京都大学(京大)、兵庫県立大大学、大阪大学(阪大)、ローム、科学技術振興機構(JST)の5者は7月3日、Beyond 5G/6Gでターゲットとされる「テラヘルツ電磁波」(テラヘルツ波)を利用するためのキーデバイスである「半導体テラヘルツ発振器」において、「共鳴トンネルダイオード」を用いた小型の半導体テラヘルツ発振器から放射されるテラヘルツ波の波形計測と制御に成功したと共同で発表した。

同成果は、京大大学院 理学研究科の有川敬助教(現・兵庫県立大大学院 工学研究科 准教授)、同・田中耕一郎教授(京大 高等研究院物質-細胞統合システム拠点 連携主任研究者兼任)、阪大大学院 基礎工学研究科の西上直毅大学院生(研究当時)、同・冨士田誠之准教授、同・永妻忠夫教授(現・阪大 産業科学研究所 特任教授)、ロームの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

  • 半導体テラヘルツ発振器から放射されたテラヘルツ波の振動電場波形

    半導体テラヘルツ発振器から放射されたテラヘルツ波の振動電場波形。数ピコ秒周期の超高速振動波形が変化する様子が捉えられた(出所:京大プレスリリースPDF)

現在、スマートフォンなどの移動通信システムでは、第4世代(4G)が主流で、第5世代(5G)が徐々にその利用範囲を拡大しており、次世代の6G(Beyond 5G)の研究開発も進んでいる。

Beyond 5G/6Gにおいて、5G以上の超高速・大容量通信を実現するために欠かせないとされるのが、テラヘルツ(THz)周波数帯の電磁波の利用。テラヘルツ波は、およそ0.1THz(100GHz)~10THzという、電波と光の中間領域の周波数を有する電磁波のことをいう(可視光や赤外光などの光も、電波も波長が異なるだけですべて電磁波である)。テラヘルツ波は、電波の透過性と光の直進性を併せ持つのが特徴だ。

このテラヘルツ波を利用するため、現在、キーデバイスである小型の半導体テラヘルツ発振器の研究開発が活発化している。ところが、オシロスコープなどの電子計測器では、このような超高速振動を観測することができず、その振動波形(位相)を計測し、制御することが困難なことが課題となっていた。電磁波の位相の様子は無線通信において情報伝達に利用できるほか、位相制御を行うことで、ビーム走査を実現することも可能だ。しかし位相を計測し、制御する技術が未発達なため、テラヘルツ発振器ではこれらの機能を実現できていないのが状況である。そこで研究チームは今回、光技術を応用することでそれらの課題の解決を試みることにしたという。

光技術を用いたテラヘルツ波の超高速計測技術はすでに確立済みであるが、半導体テラヘルツ発振器に適用することに関しては、これまで不可能とされてきた。その主だった理由は、半導体テラヘルツ発振器の周波数揺らぎにある。そこで今回の研究では、「注入同期現象」を利用することで共鳴トンネルダイオードの発振周波数を固定して揺らぎを減らすことで、放射されるテラヘルツ波の振動電場波形を計測することに成功したという。

なお注入同期現象とは、発振器が外部からの注入信号を受けると、元々の発振周波数ではなく、その注入信号と振動のタイミングである位相がそろい、同じ周波数で発振を起こす現象のことだ。また共鳴トンネルダイオードとは、異なる半導体材料からなるヘテロ接合により形成された2つの極薄のエネルギー障壁層と、その間の量子井戸層から構成される高速動作可能な電子デバイスのことである。

そしてその結果、放射されるテラヘルツ波は注入同期に用いた信号とは逆の位相で振動していることが判明。また、この振る舞いはメトロノームのような力学系の同期現象から生物の概日リズムまで、幅広い同期現象を普遍的に記述する非線形振動子の同期理論で説明できることも突き止められた。さらに、このことを利用し、注入同期に用いる信号の位相を操作することで、半導体テラヘルツ発振器から放射されるテラヘルツ波の位相を制御できることが示されたとした。

今後、位相情報を利用した超高速・大容量無線通信やスマートセンシング技術の実現につながることが期待されるとしている」。