ServiceNowがAIエージェント戦略を進めている。ServiceNowが5月6日~同8日まで米ラスベガスで開催した年次カンファレンス「Knowledge 2025」で自社プラットフォームを「ServiceNow AI Platform」と呼び、AIエージェント管理の「AI Control Tower」、複数のエージェントが相互運用するための「AI Agent Fabric」などの機能を発表した。

Knowledgeでシニアバイスプレジデントでプロダクト、ServiceNow AI Platform担当のNirankush Panchbai氏に、新製品を中心に話を聞いた。

  • ServiceNow AI Platform担当のNirankush Panchbai氏

    ServiceNow AI Platform担当のNirankush Panchbai氏

ServiceNowのCMDBを土台とした「AI Control Tower」

KnowledgeでServiceNowは「AI Platform」を打ち出しました。

Panchbai氏(以下、敬称略):ServiceNowは「Now Platform」をAI Platformとリブランドします。Now Platformの強化はAIエージェントに関連したものが中心となっており、顧客側もAIのプラットフォームとして利用しているという現実を反映しました。

実際、ServiceNowのプラットフォームには、AIエージェントの構築、管理、協調など活用に必要な技術やツールが揃っています。われわれのプラットフォーム上で4兆回のワークフローが実行されており、データの宝庫といえます。

このデータをプロセスマイニングで分析すると、エージェントがどこで必要か、ボトルネックがどこにあるのか、非効率な部門がどこなのかが明らかになり、エージェント戦略を進めることができます。

Knowledgeでは多くの発表がありました。AI関連での目玉を教えてください。

Panchbai:最初にピックアップしたいのが「AI Control Tower」です。この製品の背景として、ServiceNowはAIはすでに現実のものとして浸透が始まっており、もはやツールではなく、労働力となっていると見ています。であれば、従業員を管理するように、労働力となったAIを管理する必要がある。それを実現するのがこの製品です。

  • 「AI Control Tower」の概要

    「AI Control Tower」の概要

AI Control Towerの土台にあるのはServiceNowのCMDB(構成管理データベース)です。20年もの間、IT部門はこのCMDBを“唯一の真の情報源”として、資産が加わればその情報を追加してきました。

今回、AIの資産情報をCMDBに加えることで、AIエージェントという労働力をエンドツーエンドで管理できます。オンボーディング、ガバナンスや管理、コンプライアンス、リスクとセキュリティを把握できるだけでなく、重要なこととしてそのAIエージェントが想定していた価値を生んでいるのかを見ることができます。

つまり、ServiceNowの強みであるCMDB、ワークフロー、オーケストレーターエンジンなどを組み合わせて、AIエージェントを労働力として管理できる、これがAI Control Towerです。

2つ目に紹介する新製品が「AI Agent Fabric」です。今後、組織には複数のベンダーが提供する複数のAIエージェントが混在することになりますが、AIエージェント同士をどうやって連携するのか、それを支援する製品です。

具体的には、相互運用レイヤーとして機能するファブリックとなり、A2A(Agent2Agent)、MCP(Model Context Protocol)、AGNTCYなどのプロトコルをサポートします。

Knowledgeでは、ServiceNowのAIエージェントオーケストレーターがMicrosoftのエージェントとやり取りする様子をデモしました。異なるプラットフォームのAIエージェントが連携して成果をうむという世界が実現します。ServiceNowは、今後も新しいプロトコルが登場すればそれをサポートします。

  • 「AI Agent Fabric」の概要

    「AI Agent Fabric」の概要

AI Control TowerとAI Agent Fabricに加えて、すでに発表済みの「AI Agent Studio」「AI Agent Orchestrator」も強化し、目的に合わせて構築したAIエージェントも複数発表しています。

懸念されるセキュリティや規制への対応

AIエージェント間の相互運用は素晴らしいことですが、セキュリティや規制のリスクも考えられます。

Panchbai:ServiceNowは20年間、認証を行ってきました。Google Cloudなど適切なエージェントであることを確認・認証し、エージェント間の通信を行います。

登録はCMDBで行われ、AI Control Towerは登録済みのエージェントか否かを識別して通信の許可を決めます、セキュリティタブで各エージェントのセキュリティ、アクセスレベルなどを設定します。

AIエージェントがプラットフォーム上でどのような動作をしているのか、引き継ぎがいつ行われたのかといった監査性、追跡性も重要で、AI Control Towerはそのための機能もあります。

ビジネスユーザーが自分で異なるエージェントを連携することも想定されます。そのような場合に、ガバナンスは重要です。

以前アプリのスプロール(無秩序な増加状態)問題が言われていましたが、AIエージェントの時代はエージェントのスプロール問題が生じるでしょう。ガバナンスライフサイクルを設定して、承認されたシナリオのみが機能するという状態を講じておくことは重要です。

ユースケースを教えてください。

Panchbai:例としてCRM分野があります。ServiceNowは、ワークフローからAIやデータまでエンドツーエンドで単一のプラットフォームを用いますが、すべてのデータがServiceNowにあるというわけではありません。

マーケティングデータはGoogleにあるというケースがよくあります。営業担当がアップセルの機会を調べるため、A2Aプロトコルを使ってGoogleのGeminiベースのエージェントと通信してマーケティングの洞察を得て、ServiceNow側のエージェントに引き継ぎます。

引き継いだエージェントは顧客との契約内容、過去の販売実績やサービス利用状況などの情報に、Googleから得たマーケティングキャンペーン情報を組み合わせてアップセル活動を展開する、というものです。

ServiceNowはデータ、AIエージェント、ワークフローが統合されたプラットフォーム

AIエージェントの投資対効果という点で、AI Controlでは成果を測定できるとのことですが、詳しく教えてください。

Panchbai:AIエージェントの目標を設定し、マイクロメトリクスを分析してどれだけの価値を生み出しているのかを表示するという機能です。

例えば、CTOが社内で開発されるコードの30%をAIで自動生成するという目標を設定します。開発者がそのためにエージェントを使うと、人が書いたコード行数とAIが生成した行数を測定し、AI Control Towerで表示します。

20%となると、データからどのエンジニアリング組織がAIをより活用しているか、どの部門が遅れているか、精度の高低はどこにあるかといった情報を調べることができ、改善に役立てることができます。

このように、AI Control TowerはAI担当だけでなく、CTO、CFO、CIOなど多くのユーザーを想定しています。

KnowledgeでCEOのBill McDermott氏は「ServiceNowはビジネストランスフォーメーションのAI Platform」と位置付けました。他社もAIでプラットフォームとなることを目指していますが、ServiceNowの差別化は?

Panchbai:データ、AIエージェント、ワークフローが統合されたプラットフォームであるという点です。

1つ目のデータについて。AIの燃料はデータですが、現在データはサイロ化されています。われわれのプラットフォームでは、Data Fabricなどを通じてサイロを破り、データをプラットフォームに取り込み、活用することができます。

ServiceNowのプラットフォームはAI時代の前から、常に統一されたプラットフォームでした。外部からのデータに対してナレッジグラフやセマンティックレイヤーなどの技術を使って統一データモデルとして取り込むことができます。2つ目のAIはお話ししたように、多数のツールを備えています。

3つ目のワークフローは、年間4兆回というワークフロー実行回数を誇り、最適化された経路、非効率性などを見出すことができます。このデータの宝庫を活用することで、ServiceNowのAIエージェントはさらに賢く、効果的に機能します。このような組み合わせを実現できるのはServiceNowの大きな強みです。

日本市場でのAIエージェントの機会をどのように見ていますか?

Panchbai:日本は自動車など製造が強く、生産性を高めるお手伝いができると思います。また、言語(翻訳)があります。AIを使うことで、言語によるハードルが一段と低くなることでしょう。