロジーまでを含め徹底的に理解して活用したい場合には、富士通がプロプラエタリで提供するFJcloudを選択してもらえる。ソブリン性が異なる2つのクラウドサービスを提供することができる」としている。
国内需要の旺盛なニーズとは?
富士通では、Oracle Alloyの稼働前にすでに6社から受注を獲得。Oracle Alloyに対する引き合いは、3桁に達しているという出足の良さをみせている。同氏は「経済安全保障推進法で示された基幹インフラの特定14業種からの引き合いをはじめ、システムおよびデータを国内に保管したいというニーズでの引き合いが多い」という。
だが、旺盛な引き合いの背景には、もう1つのニーズがあるとの認識を示す。古賀氏は「パブリッククラウドの課題として指摘されているのが、クラウド環境が自動アップデートやパッチ適用の影響を受けやすいという点である。Oracle Alloyによるクラウドサービスは、お客さまの計画に合わせて、富士通がクラウド環境のアップデートやパッチのタイミングをコントロールすることで、オンプレミス環境と同等の運用性を確保できる」とのことだ。
既存のミッションクリティカルシステムをそのままクラウドに移行した場合などには、バージョンアップ後にうまくシステムが稼働しないという課題が発生することがある。また、ECサイトではあらかじめ設定していた「特売」や「セール」、「キャンペーン」などの日に、メガクラウドベンダーの都合によって、バージョンアップが行われ、サイトの運用が停止するといった影響が課題として懸念されている。
富士通が提供するOracle Alloyによるクラウドサービスであれば、クラウド環境のアップデートやパッチ適用のスケジュール調整にも柔軟に対応。さらに、オラクルが最後発のクラウドテクノロジーを利用しているため、コスト面でもOracle Alloyにはメリットがあることを強調する。
古賀氏は「運用に柔軟性を持ちたいといったユーザー、機密性の高いミッションクリティカルシステムの運用コストを下げたいといったユーザーからも高い関心が寄せられている。クラウドを自らコントロールしたいというニーズは想定以上に多い」と話す。
第1リージョンの稼働に続き、6月に第2リージョンでOracle Alloyを稼働
富士通では、今回の第1リージョンでの稼働に続き、2025年6月には第2リージョンにおいて、Oracle Alloyを稼働する予定を明らかにしており、これにより国内データセンターだけでのDR(ディザスタリカバリ)環境を実現できる。
同社では、運用コンサルティングサービスやFujitsu Cloud Managed ServiceをOracle Alloy向けに提供。これも2025年度の注力点の1つであるマネージドサービスの拡大につなげる。
さらに、古賀氏は「クラウド基盤に関しては、単一の製品を活用していることで、性能が変わったり、ライセンス戦略に変更があったりすると、システム全体の運用に影響を及ぼすといったことが起きている。こうした課題に対して、代替ができる提案をしっかりと用意していく必要がある。これも2025年度の重要な取り組みになる」と述べた。
同氏によると、このあたりの詳細な取り組みについては、今後発表していくことになるという。
Supermicroと提携を拡大し、ハードウェアを推進
ハードウェアの推進という点では、先ごろ発表したSuper Micro Computer(Supermicro)との提携拡大が柱となる。富士通は、4月にSupermicroからGPUサーバをOEMで調達し「PRIMERGY GX2570 M8s」として、2025年6月から第1弾製品の提供を開始。
古賀氏は「Supermicroとの提携により、GPUサーバをスピード感を持って市場に投入でき、お客さまのニーズに迅速に対応できる。それを実現するために、Supermicroと事前に情報を共有し、富士通の品質基準による事前テストを行う。富士通ブランドのGPUサーバは、OEMであってもSupermicroが新製品を投入するのとほぼ同じタイミングで提供できるようになる」と語る。
まずは、10Uサイズの空冷と4Uサイズの水冷の2種類構成とし、最新のGPUである「NVIDIA HGX B200」を搭載し、大規模な生成AIの活用提案などを行う予定だ。今後、SupermicroからのOEM調達を増やし、GPUサーバのラインアップを強化する考えも示している。
古賀氏は「GPUサーバをオンプレミスで活用できる環境を迅速に実現することで、生成AIを活用する際に、お客さまが持つデータをセキュアに活用したいという声に対応できる。富士通がGPUサーバを迅速に市場に提供するための方法として、Supermicroとの提携は最適解となる。安全な生成AI活用を促進する革新的な一歩となり、お客さまのビジネス拡大に貢献できる」と述べた。
今回の提携においては、Supermicroの最新技術を活用した正式出荷前の製品をテスト導入したいユーザーに対しては、OEM前のSupermicroのサーバを先行的に販売。特殊な用途に限定しているために出荷数量が見込めない場合にも、Supermicroのサーバをリセールすることも盛り込んだ。
さらに、富士通は同社が持つサポートインフラを活用した保守・運用支援サービス「SupportDesk」を提供。Supermicro以外の企業が同社の水冷サーバとGPUサーバに関する保守サービスを提供するのは、富士通が世界初だという。
古賀氏は「富士通はメインフレームやUNIXサーバ、富岳などを通じて、40年以上にわたって水冷技術に取り組んできた実績がある。これは他社にない強みである。約4000人のエンジニアと、全国約700カ所の常駐拠点を活用することで、約2時間以内にオンサイト対応が可能な高品質のサポートを提供できる。富士通のサポート環境のなかで、安心してSupermicroのGPUサーバを利用してもらえる」と期待を口にした。
クラウドに加えて、ハードウェアでもマネージドサービスを拡大
そして、ここでもマネージドサービスの拡大に取り組む。GPUサーバとSupportDeskに統合管理ツール「Infrastructure Manager」を組み合わせたマネージドサービスを提供。
古賀氏は「企業において、機密情報や個人情報を取り扱う業務で生成AIを活用する際、生成AIの意図しない学習リスクや情報漏えい、情報の保管場所に対する社内規定などの課題があり、それを解決するために、企業からは専有環境が求められている。また、生成AIを活用できる専有環境の基盤を構築する際には、サーバの選定から導入、保守、運用にわたり、高度な専門知識をもつ人員が必要となり、これも生成AI活用の壁になっている」と指摘する。
そして、同氏は「富士通はマネージドサービスの提供を通して、お客さまの生成AI活用基盤を迅速に立ち上げたり、維持したり、管理コストの低減を実現したりといったことが可能になる。GPUサーバをオンプレミスとして運用しながら、資産管理、運用管理、トラブル対応などをマネージドサービスとして、富士通に任せてもらうことができる」とした。 なお、富士通とSupermicroは2024年10月に戦略的協業を発表。富士通が開発する次世代プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」を搭載したAIコンピューティングプラットフォームを2027年から提供する計画を発表したほか、次世代グリーンデータセンターやHPC(High Performance Computing)向けの水冷ソリューションの共同開発も発表している。
さらに、2025年4月にはニデックを含めた3社による協業を発表しており、エネルギー効率に優れたデータセンター運営を可能にするソリューションを開発し、富士通の館林データセンター(群馬県館林市)において、ソリューションの効果検証を行い、2025年度第4四半期までに世界トップレベルのPUE(Power Usage Effectiveness)を実現するデータセンター環境を提供する計画である。
ネットワークプロダクト事業を再編し、7月に新会社設立
また、もう1つのハードウェアの推進に関する施策として、2024年4月に発足したエフサステクノロジーズにPCサーバや基幹IAサーバ、ストレージに関する開発、製造、販売、保守に関する機能を統合。経営責任を明確化し、経営判断の迅速化と徹底した効率化を追求した成果について「ハードウェアビジネスが順調に立ち上がってきた」(古賀氏)との手応えを示す。
一方で、プラットフォーム事業とは異なるが、ハードウェア事業の再編としてはネットワークプロダクト事業を行う1FINITY(ワンフィニティ)を、2025年7月に設立することを発表している。
富士通 社長兼CEOの時田隆仁氏は「1FINITYは2024年4月に設立したエフサステクノロジーズと同様の考え方によるものであり、グループ内に分散しているネットワークプロダクト事業に関する研究開発から製造、販売、保守までの各機能を集約し、経営のスピードを上げ、グローバルでの競争力を高めることを目的としている」と説明。
1FINITYは、光伝送機装置やO-RAN準拠の5G基地局装置を中心とするネットワークハードウェアと、関連するソフトウェアの開発、製造、販売、導入支援(デザイン、構築)、保守、運用に至るまでの機能、そして次世代通信技術である6Gの研究機能を統合する。
さらに、富士通ネットワークソリューションズの通信キャリア向け事業など、関連する従業員を集結し、ネットワークソリューションをグローバルに提供する体制を確立する方針だ。さらに、ネットワークプロダクト事業に関連するグループ会社である富士通テレコムネットワークス、富士通ネットワークサービスエンジニアリング、モバイルテクノ、Fujitsu Network Communicationsの4社を1FINITYに統合する。
富士通の時田社長兼CEOは、これらのハードウェアビジネスの統合について「AIが存在感を増し、欠かせないものとなる状況下において、データ活用を支えるハードウェアソリューションも同じスピードで進化し、実用化していくことが求められている。テクノロジー企業として、最適なソリューション提供体制を検討していく」と語っている。
このように富士通のプラトフォーム事業においては、クラウドサービス、ハードウェア、マネージドサービスの強化が進んでいる。
古賀氏は「Time to Marketでの市場投入にとどまらず、市場に先んじてテクノロジーをしっかりと提供することに力を注いでいく。また、テクノロジーがどう役立つかといったことを、お客さまに提示することが大切である。テクノロジーを語るだけでなく、活用提案を重視すると同時に、社内で培ってきた情報も積極的に発信していく。これにより、お客さまの課題や社会課題の解決に貢献していく」と述べている。