サイボウズはこのほど、同社が提供するグループウェア「サイボウズ Office」とノーコード開発ツール「kintone」を併用する企業同士で情報共有を行うユーザー会をオンラインで開催した。
増える「サイボウズ Office」と「kintone」の併用企業
サイボウズ Officeは「誰でもかんたんに使える」にこだわって開発された中小企業向けグループウェアだ。スケジュールや掲示板、メッセージなど、社内の情報共有を円滑にする機能がそろっている。1997年の発売以降、日本人の働き方に合ったグループウェアの開発を20年以上続けており、2024年11月時点の累計導入社数は8万社を突破している。
一方のkintoneは、ノーコードで業務アプリが開発できるクラウドサービス。難解なプログラミング言語を覚えなくても直感的にアプリを作ることができるのが最大の特徴だ。2024年11月時点の導入企業数は3万7000社を超え、この1年間で5500社ほど増えた。東証プライム企業の3社に1社が導入しており、毎月650社が新たに導入している状況だ。
サイボウズ Officeの操作に慣れ、社内にデジタルコミュニケーションが浸透してきたとき、次のステップを考える企業が、kintoneとの併用にチャレンジするケースが増えてきている。
サイボウズによると、両サービスを併せて利用する企業は、2024年11月末時点で2700社を超えているという。こうしたユーザー企業のニーズに応えるため、同社はサイボウズ Officeとkintoneの連携を進めている。2025年1月14日には、サイボウズ Officeのスケジュールとkintoneのレコードを関連付ける新機能を発表した。スケジュールからkintoneアプリを表示する機能と、kintoneアプリからスケジュールを登録する機能が追加された。
今回のユーザー会に集った企業も、それぞれの業務内容に合わせてサイボウズ Officeとkintoneを使い分けている。では一体、どのようにして使い分けているのだろうか。そして、併用する上でのポイントとは。ユーザーのリアルな声とともに活用事例の一部を紹介しよう。
サイボウズ Officeは“白ごはん”のような存在:調味料製造販売のトキワ
「べんりで酢」「なんでもごたれ」といった調味料を製造販売するトキワもサイボウズ Officeとkintoneを併用する企業の一社だ。
兵庫県北部、日本海側の香美町に本社を置き、社員数は約90人。同社は2016年からサイボウズ Officeを利用しており、2021年からkintoneとの併用を始めた。役員を含む社員全体の75%にライセンスを付与しており、全社的に利用できる環境を整えている。
2013年4月に入社し、総務・経理業務の傍ら、ICT担当者として両サービスの管理者も兼務する小椋美稲子さんが、サイボウズ Officeとkintoneの使い分けについて紹介した。
トキワでは、サイボウズ Officeの「スケジュール」や「社内メール」、「掲示板」といった標準機能を活用し、情報共有のプラットフォームとして利用している。そのほか、出張や交通費の申請ができる「ワークフロー」や、会議室や社用車、PCの貸出予約に使う「施設予約」、不在者への電話のメモを残せる「電話メモ」、出張や研修の報告に使う「報告書」など、さまざまな機能を活用している。
小椋さんは「サイボウズ Officeは私たちの会社にとって、食事で例えると白ごはんのような存在。あるのが当たり前で、これなしではもう回りません」と話した。
一方、kintoneでは、営業課商談・活動報告アプリや残業時間集計アプリ、通信販売部で顧客からの声を共有するアプリなど、さまざまなアプリを作成している。残業時間集計アプリでは、勤怠システムから書き出したデータを基に、毎月の時間外を集計してグラフ化し、それを共有している。
そのほか、日報や農園の記録、稟議書、支払依頼書など、全社で活用しているアプリは多種多様だ。頻繁に活用するアプリに関しては、ポータル画面にアプリのアイコンを並べて、リンクを貼り、ショートカットのように利用することで「入口で迷子にならないよう道案内ができる動線にしている」(小椋さん)という。
kintoneアプリの作成は全社員に許可している。導入当初はkintone活用に関する勉強会などを通じて認知を広げ、小椋さんを含む総務部内のICT推進チーム3人がアドバイスやフォロー、全体の管理を行っている。
サイボウズ Officeの掲示板で共有していた画面をkintoneアプリにリニューアルした事例もある。kintone導入前は、商品の広告情報をサイボウズ Officeの掲示板で共有していたが、情報にたどり着くまでに数クリックが必要で効率が悪く、出稿が多い月やテレビなどの放送が重なると、顧客がどの媒体を見て電話をかけてきたのかがすぐに分からない状況だった。
そこで広告企画を行う部署の担当者が自ら、kintoneのアプリで広告情報を管理できるアプリをリニューアル。情報の一覧をポータルに表示し、慣れ親しんだサイボウズ Officeを見ていても、kintoneのアイコンをクリックすれば、このポータル画面が表示される仕組みにした。「この画面を見れば、その日の企画が一目で分かり、内容も詳細画面を開けばすぐに確認できるようになり、お客様対応がスムーズになりました」(小椋さん)
そのほか、kintone導入前は紙で運用していた稟議書や物品請求書などもkintoneでアプリ化した。紙で運用していたころは、添付する見積書や資料をすべて印刷する必要があり、電子で受領したものやWebページ掲載の資料でもわざわざ印刷していたという。「承認者が外出や出張だとフローが止まってしまい、決裁までの時間が長くなり、どこまで回付されたか分からなくってしまうこともありました」(小椋さん)
それらの業務をkintoneでアプリ化したことで、時間場所問わず複数人が同時に確認できるようになり、決裁までの日数の短縮につながった。添付する資料はPDF、もしくはWebページのリンクなどで対応できるようになり、紙や検索の手間が削減された。
一方で、あえてサイボウズ Officeのままにしている機能もある。出張関連の申請はkintone導入前からサイボウズ Officeのワークフローを利用していたが、kintone導入に伴ってアプリへの移行を検討していた。しかし、サイボウズ Officeのワークフローが差内で浸透していたため、あえてそのまま継続して利用しているという。
「今後もサイボウズ Officeとkintoneの併用は続けていく方針です。サイボウズ Officeが白ごはんだとすると、kintoneは“おかず"ですね。両方セットで美味しくいただいています」(小椋さん)
サイボウズ Officeのカスタムアプリをkintoneへ:小牧岩倉衛生組合
愛知県の小牧市と岩倉市で発生した生活ごみを処理する清掃工場を運営する小牧岩倉衛生組合もサイボウズ Officeとkintoneを併用している。総務と情報システムを兼務する水谷正樹さんが、同組合での活用状況を説明した。
同組合では、サイボウズ Officeを2008年に導入。組合内でのコミュニケーションの基盤として、主にメッセージ、スケジュール、掲示板、ファイル管理の機能を利用している。また、2021年からはワークフローやカスタムアプリで電子決裁も行ってきたが、現在はkintoneとWebワークフローシステムの「コラボフロー」を連携させた手法に移行しつつある状況だという。
水谷さんは「サイボウズ Officeのメッセージや掲示板では、コメント機能でチャット感覚で意見交換できるのが気に入っています。最近は、リアルな会議は開かずにコメントのやりとりで済ますことも多くなってきました」と説明する。
新たな試みとして、会議資料を共有する掲示板カテゴリを作ったという。「メッセージのやりとりだと閉鎖的な感じになってしまうため、オープンな場で意見交換してもらうようなスペースを模索中です」(水谷さん)
サイボウズ Officeのカスタムアプリも積極的に活用。案件管理システムをカスタムアプリで構築し、ステータス管理でタスクの進捗状況の見える化が実現できているという。
一方のkintoneは、コラボフローの申請データを蓄積しデータ活用するためのデーターロガ的なツールとして2023年から導入。Webフォームを作成できる連携ツール「FormBridge(フォームブリッジ)」による外部からの申請データの処理を行う目的でも活用している。
トキワと同様、kintoneを活用することでペーパーレス化を実現し、業務効率も向上させている。kintoneとコラボフローの連携により、休暇や時間外勤務申請などの勤怠管理の電子決裁化・集計作業の効率化を実現。「それまでは月初めに紙の申請書を人力で集計していました。最初はサイボウズ Officeのカスタムアプリでシステムを構築していたのですが、職員の給与に関する業務なので、より厳密な証跡管理が行えるkintoneとコラボフローでシステムを構築しました」(水谷さん)
また、将来的には、サイボウズ Officeのカスタムアプリはkintoneに移行していく予定だという。現在は職員の約半数しかkintoneのアカウントを持っていないが、今後全職員にまで拡大させ、DX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに推進していく考えだ。
「カスタムアプリの使い勝手の良さを残しつつ、kintoneに移行できるかが今後の課題です。コミュニケーションの基盤としてはサイボウズ Officeのほうが使いやすいので、両サービスの併用を続けていくつもりです」(水谷さん)