NXP Semiconductorは、ドイツで開催されているEmbedded World 2025にあわせて現地時間の3月11日、Advanced Zonal SDV/CoreRide Platform向けMCU(マイコン)として「S32K5ファミリー」を発表した。これに関して同社の日本法人であるNXPジャパンよりオンラインにて説明で行われたので、その内容をご紹介する。
昨今の自動車の制御系が、従来のフラットタイプからドメインを経てセントラルゾーンに向かいつつある、という話はこれまで何度も出て来た話であるが(Photo01)、そのゾーンと呼ばれるアーキテクチャも実装は様々である(Photo02)。
その統合コンピューティングではどんな姿になるのか? というのがこちら(Photo03)。
個々の末端は最終的にはMCUを持たない純粋なアクチュエータになり、その制御をゾーンアグリゲーターやビークルコンピューターが担うという方向に進むという構図が示されている。
こうしたアーキテクチャに向けて、同社はS32NからS32Kまで様々なラインナップを用意しており(Photo04)、S32Kは2017年のS32K1発表時は車載向け汎用MCU、2020年のS32K3発表時には位置付けこそ変わらないものの性能の大幅向上が図られていた。
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Photo04:S32Kが汎用、S32Mがモータ制御用、S32Z/S32Eがリアルタイム車体制御、S32Gがコネクティビティ、S32Nがセントラルプロセッシング向けである。あとパワートレイン系向けにS32Sが以前はあったはずだが、どこに消えたのだろう?
今回発表のS32K5も、分類としては汎用になるのかもしれないが、演算性能をゾーンコントローラー/ゾーンアグリゲーターに対応でき、何ならセントラルプロセッシング一部担えるかも位まで強化したものとなる(Photo05)。
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Photo05:今回のMRAMの採用は、2023年に予告されていたTSMCとの協業の最初の成果ということになる
製品の狙いはこちら(Photo06)で、なんというか従来のS32ZとかS32Gの役割まで担えそうな格好だ。
ラフなブロック図がこちら(Photo07)、もう少し詳細なブロック図がこちら(Photo08)となる。
面白いというか不思議なのが、演算処理がCortex-R52、制御がCortex-M7という組み合わせな事(Photo09)だが、これは従来のS32K3が一部Cortex-M7をすでに採用しており、これをそのまま使うというケースを考えると制御にCortex-M7の方が適切という話であった。
ではCortex-R52は? というと、パワートレーンの制御などでは高度なリアルタイム演算性能が求められ、Cortex-M7では追い付かない様な場面で利用するため、という話であった。
また主要なコンポーネントは多重化されており(Photo10)、ISO 26262 ASIL Dへの対応も可能という話で、「少なくとも」Cortex-R52とCortex-M7は2コアは存在する(実際にはもう少し多そうだ)。ネットワークはEthenetとCAN FDに対応。Ethernet SwitchやCAN Hubの機能なども搭載している。
また先程Photo05の脚注でも書いたが、今回は車載向けにMRAMを採用する最初の事例となる。Flashに対する強みとして、信頼性と耐久性の高さ、それと書き込み速度の高さなどが挙げられている(Photo12)。なおHSE(Hardware Security Engine)はISO 21434に準拠したものだそうだ。
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Photo11:Photo08で10BASE-T1Sが別ブロックで示されているあたりは、ひょっとすると10BASE-T1SのPHYまで入っているということか、それともEthernet Switchとは別系統で10BASE-T1Sのサポートがあるということか、どちらだろう?
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Photo12:この辺はMRAM全般のFlashに対する優位点そのままである。ちなみにTSMCはあまり標準的な不揮発性メモリを16nmに提供しておらず、例えばルネサスはTSMCと共同開発でNOR Flashを搭載したが、他社製品に使われている話は聞かない。今回のMRAMも事実上NXPの専用品という事になるのかもしれない
S32K5 MCUファミリーは2025年第3四半期に、主要な顧客にサンプル出荷を開始予定としている。