SAPを利用している企業の中には「2027年問題」に戦々恐々している企業もあるだろう。2027年問題とは、SAPのERP製品「SAP ERP 6.0」の標準サポートが2027年に終了することを指す。2027年問題の対応に向けて、市場ではSAP人材のニーズが高まっているが、その育成は簡単ではない。
NTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は1月23日、企業内大学 「GSL大学」が、2024年10月で開校5周年を迎え、SAP人財の育成に特化した「SAPトレーニングプログラム」の修了者が約100名に達したことを発表した。
これら修了者は、第一線で業務に従事しており、2027年問題の対応に向け成果を出し始めているという。そこで、同社にSAP人財を育成するコツについて聞いた。
6つの活動を展開している「GSL大学」
「GSL大学」は「個々人の成長を組織の成長につなげる」というコンセプトの下、2019年にスタート。現在、研究啓蒙活動、成長支援活動、交流活動、ライブラリー活動、人材獲得支援活動および、企画運営活動の6つの活動が展開されている。
研究啓蒙活動としては、コミュニティ、公開講座・サロン、GSL大学ジャーナルが行われている。成長支援活動としては、SAPトレーニングプログラム、階層別検収、自習型コンテンツが行われている。交流活動としてはGSL大学祭が、また、ライブラリー活動としてはGSL大学ジャーナルが行われている。さらに、人材獲得支援活動としては広報室との外部に向けた広報活動を予定している。
社内で開催されている公開講座には、2024年12月時点で延べ5,000人以上が参加したという。
採用が難しいSAP人財を自社で育成
「SAPトレーニングプログラム」は、SAPビジネスに従事する人財の創出を目的として作られた研修プログラム。SAPトレーニングプログラムを開設した背景には、SAP人材のキャリア採用が難しいことがあるという。
カリキュラムは「コンサルティングスキル」「基幹業務知識」「SAPに関連する知識」の3つで構成されており、各コースに応じて必要なカリキュラムを選択する。年4回の開講で、受講期間はコンサルタント育成コースが3カ月、スキル拡張コースが約2カ月、PM/営業/管理者コースが約1カ月となっている。
同プログラムはNTTデータGSLに加え、NTTデータグループ全社および協力企業の社員を対象としている。同社にとどまらず、NTTデータグループ会社および協力会社でSAP人材が不足しているそうだ。人手不足でSAPの案件が受けられないという話を聞くが、同社でも同様の傾向が見られるとのこと。業界全体で、SAP人財が不足しているようだ。
また、SAP製品に対するニーズはリプレースだけでなく、新規案件も増えているとのこと。例えば、クラウドが当たり前の時代になって、SAPが見直され、SAP Cloudの需要が増えているほか、エネルギー系などの今までSAP製品を使っていなかった業種も興味を持ち始めている。
加えて、「2025年の崖」という言葉に象徴されるように、ブラックボックス化してしまったスクラッチのシステムのせいでDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進できないとして、その刷新の対象としてSAPが入るという。
実践を最重視したカリキュラムにより第一線で活躍する人材創出
とはいえ、SAPもトレーニングプログラムを提供しており、“純正”のトレーニングプログラムとNTTデータGSLのSAPトレーニングプログラムは何が違うのだろうか。
NTTデータGSLのSAPトレーニングプログラム最大の特徴は、知識に加えて、現場に役立つ実践的な知識の習得を最優先にしている点だ。カリキュラムは、実践に必要な知識を網羅したうえで模擬プロジェクト演習において経験することを目的としている。
受講生の中には、IT知識・経験のない管理業務経験者や公認会計士という経歴の参加者もおり、IT未経験者という意味では新卒採用者も対象となるという。そうしたSAP未経験者でも同プログラムを終了することで、プロジェクトタスクや専門用語の理解が深まり、プロジェクト内でのOJTを効果的に進められるようになるとのことだ。
例えば、模擬プロジェクト演習では、想定顧客に対して、要件定義から実装、テストを行い、顧客役となった講師が理解できるようプレゼンテーションを行うまでの業務を実践さながらに演習する。
プログラム開講以前は、短期間の座学を受けたあと実際の現場でOJTに臨んでいたが、座学だけではSAPシステムの本質的な部分を理解できず、うまく対応できないケースが多くあったという。
しかし、模擬プロジェクト演習で時間をかけて業務内容を学習することで、SAPシステム固有の専門用語や機能、プロジェクトマネジメント手法の基礎が身につき、修了後に実際のプロジェクトにおけるOJTや先輩社員のサポート業務をすぐに開始できるようになったそうだ。
実際、受講者は問題が起こらない状態でプロジェクトに入れており、同プログラムの成果は上がっているといえる。また、満足度調査では5点中4.8点と、受講者の満足度も高く、「模擬プロジェクトで知識を定着できる」「流れていってしまった知識が身につく」といった意見が上がっている。
なお、同プログラムの受講中はほとんど通常業務を行えないため、SAPシステムの導入プロジェクトに従事している経験者のうち、スキルの定着化や学び直しを希望する人にとっては、受講のハードルが高いという声もあるという。
そのため今後は、通常業務を行いながらでも参加できる経験者向けのコースの開設も検討し、さらなるSAP人財の創出・スキルアップを図っていく計画だ。


